花壇の守護者・6





ジョミーが現れたのをみて、ミュウの若者たちは躊躇いを覚えた。
ここで批判すれば、またソルジャーが悲しんでしまう。
無視を・・・・
「悪いけど、無視するのは止めて」
しようとした途端、ジョミーの言葉に止められた。
「さっき気付いた事があるんだけど。
 皆が僕を批判する原因の半分は少なくとも僕にある。
 僕は、『皆に何を言われても自分が蒔いた種だから仕方がない』って
 そうおもっていた。
 受け入れなきゃいけない、理解しなきゃいけないって」
「だからなんだよ」
「うん、だからさ、
 『僕自身が皆を本当には受け入れてなかった』って気付いたんだ。
 しなきゃいけないって思うって事は、出来てないって事だから」
「それがどうかしたのかよ。
 誰もお前に受け入れてもらおうなんて思ってないんだよ」
痛い言葉。
でも、とジョミーは心を落ち着ける。
ソルジャーは大丈夫だと言った。
だから、顔をあげる。前を向いて見せる。
「別にどうもしないよ。
 ただ僕はソルジャーに、出来るところから頑張るって約束したから
 出来てないことは何かちゃんと知っておかなくちゃいけない
 って思っただけ」
ソルジャーの名を出されて、皆少し口を噤む。
「それで、お願いがあるんだけど」
「なんだよ」
「君達も、僕をちゃんと見て欲しい」
「十分みているけどな」
「君達がみているのは僕じゃない。
 『人間を内に飼ったミュウ』だ。
 船にやって来たばっかりの僕の・・・
 『ミュウを否定する人間』のイメージのままだろ?
 まあ僕は人間の部分を捨てるつもりはない。
 でもミュウを否定するつもりもないし
 僕はミュウとして生きると決めた」
「ソルジャーに迷惑ばかりかけているくせに」
「それは否定できないけど・・・・」
少し目を伏せて、だがやはり顔をあげる。
「でもだからこそ僕は彼の期待に答えたいとおもっている。
 出来るかどうかじゃなくて、やろうとすることが大事だから」
(自分を信じることから道が開ける)
ソルジャーはそう言った。
だから、まず自分を信じたい。
ソルジャー・ブルーが選んでくれた自分を信じたい。
「ソルジャーのためなら試してやってもいい」
『ちょっと!』
『だってソルジャーはジョミーを後継者に指名したんだし』
『コイツの力は確かに今のシャングリラには必要だ』
ミュウ達の思念が揺れ動く。
「で?オレ達にどうして欲しいんだ?
 『仕方ないからお前を認めてやるよ』って言われたいわけじゃないだろ?」
「そうだな」
少し考えて、ジョミーは笑顔でこう言った。



「じゃあ僕をブルーの後継者と認めてくれたら
 ソルジャーって呼んでもらおうかな」



言われた側は少し驚いたが、妙に納得がいった。
確かに、ソルジャーという呼び名を与えるのは
ジョミーを本当に認めることが出来たときだけな気がする。
「あれ、ちょっと待って!」
納得がいったばかりなのに、いきなり当のジョミーが否定してきた。
「なんだよ」
「いや、呼び名なんだけど違和感が・・・。
 ソルジャー・ジョミー?・・・うーん、何か変だな・・・
 こう、しっくり来ないような・・・」
本気で呼び名を悩むジョミーが少し可笑しくなった。
「有り得ないと思うが、お前が本当にソルジャーに相応しくなったら
 ソルジャー・シンって呼んでやるよ。
 ジョミー・マーキス・シン」
言われて、少し呆けた後、
その言葉を反芻してジョミーは明るく笑った。
「あ、いいね。しっくり来た!
 僕のサイオンコントロールの上達速度を舐めていると
 心の準備が出来るより先に呼ばなきゃいけなくなるかもね」
ただ大きいだけの力で、うっかり認めちゃうかも知れないし。
「そんな訳ないだろ」
「まあ、そうだね」
それで認めてくれるならもう既に皆認めてくれているだろう。
「でもソルジャー・ブルーみたいに色々出来るようになれたら
 その時は認めざるを得ないだろ?」
力の強い、ミュウの仲間として。
「へっ、そんな日は来ないだろうよ」
「どうかな」
「言うじゃねーか。何なら賭けてやってもいいんだぜ?」
「じゃあ一ヶ月!一ヶ月後の夕飯のデザート!
 それまでに僕をソルジャーって呼ぶようになったら
 夕食のデザートを差し出す!」
その発言に少し発想がお子様な気がしたが、
このとき僅かにジョミー自身に触れた気がした。
そういえばジョミーはまだ14歳だと気付かされた。
ミュウは何処で外見年齢を止めるか分からない。
ソルジャー・ブルーの後継者、と言うことで
少し『大人』の『指導者』を要求しすぎていたのかも知れない。
ソルジャーならそうなってもらわなければ困るが
『ジョミー』という一個人をみるならこの子供っぽさは
年相応なのだから仕方がない気がした。
それと同時に何か楽しさが込み上げてきた。
「いいぜ、じゃあソルジャーに相応しくなれるまで
 お前は毎月デザートを差し出すって訳か」
「!」
彼の言葉に、驚いたような顔を見せるジョミー。
「なんだよ」
その顔があまりにも嬉しそうだったので逆に戸惑ってしまった。
「この一ヶ月だけじゃなくて、僕がソルジャーに相応しくなる迄
 賭けを続けてくれるんだ?」
ソルジャーに相応しくなれるまで、と彼は言った。
それはジョミーがいずれソルジャーに相応しくなると
何処かで思っていることの現れのような気がした。
そのジョミーの思念が伝わってきて、慌てて否定する。
「だ、誰がそんなこと!
 単にお前のデザートを奪ってやりたいだけで・・」
憎まれ口をたたかれるが、ジョミーの笑顔は崩れない。
「うん、ありがとう!
 でもやっぱり一ヶ月後にはシンって呼んでもらうよ」
にっこりと笑われてしまい、否定するのも疲れそうだと諦めた。
「言ってろ」
「ジョミー、ソルジャーに呼ばれてるんじゃないのか?」
会話の区切りが良い所で、別の声に呼びかけられた。
「あ、うん。
 やばっ!ちょっと時間とりすぎたかも」
「さっさと行けよ、あんまりソルジャーに迷惑掛けるな」
「わかってるよ、じゃあまた!」
「取り敢えず一ヶ月だからな!」
「うん、じゃあまた!」
明るい気持ちで走り出したジョミーに通りすがりの誰かが声をかけてくる。
「楽しそうだな」
「まあね」
「あんまり急いで転ぶなよ」
「気をつけるよ、ありがとう!」
他愛ない会話。
でも誰かが否定ではない心で話しかけてくれた。
多分、きっと良い方向に向かっているはずだ。
『ソルジャー・ブルーに早く伝えたいな』
この、明るくて楽しくて嬉しい思いを。
少しでも心配が無くなってくれると良い。
少しでも喜んでくれると良い。








