貴方に触れる人
ジョミーは一瞬真っ白になっていた。
『ジョミー』
ソルジャーブルーに呼びかけられてはっとした。
「シロエ!?」
慌てて口を両手で押さえながら叫ぶ。
「柔らかそうだったので、つい」
「つい、じゃない!」
「やだな、子供の悪戯じゃないですか。怒らないで下さいよ」
「っ・・・・・」
そう言われると返す言葉がない。
ジョミーは溜息を吐いた。
「もうこんな悪戯はしないでね」
子供に言い聞かせるようにジョミーは優しい目で注意した。
「わかった。もう悪戯はしないよ」
シロエも素直にそう頷く。
(悪戯は、ね)
その言葉に隠れて飛ばされた思念にジョミーは気づかなかったが
ブルーは気づいてしまった。
『シロエ』
「はい、何ですか?ソルジャー・ブルー?」
気付いたことを分っているような笑顔。
ブルーはシロエがどういう相手なのか漸く理解した。
聞かされていたシロエはジョミーの主観が入っていたものだったから。
『少しジョミーと話があるのだが、良いかな?』
「わかりました。じゃあ僕は部屋に戻ります」
そう言ってさっさと部屋を出てしまった。
「話ってなんですか?」
シロエを見送った後、ジョミーは振り返る。
そしてとんでもないものを見た。
ブルーが寝台の上で身を起こしている。
「何やってるんですか、寝ていないと!!」
ジョミーは慌てて駆け寄る。
寝かしつけようと肩に置かれた手をそのまま引っ張り
勢いを利用してジョミーを寝台に引き入れた。
倒れ込んだ身体を逃がさないように自分の体重を使って肩を押さえる。
ここまで来ればブルーが何をしようとしているのかジョミーに分るはずだ。
『ジョミー』
名を呼びながら顔を寄せ、唇で触れようとする。
「駄目!」
だがジョミーは慌てたように両の手で顔を覆い拒否してきた。
否定されるとは思っていなかったブルーは少なからずショックを受けるが
ジョミーから伝わってくる思念が自身を情けないと思っているものなので
自分が拒否されたのではないと分って安堵する。
『何故?』
嫌ではないのにどうして駄目なのか。
「だって・・・・」
『だって、何だい?』
問いかけながら顔を覆う手に口付ける。
くすぐったそうに手がピクリと動く。
だがジョミーは意地でも手を離さない。
『貴方とシロエが間接キスになってしまうから』
耳を真っ赤にしながらそう伝えてくるジョミー。
『・・・・・・』
ブルーの思考が一瞬停止する。
これは・・・。
(予想外だ)
独占欲丸出しの行動が自分で情けないのだろう。
だからと言ってそれを押さえることが出来なくて。
(かわいい)
ジョミーへの愛おしさがあふれ出てくる。
『でも駄目だよ』
独占欲を露にしてくれるのは嬉しいけど。
言ってジョミーの手に舌を滑らせた。
『ブルー!』
『君は僕の目の前で、間接どころか直接キスしたのだから』
(僕も独占欲は強いんだよ)
言葉とは別に、でもちゃんと伝わるように思いを込めた。
『あれは不可抗力で・・・・』
ジョミーは躊躇いがちに言い訳を述べる。
『額と頬は違うだろう?』
『それは・・・その・・・・』
独占欲が強いということは、つまり
シロエがブルーに触れることを嫌だと思ってしまったジョミーと同じように
ブルーもジョミーに触れられるのが例え挨拶でも嫌だったということ。
ジョミーは言葉が出ない。
『手を退けるんだ』
『・・・・・・』
気持ちを理解できるからと言って、
自分の気持ちを抑えられるくらいならこんな事とになっていない。
『仕方がない子だ』
言って手を退けるのを諦めた。
その気配を理解してジョミーは安堵した。
が、すぐに慌てる。
『ちょっ・・・何やってるんですか!?』
ブルーがジョミーの服を脱がせにかかっているからだ。
「ブルー!」
『キスをさせてくれないなら他のところにキスしてしまおうと思って』
「やっ・・駄目です!止めて下さい!!」
慌てて両手を使ってブルーを止めようとすると、その手が捕られてしまった。
『やっと手を離したね』
「あっ・・・」
やられた!と思うときにはもう遅い。
ブルーの赤い瞳が目の前にある。
不意に、ジョミーは状況を忘れて切なくなった。
どれくらいぶりだろう。
この赤い瞳を見るのは。
「ジョミー」
この優しい、肉体の声が自分を呼ぶのは。
泣きたい気持ちになる。
いつも見ていた。
いつも会っていた。
いつも話をしていた。
いつも、自分から・・・・。
涙腺が弛む。
(嫌だ、泣いたら見えない)
涙になんか邪魔されたくない。
そう思っていると目尻にブルーの唇が触れた。
溢れそうになる涙をその舌が絡め捕る。
反射的に目を瞑ってしまって見えないけれど
そうさせたのがブルーならば触れる体温も嬉しい。
額に口付けられた。
頬と、唇。
この人が自分に触れることがこんなにも嬉しいなんて。
いつの間にか解放されていた手をブルーの背に回す。
間接キスがどうこうなんてもうどうでもいい。
もっと触れたい。
触れて、欲しい。
「ブルー・・・ブルー!」
縋り付くようにブルーを呼び、背に回した手に力が籠もる。
ジョミーの思いに答えるようにブルーもジョミーを抱きしめる。
「ジョミー」
もう一度名前を呼び、唇を重ね合わせる。
そして、接吻る。
時間は分らない。
それは差して重要でもない。
名残惜しげに触れた唇が離れる。
目を合わせ、もう一度だけ触れ合う。
それで、終わり。
ジョミーはベッドを降りると服装を整えた。
ブルーも再び身体を横にしていた。
「それじゃあ僕は戻ります」
『ああ』
「おやすみなさい」
挨拶して踵を返そうとするジョミー。
『ジョミー』
ブルーは挨拶を返すのではなく、呼びかけた。
「まだ、なにか?」
『お休みのキスを』
言われてそう言えばそんな話題だったと思いだす。
「まったく、あなたは」
ジョミーは苦笑してしまう。
『嫌かい?』
もちろん、嫌だからした苦笑ではない。
「これが返事ですよ」
言ってジョミーは軽くブルーにキスを落とした。
「おやすみなさい、よい夢を」
『おやすみ、よい夢を』
コメント***
一瞬、裏行きかと思いましたが寝たきり老人ブルー様に
そんな体力はないような気がしたのでキス止まりになりました。
そして無駄にバカップルっぽいです。ベッドの上でイチャコラ。
本当はもっとこう、ブルーVSシロエのようなモノを期待したのですが
ジョミーが鈍感なうえにブルー大好きオーラを発散しまくっていて
更にシロエもまだ発展途上なので今回は諦めました。
これだと、シロエはバカップルにおいしい状況を与えただけ・・・?
続くならシロエにはブルーをぎゃふんといわせようと頑張ってほしい。
ブルーは歳の分だけキースよりも難攻不落そう・・・・。
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