貴方の役に立てるなら
船の損傷部に、ソルジャー・シンことジョミーと
技術者が数名集まっていた。
ジョミーは難しそうな困ったような顔をしている。
それを見かけてシロエはジョミーのもとへ歩み寄った。
「何か、あったんですか?」
「ああ、シロエ」
見ての通りさ、と苦笑しながら損傷部を指差す。
「先の戦闘での損傷なんだけど、最近戦闘が多い所為で
こういう細かいところまで修理が追いつかないんだ」
「見つかる確率が上がってきていますから」
技術者の一人が溜息を零す。
彼らとしてはこういった物だって厳かにはしたくないのだが
優先順位を理解しているから半ば諦めかかっている。
「サイオン・トレーサー・ネットワークを
どうにかできればいいんだけど・・・」
ジョミーも溜息こそは吐かないが少し疲れた表情をする。
「でもあれらは開発されてすぐに量産されて
今は宇宙のあちこちに転がってますよ。
数は増える一方だ!」
「それがどうにか出来るならとっくにどうにかしてますよ!」
八つ当たり気味に別の技術者が叫んだ。
皆、苦々しい顔をする。
そこに似つかわしくない、
あっけらかんと言う表現が似合いそうな声が割って入った。
シロエの声だ。
「サイオントレーサーネットワークね。
何をそんなに悩む必要があるんですか?
ネットワークに引っかからないようにすれば
いいじゃないですか」
その声に、または内容に、苛立ちを覚えた一人が突っかかる。
「簡単に言うな!」
シロエは目をぱちくりとさせた。
簡単だと思ったから、簡単に言っただけだ。
そもそもどうして4年以上も対策を思いつかないのか
疑問にすら思うほどだ。
「ミュウと言うのは少し思念波に頼りすぎて
根本のところを忘れていませんか?」
「なんだと!」
「どういうことだい?」
ジョミーがシロエに問う。
「簡単ですよ。
あれは名の通り思念波の追跡子ですから
思念を使わないシールドを張ればいいんですよ」
呆気に取られている一同に更に説明を加える。
「ステルスシールドの上にもう一重、それをかぶせれば良い
もしくは個々のトレーサーが認知したものを
ネットワークに繋がらないように出来れば良い。
まあ、シールドのほうが手っ取り早いでしょうね」
ほら簡単だ。
とばかりに両手を広げて肩をすくめるシロエ。
「そんなことが可能なのかい?」
疑っているわけではないが、そんなに簡単なのか
疑問に思っているらしいジョミーにシロエ笑顔を見せる。
「出来ないことを、こんなまじめな場所でいいませんよ」
ジョミーの表情が明るくなっていく。
「すごいね、シロエ!
よくそんなことを知っているね」
沈んだジョミーの心を自分が浮上させることが出来たことに
シロエは喜びを覚える。
「僕は技術階級の出身者ですから」
照れるように笑った。
しかしまだ納得できない者もいる。
「でも、あのトレーサーの構造が分からないと
サイオン以外に反応しないかは分からないぞ」
「ああ、大丈夫です。
量産小型化するために必要以上のシステムはつんでいません」
またシロエがすぐに情報を与える。
「どうして分かる」
いくら今迄ステーションにいたからと言って
そういった技術のことまで学ばされているとは思えない。
シロエはまあ当然だと考え、
いずれ知られることになるかも知れない事実を述べた。
「あれを開発したチームの責任者は僕の、父ですから」
その言葉に、一気にその場のシロエに向かう視線が冷たくなる。
「あれの所為で俺達がどれほど苦労したと・・」
怒りを露にしてシロエに掴みかかろうとする腕の前にジョミーが立ちはだかる。
「やめろ!
ネットワークの責任者に育てられたのはシロエの責任ではないだろう!」
誰かを守ろうとするとき、このソルジャーはとても強くなる。
指導者に相応しい覇気を見せる。
力任せではない、だが力強い声と意思が
そこにいた者達を冷静にさせる。
シロエは向けられた背中がとても大きく優しいので
理不尽な非難思念の中、恐れも怒りも湧き起こらない。
それどころか安心してしまうほどだ。
落ち着いた心で成り行きを見守っていると、
此方もソルジャーの言葉に落ち着きを取り戻して
申し訳なさそうに謝ってきた。
「すまない。たしかにお前が悪いわけじゃないんだよな」
「苦労したのは分かりますし、
開発者に育てられたのも事実ですから
気にしていませんよ」
言ってジョミーに向き直る。
「ソルジャー・シン。
貴方が望むのなら僕は思念を使わない物理防御システムを作りますよ」
技術者達からは驚きの声があがった。
顔もそのままのものだ。
自分がそんなシステムを作れるのか、と言うところだろうか。
問われれば「出来ないなら言わない」と返すところだ。
だが、そんな視線は別になんでもない。
シロエにとって大切なのはジョミー。
そしてジョミーの意思と思いだ。
だからシロエはジョミーをまっすぐに見上げている。
ジョミーは少し悩むような表情をした。
「でも・・・」
口から出た言葉もどちらかと言えば否定。
ジョミーにとっても、とてもありがたい申し出ではあった。
シロエがそういうからには可能なことも分かる。
すぐにでもお願いしたい。・・・本来なら。
だがそれはシロエが大好きな父に
反抗すると言うことにはならないだろうかと思うと
シロエに頼むのは酷な気がした。
その想いを正確に感じ取ってシロエは微笑む。
この優しいソルジャーのために出来ることなら何でもしたい。
「僕は貴方を信じミュウとして生きることを決め、
この船に乗った。
過去を大事にしろと言ったのは貴方です。
そしてその過去の記憶を救ってくれたのも貴方だ。
貴方の役に立つなら僕はなんだってする。
そもそもシステムが破られたからって
パパの責任になるわけじゃないですし」
きっぱりと言うと、ようやくジョミーが笑みを浮かべた。
「シロエ、君は強くて優しい子だね。
頼んでも良いかい?」
「もちろんです」
うなづいて、ふと気づいて少し訴えてみる。
「それからソルジャー・・・」
「なんだい?」
「僕と貴方の差は4歳なんですが・・」
「うん、それで?」
知っているよ?と小首を傾げられてシロエは詰まる。
「・・・いや、いいです」
なんとなく膨れ面になりながら、シロエはそう呟いた。
コメント***
またしてもシロジョミになりきらないです・・・。
ジョミーはきっとブルーに
「良い子だね」とか「愛しい子」とか言われてるんだ(妄想)
だから他の子たちを子供呼ばわりすることに
違和感が無さ過ぎて成長した子供達の
『子ども扱いに対する不満』に気づかないんだと・・・。
自分もされているので。
でも300余歳のブルーにされるのと
18歳(シロエ助けてすぐ位だとそんなもの)のジョミーされるのでは
かなり違いがあるような気も・・・。
トレーサーネットワーク、300年もよく開発されなかったなあ・・・
と思う今日この頃。
あれですか、思考が統率されすぎていて発展が遅いとかですかね。
こんなところまでお付き合いありがとうございました!
進