花壇の守護者・4






『君はあの時、彼を護っただろう?』
ジョミーはドキッとした。
でもこれは、嫌な驚きではない。
「気付いて・・・・?」
『ジョミーのことだからね』
言いながら頭を撫でられて、思わずジョミーはブルーに抱きついた。
誰かが理解してくれたのがとても嬉しい。
そんなジョミーを優しく抱きしめながら『声』を紡ぐ。
『大丈夫だよ、確かに人の心はそう簡単には変わらない。
 けれど、君を受け入れてくれている人も沢山いる』
リオも、ハーレイも、子供たちも、そして長老達も。
長老達は年嵩の教師のようだから、分り辛いかも知れないけれど
日々成長していくジョミーに期待を寄せている。
ソルジャーになれると思っているからこそ、少し厳しい。
『君は”皆を受け入れなくてはならない”と思っているようだけど
 そんな必要はない。
 君だけが背負う必要なんて無いんだよ』
「でも僕は・・・・」
ブルーの言葉にジョミーは顔をあげる。
揺れる瞳に微笑みかけ、優しく口付ける。
『急がなくて良い。
 少しずつ、時間をかけて・・・・』
「それで良いんでしょうか?」
瞼に触れる柔らかい感触に、焦っていた気持ちも弛み
ただ疑問を口にした。
『僕は300年掛けたけど、まだ人間には受け入れて貰えていない』
「それは・・・・」
『同じことだよ。
 でも僕はそれでも命あるかぎり説得を続けたい。
 僕は自分の考えが間違えているとは思っていないし
 諦めなければきっといつか分りあえると信じている』
それとも無駄だと諦めてしまったほうがよいかい?
そう問われてジョミーは慌てて首を振る。
『だろう?君も、君が悪いんじゃなくて、
 少し、意見が違っただけなんだ』
だから全ての責任を自分に押し付けて苦しむ必要はない。
『それにあんまり抱え込みすぎると、心配されてしまうよ?』
「リオ達に、ですか?」
『それと、僕』
「ブルーが!?」
ジョミーが眼を見開いた。
それにブルーはいささか驚きを覚えて苦笑する。
『僕が心配すると、そんなに変だろうか?』
『違っ、そうじゃなくて!!』
まるでブルーが「人の心配をしない人」のように聞こえないでもない
発言だったことに気付き、慌てて否定する。
ブルーにはあまり心配をかけたくない。
ずっと沢山のものを背負ってきたこの人には
出来うる限り、優しく暖かい、穏やかなところにいて欲しい。
誰かのせいで苦しんだり、悲しんだりしなくて済むような。
それなのに、自分が心労を追わせてしまうことが酷く悲しかった。
『ジョミー、君は優しいよ。
 君を包む空気が優しくて暖かい』
だから君のせいで苦しむなんて事はない。
ただ、そう・・・
『君が落ち込んでいると寂しいかな』
温もりが消えてしまったようで。
なら、とジョミーが口を開く。
「僕が元気ならブルーは寂しくないですか?」
『そうだよ。とても温かい気持ちに・・
 優しくて嬉しくて楽しい気持ちになれる』
希望が、持てる。
未来を憂えるよりも信じることが出来る。
『僕を楽しくしてくれるかい?』
「・・・・・」
ブルーの質問にジョミーは少し悩み
(恐らく本当にできるのかを考え)
しっかりと顔をあげてブルーを見つめた。
「はい!」
そう言う笑顔は眩しくて、ブルーは本当に嬉しくなってしまう。
「もともと悩むのはあんまり得意じゃないですし
 出来るところから頑張ってみます」
よし、やるぞ。とばかりにジョミーはベッドを降りて立ち上がった。
『それで良い』
未だベッドに腰掛けた状態のブルーを振り返り
「あ、それから」
『なんだい?』
「ありがとうございました!!」
批難の思念から救い上げて、守ってくれて。
少し考えれば簡単に解ることだった。
ただあの時はいっぱいいっぱいで思考が麻痺していたから
すぐには気付けなかった。
「もう、あんな思念が貴方まで届かない・・・・」
言いかけて言葉を止める。
軽く首を振って、別の言葉を口にする。
「流石ソルジャーブルーの選んだ後継者だって、言われるくらい頑張ります」
『・・・・!』
この子はどうしてこうも嬉しいことを言ってくれるのか。
『楽しみにしているよ』
「はい!」
ジョミーは笑顔で頷いた。
『それから』
漸くブルーが立ち上がり、ジョミーの腕を掴む。
軽く己の方に引っ張り、素直に寄ってくるジョミーの
その頬に顔を寄せ、囁く。
『今度辛くなったら、限界迄耐えずに僕のところにおいで。
 また抱きしめてあげよう』
テレパシーなのに本当に耳元で囁かれている気がして
ジョミーは慌てて離れた。
「だ、だ、大丈夫です!!」
『そうかい?』
ブルーはあっさりと手を放す。
表情は楽しそうな笑顔だ。
「か、からかってるんですか!?」
恨むような眼で見上げると、ブルーは苦笑する。
『まさか!本気だよ。
 ああ、でも辛くないときでも来てくれると嬉しい』
「それは、行きますけど・・・・」
だって貴方が心配だから。
貴方の優しさに触れたいから。
貴方を見つめたいから。
貴方が・・・・・・。
『じゃあ、早速来てくれるかい?』
「は?」
『お茶を用意して待ってるから、歩いてくるんだよ』
「え?」
『瞬間移動されたらお茶を用意する時間がないからね』
「あの!!」
ジョミーの呼びかけが届くより先に、
思念体だったソルジャー・ブルーの姿はかき消えた。
部屋に戻ったのだろう。
「えーと・・・・・」
ジョミーは呆気にとられていたが、ふうっと息を吐いて扉を開けた。
向かう先は、もちろんソルジャーブルーの寝室だ。









ここで、一応終わりといえば終わりなんですが
微妙に未だ続きます。
付きあってやるぜ!と言う方は付きあってやって下さい。