貴方が思うよりずっと大きな





「じゃあ食べようか」
ジョミーは笑顔でシロエの前に座った。
ジョミーが頼んだように、そこには冷めても美味しく頂ける
サンドイッチやサラダなどが置かれていた。
「あの・・・」
「うん?」
「これは・・・」
「ピクニックみたいで楽しいだろう」
場所が場所だけど。
と付け加える。
場所、は・・・シロエがこもっていたシステムルーム。
そこの床に布を広げて座っていた。
「いえ、そう言うことじゃなくて・・・」
「まあとにかく食べながらにしよう」
ジョミーは有無を言わさずシロエにサンドイッチを差しだす。
シロエは勢いのままに受け取ってしまった。
ジョミーを見ると食べるのを待っている瞳。
それに負けて、取り敢えずひとくち口にいれた。
少し時間が経っているのか、パンがぱさつきはじめているが
まだ充分においしい部類だ。
シロエが食べ初めると、にっこりと笑って頷いた。
「ねえ、シロエ」
ポットに入ったお茶を注ぎながらジョミーは話しかける。
「はい」
口に含んでいたサンドイッチを飲み込んでシロエは返事をする。
「ご飯て、美味しいだろう?」
「は?まあ、そうですね」
「食べるって言うのはね、心の栄養にもなるんだよ」
言いながら、注いだお茶をシロエに渡す。
「ミュウは体の弱い心の生き物だから・・・
 シロエは多分僕と同じで体は健康なほうだと思う。
 少しくらい無理しても、平気なのかもしれない」
シロエは返事をしない。
この言葉はまだ続くものだと理解しているから。
「でもね、ミュウであろうと人であろうと
 栄養は必要だし、心の癒しも必要だ」
こくりとシロエは頷く。
それは理解している。
栄養は・・・固形食料だがちゃんととっているし、
心は、ジョミーの役に立っている、と言う事実だけで
十分だと思っていた。
だが、本当のところそれでは足りないと・・・
人のぬくもりを求めることで、つい先程
自覚させられてしまったばかりなので否定も出来ない。
「きみが、システムを作り上げるまでに
 何度サイオントレーサーネットワークに引っかかろうと
 シャングリラを守るくらいの力はあるよ」
ジョミーはにっこり笑う。
「期限付きだから、思いっきり力が使えるしね」
「それは・・・」
シロエの呟きに、ジョミーは言葉を続ける。
「シロエが作ってくれるまでの期限付き。
 そう思うと心配事が少し減るから、力も使いやすい」
どこまで続くか分からないときは
どんなことにも対応できるように、
状況から分からないながらも力の配分をしなければならない。
だがいつまでか分かっていれば、振り分けにも心配が要らなくなる。
「ほらこれも食べてごらん」
それはシロエの母が得意だったもの。
「ブラウニーだ」
「きみのママのほどじゃないかもしれないけどね」
「いえ」
「そういえば、あの時は一緒に食べられなかったね」
「!」
シロエは飲んでいたお茶を吹きそうになる。
「あれは!」
ジョミーに返してもらったジョミーが消した記憶。
シロエを助けようとやって来てくれたピーターパン・・・
ジョミーの言葉を信じられずに追い返したのだ。
夢の中で。
「あのときは、貴方がいきなりママのことを忘れる
 なんて言うから・・・」
せめて、悪い大人がママの思い出を奪おうと襲ってくる、
的な表現だったら、もう少しマシな反応が出来たのではないかと
シロエは思ってしまう。
(まあ、反発してしまったのは事実ですけど・・・)
「でも、あの時素直について行かなくて良かったですよ」
「どうして?」
「そのお陰で、こうして貴方の役に立つ知識を得られたから」
言って、お茶を最後まで飲み干した。
「すこし、出歩いてみようか」
「でも・・・」
「身体が鈍るよ?」
ジョミーの言葉にムッとして、シロエは出歩くことを了承した。






「何か意味があるんですか?」
出歩いたのは”少し”所ではなかった。
町一つはすっぽり入るほど大きなシャングリラの端から端まで歩かされた。
無意味にこんな風に端から端まで歩かされるとは思わない。
運動不足だからという理由だって、通用しない。
それなら公園などで構わないはずだ。
それなのに、ジョミーはシロエをそれだけ広い範囲連れ回した。
だから、きっと理由が有る。
そう思って、シロエは訊ねた。
その問いに、ジョミーは笑顔を向ける。
「自分の守っているものの大きさを知るとやる気が出るだろう?」
言われて納得する。
今シロエが作っているシステムが、何を守るのか、
それを見て欲しいと連れ出したのだと。
シロエは、だがおかしそうに笑みを零した。
「残念ですが、ぼくはもっと大きなものを守ると決めたばかりなので
 船の大きさを知ったくらいでは何も変わりませんよ?」
「そうなの?」
「ええ」
ジョミーは驚きと、少し好奇心の混ざった表情でシロエを見る。
「知りたいですか?」
「教えてくれるの?」
期待を込めたジョミーの瞳。
「そうですね、どうしようかな」
つい反応が楽しくて、少しからかってみる。
「そこではぐらかさなくても・・・」
少し拗ねた様に言われて、それを何処か嬉しいと思ってしまった自分に、
シロエは苦笑してしまう。
「なんてね。
 太陽ですよ。
 凄く大きくて明るくて強い。
 それなのにその太陽はいつも、厳しすぎない優しい光をくれるんです。
 甘すぎるかもしれない優しい太陽が、自分の中に厳しさを溜め込みすぎて
 その存在の光を失わないか心配になる・・・。
 だから、その太陽を守りたいんです」
「成程・・・太陽か。
 確かにシャングリラよりも余程大きいね。
 しかも優しさだけをくれる太陽なんて確かに少し心配だ」
太陽はその光と熱の強さから、望むと望むまないと
良い影響以外のものも与える。
それなのに優しさだけ、ということは太陽が無理をしているのだ。
自らのエネルギーを押さえつけ、必要なだけ与える。
そんな太陽があったら、あっという間に力尽きてしまいそうだ。
シロエが心配になるのもわかる。
「そうでしょう?」














コメント***

なにか長々と引き摺っています。
そういえば前回、通りすがりの誰かに食べ物頼んだなあ・・・
と言うことで、折角なので食べてもらいました。
折角なのでピクニックみたいにお弁当を広げてみました。

太陽さんが自分でシロエの太陽さんだと気付かない・・・。
ので言いたい放題。
『心配になるね』と言っているのはじつは自分のこと・・・。
・・・ジョミーはじつは鈍い子なのかもしれない・・・。

ほのぼの調でしたがそろそろシリアス展開に戻ります。