貴方を支えられる人




「お休み中失礼します」
一応断りを入れて
(入れながらでは意味がないかも知れないけどこの際気にしない)
シロエがソルジャーブルーの寝室に足を踏み入れたとき
先客があった。
先程別れたジョミーだ。
寝台の傍らで屈み込むような姿勢。
その頭の近くに、別の顔があった。
(少し、顔が近いような・・・?)
そう思った途端ジョミーは撥ねるように此方を向いた。
「シロエ!?」
ジョミーは叫んで慌てながらソルジャーブルーから離れる。
「また会えましたね」
言いながら近づいていくとジョミーの顔がはっきり見える。
空調は効いている筈なのにどことなく赤くなっていた。
「どうしてここに・・!?」
「ソルジャーブルーに会いに、です」
どことなく挙動不審なジョミーに正直に訪問理由を述べた。
するとジョミーはいつもの様子に戻ったが、疑問符が浮いた。
「ブルーに?」
「ええ、僕はまだ見かけたことすらなかったので」
その言葉に納得がいったようにジョミーは頷く。
「ブルーはなかなかこの寝床を離れられないからね」
「はい、なので一度此方からお会いしに行こうと思いまして」
「そうなんだ」
(本当はジョミーを支えられる人というのが気になったんです)
ジョミーの反応が見てみたくて
そう言ってみたいと思ったが、今は止めておく。
代わりにという訳ではないがブルーに視線を向ける。
顔は知らないがこの部屋にある寝台で眠っているのだから
彼が件のソルジャー・ブルーだろう。
(まるで物語のお姫さまみたいだ)
とても美しい容姿をしている上に、
魔法で眠らされて時を止められたかのような寝顔。
「寝てらっしゃるんですね」
「うん、でも今は眠ってはいないよ」
「それは・・・どういう・・・?」
問うようにジョミーに視線を向けるが、
彼からの回答より先にその疑問は第三者によって答えられた。
『初めまして、シロエ』
聞こえたのは耳にとても心地の良い声。
「え?もしかしてソルジャー・ブルーですか?」
慌ててソルジャーブルーに視線を戻すが、彼は目を閉じたまま。
『その通りだ。こんな形での挨拶なのを許して欲しい』
こんな形というのは、寝たままの姿でということだろう。
「とんでもないです」
『君のことはジョミーからよく聞いている。
 無事この船に辿り着き、ミュウを受け入れてくれてありがとう』
「此方こそ助けていただいて、ジョミーにはとても感謝しています!
 僕は一度彼の手を拒んだのに・・・・」
「シロエ、それは・・・・君が本当に両親が好きだったというだけだよ」
『ジョミーは君をずっときにしていた』
「ちょっ・・」
何を言いだすのかとジョミーは慌てた。
だがブルーはそのまま言葉を続ける。
『助けられなかったと落ち込んでいたよ』
「ブルー!」
もう一度ジョミーは止めさせようと名を呼ぶが意味がない。
『だからこそ、君が今また現れて彼の手を取ってくれたことを
 僕はとても感謝している。
 先のステーションへのコンタクトは失敗に終わったが
 君を助けられたことでジョミーは救われている』
「ブルー・・・」
そこまできて漸くジョミーはブルーの言いたかったこと理解した。
「本当に!?」
ブルーの言葉を聞いてシロエは勢いよくジョミーを振り返る。
「うん、僕のやったことが無駄だけで終わらなくてすんで
 とても嬉しいよ。
 コンタクトを試してよかったって思えたから」
「僕でジョミーの役に立てたならとても嬉しい!」
シロエは飛びつくようにジョミーに抱きついた。
「うわっ」
勢い余ってジョミーは蹌踉ける。
「ごめんなさい・・・」
「だ、大丈夫だよ」
しおらしく謝るシロエを離しながらジョミーは木賃と立ち直した。
「えっと・・・そろそろ部屋に戻らないと」
「あ、そうですね」
ジョミーの言葉に頷いてシロエはブルーを振り返る。
「じゃあソルジャーブルー、今日は有り難うございました。
 お休みなさい」
『おやすみ、シロエ』
「ジョミーも戻るんでしょう?」
「そうだね、もう戻るよ」
言った途端
『ジョミー』
と呼ぶ声が聞こえた
シロエには聞こえていないようなので
敢えて自分だけを指定して思念を送ってきたらしい。
『なんですか?』
同じようにジョミーもブルーだけに聞こえるように返す。
