貴方を支えたい
星空を見上げてシロエは溜息を吐いた。
安堵か、それとも別の何かか。
「どっちでもあるよな」
マザーの手から逃れられた事への安堵。
迎え入れられて間もない自分を受け入れようとは
してくれているらしいミュウ達。
ピーターパン・・・本当の名前はジョミーというらしい。
彼に会っていたから、怖いとは思わなかったし
力は目覚めていたから、彼らもすぐに仲間と認めてくれた。
居場所はちゃんと出来た。
その事にも安堵している。
でも何かが違う気がする。
どうしても彼らとの間に違いを感じて仕方がない。
そして気付いた。
絶対的な違和感はジョミーに対するものだ。
彼を長としているのに「ソルジャー」という響きが
何処かぎこちない時がある。
僕はその感情がどうしても受け入れられなかったんだ。
彼が大好きで、彼なら助けてくれると思って
そして彼は本当に僕を助けてくれた。
ソルジャー・・・というかヒーローだ。
姿の変わらないピーターパン。
彼は約束を違えない。
ネバーランドと其処に暮らす子供たちを守ってくれる。
いつも先頭で戦っていて、
皆彼が戦うのが当たり前だと思っていて
ピーターパンを守ってくれる人はいなくて。
僕もそういうものだと思っていた。
でもそれは物語の中だけだ。
理想を描ける物語と違って、ジョミーは現実だ。
力があり、長である彼が先頭で戦うのは良い。
でも彼だけに任せてはいけないんだ。
心で戦うミュウならば尚更。
本当は彼を受け入れて彼を後ろから守らなければならない。
なのに、自分たちが弱いのを言い訳に
ジョミーに全部押し付けて、そのくせ何かあれば彼のせいにする。
僕はそうはならない!
吐いたため息を吸い込んだ。
(僕はジョミーを守れる存在になってみせる)
「シロエ」
覚悟を決めたところに、件の人物の声で呼びかけられて
驚きと喜びがあふれた。
「ピーター・・・じゃなくてジョミー!」
言った瞬間ジョミーの後ろでリオが微妙な顔をしたので
シロエはさらに言い直す。
「・・・でもなくてソルジャー」
「あまりに気にする事じゃないと思うんだけど・・・」
「いいえ、形は大事です。
それに僕はジョミーを尊敬していますから
ソルジャーと呼ぶことに抵抗はないですよ」
少し気恥ずかしそうなジョミーに
笑いながらわざとらしい敬語で注意をする。
「言葉もそんなに堅苦しくしなくてもいいのに」
更に参ったと言わんばかりのジョミー。
彼の反応が楽しくてそのまま続ける。
「やはり形で。
人前では『ソルジャー』に対する態度でないと」
「そう?」
『そうですよ、ソルジャー』
僕の意見に同意するリオ。
彼もジョミーが大事なのだろう。
「まったく、リオまで」
お手上げだとジョミーは溜め息をついた。
僕とリオはその様子に笑ってしまう。
「二人揃って僕をからかってたのしいか?」
「そんなこと言えませんよ」
『全くですね』
「それって、YESと言っているようにしか取れないけど・・・」
「さあ、どうでしょう」
少し膨れたようにした後、ジョミーは真顔に戻して微笑んだ。
「でも馴れてきているようで良かった」
「あ・・・はい。貴方のお陰で」
言うとジョミーはシロエの頭を軽く撫でた。
「いや、受け入れられることや環境に馴れることができるのは
君自身の力だよ。自信を持つといい」
縮まった筈の身長差はまだ遠くて少し残念だが、
ジョミーの優しい手に撫でられるのは心地よくて嬉しい。
(追いつくまでもう少し甘えても許されるかな・・?)
「はい!」
撫でられるままにシロエは素直な子供のように頷いた。
「頑張ってね」
言いながら手が離れて行くのを少し残念な気持ちでシロエは見送る。
「じゃあリオ、僕は行くから」
『はい、じゃあ私も仕事に戻ります』
「じゃあシロエ、またね」
ジョミーは笑顔を一つ残して少し足早に歩き出した。
『では私も』
ジョミーの姿が見えなくなる迄見送った後、
そう踵を返そうとするリオを慌ててシロエはとめる。
「まって!」
『どうしました?』
「リオさんに聞きたいことがあるんです」
『リオで良いですよ』
「じゃあリオ、ジョミーはどうしてあんなに強いんだろう」
単刀直入。
だがリオは真面目に考えてくれる。
『もともと彼はとても強かったですから・・・
どうやってあのように育ったのかは解りかねます』
判る者がいるとしたら恐らくこの船にはひとりだけだ。
だがシロエが聞きたいのはそう言う答えではない。
「そうじゃなくて、力は生まれつきかも知れないけど
心が強くあり続けられる理由。
それが判れば僕は彼の役に立てるようになれるかも知れない」
彼の役に立ちたいという思いを理解してくれたのだろう。
リオは優しい笑顔を浮かべた。
『そうですね、強いて言うなら
”とても優しい”ことでしょうか』
「やさしい、か・・・・」
『はい、彼はいつでも”守りたい”と言う思いを抱いています』
守りたいから強くなれる。
確かにミュウならそれもアリだろう。
『あとは・・・強くある為の心の支えがあるからでしょう』
「支え?」
シロエは何故かぎくりとした。
しかし僅かなそれはリオには伝わらなかったようだ。
シロエの疑問符に応えてジョミーの心の支えについて説明を追加した。
『ええ、彼は先代のソルジャー・・・今は静養なさっていますが
彼から引き継いだ思いと記憶と意思。
それを果たすという目標がありますから
優しく負けん気の強い彼なら
それが果たされるまで挫けることはないでしょう』
その言葉を聞いてシロエは何故かショックを受けた。
「先代の、ソルジャー」
何度か耳にした。
美しく強く、ミュウ達を300年纏めててこられた程の人物だと。
それがジョミーの支えになっていることにモヤッとしたものが拡がる。
「やっぱり、その人凄いの?」
『ソルジャー・ブルーは、そうですね・・・。
本人が拒否して、周りも反対するものだらけの中で
ジョミーをミュウの長に仕立て上げられる程ですよ』
「拒否したジョミーを説得!?」
『ええ』
意思力の世界ならそれは物凄いことなのでは・・・・。
それともジョミーを説得できるほどの何かを持っていたのだろうか。
「会って、みたいな」
ぽつりと漏らした呟きに、リオは少し考える。
『そうですね、大体はお休みになられていますけど・・・・』
「会うのは難しい?」
『後で行ってみますか?』
「会うのが可能なら今行く!」
矢も盾もたまらずシロエは走り出した。
艦内の情報はもう知っている。
目的の場所はそんなに遠くない。
『えっ?あ・・だ、駄目ですよ今は・・・・』
後ろの方でリオが思念を荒げていたが離れていくほどに聞こえなくなった。
(だって、気になるよ)
ジョミーの心に影響できるだけの人が。
コメント***
初めてしまいました”もしも”設定・・・・。
シロエはジョミーが大好きです。
まだ恋愛感情までは発展していませんが
このまま行くとあっという間に成長してしまいそうです。
が、私がブルジョミを基本とする人間なので
その場合
ブルジョミ←シロエになると思います。
サイトがそう言うサイトなので許してやって下さい。
リオはいつでもいいお兄さんです。
進