遠い日の約束
「大きくなったねトォニィ」
ジョミーはトォニィを抱き上げた。
「うん、ぼくもう3歳なんだよ」
満面の笑みでジョミーに報告をする。
「そうか、子供は成長が早いなあ」
「早い?」
「すっごくね」
「じゃあ10歳になったらジョミーの背を抜かせるかな」
わくわくと問いかけるトォニィが可愛くてつい笑ってしまう。
「10歳はどうだろう」
だが、笑われたことにトォニィは少しむうっとした。
「じゃあぼくがジョミーの背を抜いたら・・・」
「ああ、そういえばそんなことがあったな」
ジョミーは目を覚ますと同時に呟いた。
懐かしい幸せな、平和だった頃の夢。
「トォニィももう10歳か・・・」
こんな些細な約束を、覚えているだろうか。
今、彼らに"甘えること"を覚えさせてはいけない。
けれど・・・。
「約束したからな」
ジョミーは寝台から起き上がった。
『トォニィ』
『何、グラン・パ!?』
ジョミーの呼び出しがかかったことに、
トォニィは思い切り喜ぶ。
(こういうところは、本当に昔から変わっていないな)
『少し、いいか?』
問えばすぐに頷く。
『貴方のためならいつだって問題ないよ!!』
『なら、悪いが公園まで来てくれ』
『公園?』
珍しい場所に呼び出すものだ、と思いながらも
トォニィはすぐに跳んで行った。
「なに、グラン・パ?」
「ああ、大したことじゃないんだが」
言いながら、ジョミーは屈んでトォニィに背を向ける。
「ジョミー?」
珍しく、トォニィにはジョミーの意図が全く見えない。
「ほら」
「ほら、って・・・」
その格好から見るに、背負われろと言われている気はするのだが、
まさか、と思うと動くことが出来ない。
「どうした?」
「どうしたって・・・ジョミーこそどうしたの?」
いつもと違いすぎる。
だが、ジョミーは何でもないことのように理由を述べる。
「別に?ただ約束を果たそうと思っただけだが・・・?」
「約束?」
「前に10歳の頃はまだぼくがおんぶしてやると言っただろ」
「へっ?」
『じゃあぼくがジョミーの背を抜いたら、
ぼくがジョミーをおんぶする!』
『なら、10歳まではぼくがおんぶしてあげよう。
で、もしトォニィの背がぼくより高くなっていたら
ぼくのこともおんぶしてくれるかい?』
『うん!おんぶのしあいっこだね!』
そんな、遠い日の約束。
「覚えて、いたの?」
「思い出したんだ。・・・ほら」
そういってもう一度促す。
トォニィはおずおずとその背に体重を預けた。
「やっぱり少し重いな」
「大丈夫?」
「まあ、これくらいなら」
人間、背負うという行為は自分より重いものでも可能だ。
ゆっくりと立ち上がって、背負いなおす。
ジョミーはサイオンを使わず、自分の力だけでトォニィを背負う。
どこか危ういバランスだが、トォニィは素直にジョミーに全てを預けた。
「あったかいな・・・」
背中の温もりに擦り寄りながらそう呟いた。
「そうか」
トォニィからジョミーの顔は見えないが
その言葉には何処か優しい響きが有った。
ナスカの頃のような・・・。
特にそれ以上会話をするでもないが、
ジョミーはトォニィを背負ったまま公園の中を歩き回る。
「あ、ジョミー木に花が咲いているよ」
言われてジョミーは足を止めた。
見上げれば、薄いピンク色のは長咲いていた。
「ああ、本当だ」
「パパの好きだった花とは違うけど、
こんなときでも咲けるくらいだ。
きっと強いんだね」
いま、艦内のエネルギーは戦闘用と食料生産用以外には
あまり向けられていない。
辛うじて植物が生きて行くには足りるが
花や実を結ぶほどの手入れもエネルギーも回されていない。
それでも、木は花を付けた。
「そうだな。
植物だって生きている。
生きているものは必死に生きようとする」
だから花を咲かせ実を結び種を育てる。
過酷な環境だからこそ、強く咲けるものもある。
強くならなければ、種を絶やしてしまうかもしれないから。
(なんだか、ジョミーみたい)
「何か言ったか?」
「なにも」
トォニィは首を振った。
「そうか?」
訊ねるが、トォニィが頷くと、それ以上は問わなかった。
「ところでそろそろ下ろすぞ?」
「えーもう?」
ジョミーの首に回した手を寄せて、降りたくないと主張する。
だがジョミーは抱えていたトォニィの足を放しながら
溜め息交じりに視線を送る。
「重いんだよ、お前。
大きくなり過ぎだ」
「孫の成長は嬉しいものじゃないの?」
「意味が違う」
言いながらジョミーはトォニィを降ろした。
トォニィは素直に降りた。
ジョミーが振り返ってみると、嫌そうな顔はしていなかった。
むしろ、嬉しそうだ。
「次はぼくの番だね」
今度はトォニィがジョミーに背を向ける。
「えっと・・・」
「ぼくがジョミーの背を抜いたら
おんぶの為あいっこするって約束だったでしょ?」
「そうだけど・・・」
抵抗がある。
だがトォニィに視線を送ると、キラキラとした目で待ち侘びていた。
諦めてジョミーは素直にその背に乗る。
トォニィは驚いた。
思う以上に軽いからだ。
「ジョミー・・・軽いね」
驚きがそのまま呟きとなって出てしまうと
ジョミーから不満の声が上がった。
「お前が重いんだ。嫌なら背負わなくていい」
文句を言いながらも、降ろせとはいわない。
トォニィが降ろす気がないことを分かっているのかもしれない。
ジョミーを背負ったままトォニィは嬉しそうに歩き回る。
自分がされたのの数倍の時間そうしていたが、
文句も言わずジョミーは背負われていた。
だがふと肩や背だけでなく頭にも重みを感じた。
「ジョミー?」
返事が無い。
「寝ちゃった?」
矢張り返事が無いが、この場合それは肯定を意味していた。
降ろして横にした方が良いかと考えたが、したくなかった。
「もう少し、背負わせてよ」
トォニィはずれ落ちないように軽く体を揺すって
もう一度ジョミーが落ちないように背負いなおす。
(こうすることで本当に背負えればいいのに・・・。
あなたを・・・
あなたのこころ、を・・・)
コメント***
ちょっとほのぼのした話が書いてみたくなったんですが
ほのぼのしていると言っていいのでしょうか?
場所が公園なのは、戦争中なのであまり人が来ないからです。
(アニメだとニナとルリがよくいますが)
あとは、『子供と遊ぶ場所』だからでしょうか。
トォニィはまだ子供なので。