貴方を守るから
「その食事は?」
ジョミーは整備士の一人が手にした食事を見て問いかけた。
何故なら、どう見ても冷たい食事は
本来温かい状態で食べるのが美味しい物だからだ。
それなのに冷えた状態で持ち歩いているということは
持っている本人が食べることが出来なかったか
あるいは別の誰かが食べなかったからと考えられる。
持っている本人は、特に顔色などに問題はなさそうなので
恐らく後者だろうと中りをつけて尋ねたのだが
間違ってはいなかったようだ。
相手から答えが返ってきた。
「ああ、あいつの分です。
篭りっきりでほとんど食べやしない」
"あいつ"というのが誰を示すのか、
ジョミーにはすぐに分かった。
自分の"頼み"を聞いてから数日が経過している。
一度も"彼"に顔を合わせていないからだ。
「どれくらい食べてないんだ?」
「固形栄養食は時折つまんでるみたいなですが・・・」
つまり、食事をしている様子は全くと言っていいほど
見ていないということだろう。
「それでは体によくない」
固形栄養食はあくまで栄養バランスを賄うものであり
緊急時のエネルギー接種用だ。
それ以外では基本的にシャングリラでは『食事』をするようにしている。
『食べる』というのは栄養補給以外の面においても重要なことなのだ。
「もう一度、冷めても美味しく食べられそうなものを
調理場からもらって来てくれないか」
「それはかまいませんが・・・」
「頼むよ。僕はシロエのところへ行く」
シロエは勢いよくキーを叩いていた。
次々にディスプレイに浮かび上がる文字の羅列。
その一文字一文字が今作ろうとしているシステムの要だ。
実行するために必要な機体は出来上がっている。
プログラムを作り上げれば、起動できるのだ。
("ジョミーが連れて来た僕"が頑張るんだ)
自分が頑張ることで、ジョミーへの信頼が上がるのなら、
失敗も出来ないという、追い込みもあるけれど
そんなものが気にならないほど、やる気が沸いてくる。
「ここを、こう・・・」
また一つプログラムを組み終わって、シロエはほうっと息をついた。
目を少しこする。
ディスプレイばかり眺め続けていた所為で目が悲鳴を上げている。
あと少しと思うと、どうしても無理をしてしまいそうになる。
「少し、休むか」
このままでは逆に効率が悪くなる、と判断して
少しだけ休むことを決める。
シロエはキーパネルから身を離して椅子に寄りかかった。
誰かが近づいてきたような気がした。
微睡みの中にいると、現実なのか、そうでないのか、分からない。
微かにある意識の先端だけで事の成り行きを見守る。
近づいてきた誰かが、声をかけてくる。
(こんなところで寝ていると、風邪を引くよ?)
ジョミーの声のような気がする。
だが、ここしばらくまともな睡眠をとっていなかったシロエは
体の欲する休息に負け、目を開けられなかった。
(へいき・・・)
頭の中で返事をした気がする。
すると、苦笑するような響きが伝わってきた。
それと同時に体が宙に浮くような、
逆に下に引かれるような感覚が体に襲い掛かる。
けれど全く怖いとは思わなかった。
感じられる温もりに安心し、より深い眠りに引き込まれる。
ふわりと、体にかかる圧力が消えた。
少し冷えた、柔らかいものが身を包むように乗ってくる。
そして離れようとする温もり。
(まって・・・もう少し・・・)
優しい温もり。
それを掴もうとしたところで、シロエの意識は完全に沈んだ。
暖かい布の感触が手あった。
それを抱き込むようにして、また沈みそうになる意識を
何とか踏みとどまらせ、シロエはゆっくりと目を開く。
見えるのは、作業していた部屋の天井。
まだ頭はぼうっとしているが、寝ていたことは理解できる。
「あ・・・」
(そうだ!)
声を洩らしたことで覚醒した意識。
(起きて、プログラムの続きをやらないと・・・)
そう思うのに体が動くのを嫌がった。
必要な分は寝たと思う。
体が重いわけじゃない。
ただ、この温もりから離れがたい。
(もう少しだけ・・・)
母に抱かれた時のようなそれに、
シロエはもう少しだけ甘えたいと思った。
温もりの残るほうへと擦り寄ると、
ふわりと背中から頭に優しく抱き寄せるように回される手があった。
(・・・・)
シロエは漸くそこで、温もりの正体に疑問を思う。
もう一度目をあけて、己の擦り寄ったものを視認する。
視界の端に写るのは、シャングリラではあまり目にすることがない
特別な人と出会ったときにすぐにそれと分かる色。
もしかして、と少し視線を上にずらせば
少し白めの肌色。
そして金糸の髪。
大好きな、色。
ジョミーが、シロエを優しく抱くように眠っていた。
もう少し、と願ったシロエの想いを受け止めてくれたのだと思うと
シロエは嬉しくて、少しだけ切なくなる。
この優しさは自分だけに向けられるわけではない。
彼は、『ソルジャー』なのだから。
これからも皆の思いをこうして抱きしめていくのだろう。
(・・・・・)
シロエはゆっくりと、ジョミーを起こさないように静かに
ジョミーの腕から抜け出すと、
逆にジョミーを抱きしめるように、優しく腕を回した。
彼が皆を抱きしめるというのなら、
自分は彼を抱きしめる。
そっと柔らかい髪にキスをする。
それから・・・。
(ごめんなさい、ソルジャー・・・)
目を覚まさないジョミーに、心の中で謝罪をし、
唇に、触れるだけのキスをした。
(貴方を守るよ)
誓いを込めて。
コメント***
おそらく、これを書いていたとき・・・
ものすごく眠かったんだと思います。
途中から眠いよ描写が・・・・。
もともとそう言う感じの話にするつもりではあったので
問題はないのですが・・・・・
本当はジョミー視点部分も入れるつもりでいました(爆)。
ものすごく眠い気持ちで読んでいただけるとシロエの気持ちが分かるかも知れません・・・(?)
「貴方〜」シリーズじゃなければタイトルは「まどろみ」若しくは「ゆめうつつ」でしたね。
眠そうではありましたが、ある意味今までの中で一番シロジョミっぽいです。
ここで入れたらあまりに余なので、爺の邪魔は入りませんでした(笑)。
・・・ジョミー視点の部分は短いので余力があれば落書き漫画あたりで・・・。
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