花壇の守護者・3









シャングリラの艦内にソルジャー・ブルーの波動が伝わっていた。









ジョミーを後継者に指名してから、
どんなにジョミーが責められても、批難されても
ジョミーなら彼らの想いを変えられると信じていたから
決して表に出てこなかったソルジャー・ブルーの波動。



それは悲しみで館内を覆った。



「ソルジャーが悲しんでおられる」
「ソルジャー・ブルーが苦しいって」
「何かそんなに悲しいことがあったんですか?」
ジョミーへの批難を忘れたかのように止め、
ソルジャーの想いを受け取り、皆が切ない悲しさに飲まれていく。
それは丁度、ジョミーが涙を抑えることが出来なくなる直前。
ジョミーの部屋だけを避けるように艦内の隅々まで拡がった心。





ソルジャー・ブルーは己を心配してくれる心優しき仲間たちに
思念で言葉を伝える。

『僕が口出しをする事は、ジョミーの為にならない。
 そう、思っていたから今迄何も言わずに来た』

だが、と続ける。

『ジョミーは皆を守るに必死になってくれている
 人間社会で育った為に当然のように植え付けられた偏見を無くして
 必死にミュウを理解しようとしてくれている』

それだけ彼の心は広くて自由なのだ。
偏見に捕らわれればなかなか受け入れられるものではない。
だが強く優しい彼は、受け入れようとしてくれている。
受け入れられていないのはむしろ、ミュウ達だ。
人間への憎しみと偏見に捕らわれて受け入れることが出来ない。
それは仕方がないことだとは思わないでもないが、
少なくともそう言う意味ではジョミーはミュウなのだ。
受け入れる為の要素は、ある。

『僕がもっと早くに迎えに行けば、
 彼を育てる時間はもっとあっただろう。
 それでも今迄待ったのは、
 人間としての視点も彼に持っていてもらいたかったからだ。
 仲間たちよ、彼は「人間」でも「ミュウ」でもない。
 そう、「人」なのだ』

何方でもあるが故に何方でもない。
どちらか一方を否定したりしない、夢の存在。
永き時の中で漸く生まれた新しい太陽。
周囲に多大な影響を与え、育む事が出来る存在。

世界の、僕の、希望。

だから彼をそのまま受け入れて欲しいのだと。
ミュウだから、人間だから、ではなく、
ジョミー・マーキス・シンを。
彼を、知って、受け入れて、ミュウは初めて
次の一歩が踏み出せるようになるとブルーは考えていた。
ブルーの意見なら受け入れたいミュウたちだが、
だからと言って一度敵意を持った相手を、そう簡単に
受け入れられるはずが無い。
「でもアイツは仲間を傷付けた」
「そうだ、さっきだって感情に任せて吹っ飛ばして!!」
そもそもの事情はジョミーを否定し続けたミュウたちに責任があるというのに、
と考えながらも、口には出さない。
彼らのジョミーへの批判の一部を担っているのは自分なのだから。
彼らを責めることは出来ない。
だが、知っていて欲しい。

『それで、吹き飛ばされた彼が傷ついただろうか?』

「え?」
何を言いだすのか、と皆は視線を彷徨わせる。
あれだけの勢いで吹き飛び、音を立ててぶつかったのだ。
怪我をしていない訳が無い。
現に彼は今医療室へと運ばれている。

『気付かなかっただろうか?』

ジョミーが、『しまった』と思った次の瞬間。
彼が壁に激突するよりも先にシールドで包んで保護したことに。
ショックで気を失ってはいるが、傷は一つもない。
その事実を知って数名が衝撃を受けているようだった。
「で、でもじゃあなんで逃げたんです!?」
「そうです、助けたからってそのまま放っておくなんて!」

『君たちを傷付けないためだろう』

助けが必要なら、これだけ人数がいれば問題無い。
それよりも吹き荒れる悪意や害意から身を守ろうとして
力を使ってしまうことを恐れた。
力を使って、誰かを傷つけることを恐れた。
いつでも彼の優先順位は自分以外のものだ。

『忘れないで欲しい。我々はミュウなのだということを』

ミュウの力は精神。
その力を使うが故に敏感になっている心だが
傷つくことは恐れても、傷付けることに気付いていない。
敏感すぎる心は守るために何処までも弱くなり、
恐れるものを排除しようとする。
他愛ない悪意でも、心を直接攻撃されればショックで気が狂ったり
最悪、死を招くことだってあるのだ。
ジョミーは強い。
真っ向から受け入れ、それでも立っていられる程、強い。
だからと言って傷つかないわけではない。
ただ、何処までも強く、しなやかで、優しいから立ち続けている。
それだけ。
刺だらけの花壇を自らの手が傷つくことを了承しながらも
賢明に外敵から守ろうとしている。
刺すらも花の一部とし、全てを守ろうとしている。
だが、それだけでは駄目なのだ。
花が刺を持ち続けるかぎり、
何かあったときに両手で包み込むことが出来ない。
護りきることが出来ない。
もし仮に出来たとしても、その手は無数の傷で覆われることになるだろう。
そんな関係でいつまでも戦い続けることは出来ない。
花壇を守護するものは、自らの守るべき花に癒されなくてはならない。

守護者は花と花のあるべき花壇を守り、

花は守護者の心を支える。

そうして初めて、両者が対等になり、
支え合うことで、新たな希望の力を生み出せるのだ。





次か、次の次辺りから漸くブルジョミチックになってきます。