船の中がまた一気に明るくなった。
先ほどまでの寂しく、暗い感じはあっという間に消えた。
皆が明るさを取り戻した。
ジョミーは歩いてくるようにと言った『本当の意味』を知り、
理解して、実行してくれた。
ブルーはお茶の用意を手伝ってくれたハーレイとフィシスに
こうなると思っていた、と言うように笑いかける。
「ほら、ジョミーは凄いだろう」
その言葉にフィシスは微笑んで答える。
「そうですわね」
「まあ、確かにあれは才能ですな」
ハーレイも苦笑しながら、だが、頷いた。
「ジョミー自身を知るとね、彼に惹きつけられないものはいない。
 明るくて素直で、本当に太陽みたいだから
 本人が気にしなくても彼の心は側にいるものを明るく照らしてくれる。
 その暖かさと明るさ気に付くと彼と一緒にいるのが楽しくて仕方がない」
「まあ、ソルジャー。
 太陽が輝きを取り戻して貴方も本当に楽しそうですわ」
答えはないが言われなくても解るほどの微笑みをブルーは浮かべた。
「では、その太陽がやって来るより先に私は失礼致しますよ」
やや恥ずかしげにハーレイはそう言って部屋を出ようとする。
「私も」
フィシスもハーレイにならい扉へと足を向けた。
「ジョミーに気を使わせたら明るさが半減してしまいますから」
その代わり、私のところまでジョミーの明るさが届くようにお願いしますね。
と笑顔を残して扉を閉めた。
『もちろん、彼の笑顔を曇らせるような真似はしないよ』
心の中でフィシスの言葉に返事をした。



閉められてから然程時間を置かず再び扉は開かれた。
落ち着いた照明の部屋に眩しい光が射し込む。
「ソルジャー・ブルー!約束通りお茶をしに来ました!」
『いらっしゃい、ジョミー』
ソルジャー・ブルーは嬉しさが溢れ出たような
嬉しそうな、優しい笑顔で迎えた。









僕の育てた花は、優しいけれど儚く弱くなってしまった。
そして先ほど、その花壇に注いでいた弱い光さえも断ち切ってしまった。
弱々しい光さえも届かなくなって萎れてしまった花を
あっという間に明るい光で照らして元気にしてしまった。
この花壇の花も君が育てればきっと、明るく元気な花が育つだろう。
太陽の光を浴びた草花が元気に伸びやかに育つよう。






コメント***

今度こそ終わります。
ブルーがジョミーに歩いてくるように言ったのは
ミュウ達の沈んだ心を引き上げて、
更に、受け身ばかりだったジョミー自分も
受け入れてもらおうとして欲しいと思ったからです。
其処まで解っていたかは分りませんが・・・ジョミーは歩み寄りを決行。
明るい声で話しかけられると明るく返しやすいように
「駄目だ」という想いでなく「大丈夫」だと思いながら話をすれば
特に感情に敏感なミュウ達にも受け入れてもらいやすいんじゃないかなー
みたいな感じです。
で、ミュウ達は受け入れたら後は早いんじゃないかなと思っています。
こじれると修復するためにはきっかけが必要なので
爺様はそのきっかけを与えてみました。
失敗したら船は暗いままだしジョミーは余計に落ち込みそうですが・・・
それは、あれです。
「君なら出来る!」ということで(笑)
ブルー(いや、私か?)はこの言葉で色々面倒臭いことを片付けている気がします。

長々とお付き合いありがとうございました。