すると少し苦笑交じりの言葉が頭に響く。
『おやすみのキスは?』
くれないか?と問われてジョミーは躊躇った。
『でも・・・・』
先程、まさにそれを為ようとした時にシロエがやって来た。
ちらりと横を見下ろせばそこにはこちらに眼を向けたシロエ。
「どうしたんですか?」
「その・・・」
「ああ、もしかしておやすみのキスですか?」
「え?」
「いえ、実はさっきのはそれだったんじゃないかと思って・・・」
違ったらすみません。と言いながら言葉を続ける。
「でも、もしそうなら照れなくてもいいんですよ。
 僕もよくママにやってもらいました」
母親を思い出したのか少し寂しそうな顔がそこにあった。
「シロエ・・・」
「でもミュウがそんなにスキンシップが好きな種族とは知りませんでしたよ」
ちょっと違う。と思ったが今はその誤解に甘えよう。
ジョミーはブルーのベッドの傍らに膝をついて座り込むと
まずその手をとり、まるで物語の騎士のように口付ける。
その後腰を浮かせると今度はそっと頬を両手に包んで顔を寄せた。
額と両頬に軽く触れるキスを落とす。
そして名残惜しげに手を離すと、残念がる思念が届いた。
『我慢してくださいよ、シロエがいるんだからこれが限界です』
『わかっているよ。今日は仕方がないからね』
「ねえジョミー」
「何だい?シロエ」
「僕もキスしていいかな」
「え?」
「なんだか見ていたら懐かしくて・・・
 僕も昔みたいに誰かにおやすみのキスをして欲しいなって・・・。
 でもソルジャーブルーは寝ているから
 こちらからするしか出来ないけど・・・」
「その・・・それは・・・」
ジョミーは素直に頷けなかった。
ブルーに誰かが触れるのが少し嫌だと思ってしまったから。
でも嫌です、とはいえない。
何故?と問われても答えられないからだ。
だがジョミーの困惑をシロエは別の形で捕らえたようだった。
「ああ、そうか。
 今のソルジャーはジョミーだもの。
 ソルジャーブルーにするのはおかしいのかな、もしかして」
「え、あの・・・」
「じゃあジョミーがしてくれる?」
見上げてくる瞳は子供のような輝きを宿している。
たかがお休みのキスを気にするのが馬鹿らしく思えた。
「・・・いいよ」
ジョミーは微笑んで頷く。
『ジョミー・・・』
が、ブルーの呼びかけが聞こえた。
赤良様に不快を含んだ思念だ。
『おやすみのキスですよ、問題ないでしょう?』
ジョミーは少し屈んでシロエの額に唇を寄せた。
やさしく、昔母がしてくれたように口付けを落とす。
「ありがとう、ね、僕もしていいかな?」
無邪気な反応にジョミーはくすりと笑って頷く。
「いいよ」
『・・・・・・』
ブルーの思念が何か言いたげだが、
大人として我侭は言わないと決めたのか
特に言葉は伝わってこなかった。
「じゃあ、貴方の方が背が高いから座ってもらってもいい?」
ジョミーは言われるままに膝を折った。
「これで良いかい?」
「ええ」
頷いてシロエはジョミーの頬に触れる。
「ソルジャー・・・戦士なのに、肌綺麗ですね」
『・・・・・・』
その言葉に真っ先に反応したのはジョミーではなくブルーだ。
『ブルー・・・』
自分が反応するタイミングが奪われたせいでジョミーはいやに冷静になり
大人げないブルーの反応をたしなめる。
『・・・分っているよ』
現実の言葉ならおそらく溜め息交じり、といった感じでブルーは黙った。
そこでジョミーは漸くシロエに向かう。
「シロエ、からかわない」
少し脱力してジョミーは呟いた。
「からかっている訳じゃないんですけど・・・
 まあ、いいや」
あっさりとシロエはそれ以上言うのをやめた。
先程のジョミーをなぞる様にまず額に。
次いで頬に唇で触れる。
それで終わり。
と思っていたジョミーは次の行動に驚いた。
本当に触れるだけ。
ちゅっと軽く音を立てて触れただけだけど・・・。
唇に、キスが触れた。









コメント***
途中からシロエは確信犯です。
最初からブルーにキスする気はなく
ああ言い回せばジョミーにして貰える
というところまで頭を回しています。
素直で無邪気でも頭の回る策略家ですから(笑)
さて、ブルーはこの状況にどう反応するのか!
というところで続きます・・・(ゴメンナサイ)