花壇の守護者・5






「あの人、かなりマイペースだよなあ。
 そして自分の決めたことはなかなか譲らないし」
間違いなくジョミーが来るとしてお茶を用意しているだろう。
そして来なければ待ち続けてしまうだろう。
こちらの意思を優先させているのか、迎えに来ることはしなくても
きっと待ち続けるのだ。
これは逆に行かないと申し訳ない気でいっぱいになってしまう。
(なんて言い訳はいらないか)
誘われて嬉しい。
来てもいいと許されて嬉しい。
あの人の傍に行けるのが嬉しいのだから。
自分を必要としてくれているのがわかる。
それがとても嬉しいから。





「えっ?」
扉を一歩出て、違和感に眉を顰める。
とても、
とても、
とても、重たくて悲しくて締めつけられた。
こころが。
シャングリラの中を覆う感情。
遣る瀬無さと、怒りと、後悔。
白い、神殿のような美しさと明るさが微塵も感じられない。
『ジョミー』
「あ、リオ」
呼びかけられた声に振り向けば、其処に苦笑したリオが立っていた。
「ねえ、これはどうしたの?」
『少し、怒られちゃいましてね』
その言葉にジョミーが驚く。
(もしかして僕のせいで・・・?)
「怒られた?誰に?リオが!?」
リオはジョミーの為に注意されることはあっても
リオ自身が怒られることはあまりないからだ。
『ああ、いえ。私は怒られていません。
 それに、どちらかというと悲しまれたと言いましょうか』
悲しむ、という言葉で思い浮かんだのは
先ほどまで自分を慰めてくれていた月のように優しい青い光。
「もしかして、ソルジャー・ブルー?」
『・・・・・・』
答えはしなかったが、苦笑が答えを示していた。
なら、怒られた(もとい悲しみを向けられた)のは
きっとジョミーを批判していた者達だろう。
「そっか、それでか」
ジョミーは艦内を覆う切ない感情の正体に気付いて納得した。
経験があるのだからその心も理解できる。


これは、僕が失敗して先生に怒られたあのときと同じだ。
何度となくカウンセリングルームに呼び出され、
よく怒られていた。
でも今回は絶対に自分は悪くないと思っていた。
喧嘩して、器物を破損させてしまったし、
自分も危なかったし友達も傷つけそうになったのは悪かった。
それはちゃんと反省した。
でも、危険意思だといつもよりキツイ検査を受けさせられた。
だから、マムに怒られたって絶対に謝らないと決めていた。
でも、マムは怒らなかった。
ただ自分が僕をこんなふうにキツイ検査を受けるような子に
育ててしまった、自分ことを悔いて泣いた。
検査は辛い。誰かを傷つけるのも後悔する。
誰よりもそれをやってしまったジョミーが辛くなってしまう。
後悔は取り返しがつかないから辛い感情。
それなのに、喧嘩することを止められない子に育ててごめんねと
泣いた。
謝らないと決めていたのに、僕はその時謝った。
怒られるのは怖くない。
喧嘩だって向こうが売ってきたのだから自分は悪くないのだから。
でも、悲しまれるのは辛かった。
自分が悪いと思った。
だって、マムの悲しみは喧嘩したことじゃなくて
相手に攻撃してしまうような、それを止められない子に育ってしまった
・・・育ててしまったことへの悲しみだったから。
マムは悪くないのに、喧嘩したのは僕自身なのに
それを自分の所為だと悲しませてしまった事に対して
僕は激しく後悔して、謝った。


多分ソルジャーは、
自分が連れてきてしまったから
僕が人間らしく育ってから連れてきてしまったから
そんな感じのことを考えながら皆に何かを言ったんじゃないだろうか。
そして、これは
『僕を批判する行動が、ソルジャーを傷つけた』ことに対する
後悔ではないだろうか。
多分、怒られても彼らは僕が悪いと思っただろう。
成人検査から助けてくれたミュウを否定して、
ソルジャーの命を削り取り、
サイオンのコントロールもままならく仲間を吹き飛ばしてしまった。
力があるだけの、ただの子供。
それでは信用が出来るわけが無い。
そう、怒り返しただろう。
でも、ソルジャーは多分自分が悪いと言ったのだろう。
そして悲しんだ。
だから、皆後悔している。
僕への否定がソルジャーを否定することになると思って
悲しませることを知って。



ジョミーは一度目を閉じ、心を開く。
ふうっと息を吐いて、顔をあげた。
「ん、よし!」
振り返って、リオに笑いかける。
「僕ソルジャーに呼ばれているから行ってくる」
『・・・・はい、行ってらっしゃい』
リオはジョミーの顔を見て少し驚いたが、
すぐに笑って返事を返した。


彼なら、大丈夫だ。
そう安心させてくれる笑顔だったから。