花壇の守護者・2






音が消えた。



伝わってくる雑踏が嘘のように消えた。




すっ、と
という表現が一番合う様な音の引き方だった。
(え?)
「一体何が・・・・」
もしかしたら艦に何かあったのかも知れない。
ジョミーはもしかしたらまた罵倒されるかも知れない怖れを押し込めて
部屋の扉を開こうとした。


だがそれは実行されなかった。


伸ばした手に別の手が重なって、その動きを止める。
背後から、抱きしめられた。
ジョミーは驚きながらも、抱きしめる相手の名を呼んだ。
後ろから抱きしめられているから、顔は見えないけれど。
「ソルジャー・ブルー?」
返事はないがそれ以外に考えられない。
ジョミーの部屋に音もなく入り込める存在など、彼しかいない。
それに、こんなに優しい気持ちも彼だけだ。
『もう少し気持ちを楽にして』
予想通りの『声』が語りかけてくる。
『君は少し、緊張しすぎている』
それはジョミーにも分っていた。
だからと言って、閉じこもっているわけにも行かない。
「でも、船がいきなり静になったんです」
何かあったのではと不安な面持ちでジョミーはブルーを振り返る。
『大丈夫だよ、艦は大丈夫だ』
「本当ですか?」
『こんな事で僕が嘘をついても仕方がない』
そう言うソルジャー・ブルーの表情は柔らかな笑みだった。
まあ、確かにそうだ。
シャングリラが危険な状況なら
ジョミーを部屋から出さない理由など無い。
「そう、ですね」
緊張の糸が切れてジョミーの身体から一気に力が抜けた。
あまりの脱力感に座り込んでしまう。
そんなジョミーをブルーは抱き上げた。
「ブっ、ブルー!!?」
横抱きにされてジョミーは恥ずかしさに声をあげる。
『暴れないで、落としてしまう』
その言葉にジョミーは身を堅くした。
そんな様子にソルジャー・ブルーはくすりと笑ってしまい
ジョミーに睨まれた。
『ソルジャー・ブルー!』
『すまない、其処まで堅くならなくても、と思っただけだよ』
言いながらジョミーを優しくベッドへ降ろす。
『ソルジャーは体が弱いから本当に落とされるか持って思っただけだ』
思ってはいないが、ちょっとした腹いせにイヤミを言ってみる。
『それは失礼』
ブルーもジョミーが本気でないことは解っているのだろう。
微笑みを絶やさぬまま、少し剥れているジョミーの頬に手を滑らせた。
吃驚して視線を上げると、少し悲しげなブルーの視線とかち合った。
悲しげな、微笑み。
「ソルジャー・ブルー?」
訊ねると、思念で語っているにも関わらず口が言葉の通りに動く。
『君は少し、優しすぎる』
「僕が?」
ジョミーはソルジャーの言葉に首を振った。
「僕が本当に優しかったら、彼らを傷つけたりしない筈だ」
『力の制御ができないのと傷付けることは別だよ』
「でもミュウの力は想いの力だ・・・だから」
傷付けるということは、傷付けてもいいと思ってしまった
ということではないのか。
『それを、気にすることができるのは優しい証拠だ。
 それに君は”傷付けてもいい”とは思っていない、そうだろう?』
感情が爆発してしまっただけ。
誰かを傷つけようとしたわけじゃない。
ただ、コントロールが出来なかっただけ。
それ程までにジョミーの心は・・・・。
だがそれ以上考えるのはジョミーに失礼に当たると考え、
他に気付いたことを述べる。
『それに君はあの時・・・・・』








次は何故突然静になったのか、ということで少し逆行します。