花壇の守護者・1






伝わってくる雑踏が嘘のように消えた。







批難される、否定される、拒絶される、罵倒される。
艦の何処を歩いても伝わってくる感情。
(仕方がない、僕が最初に彼らを否定したのだから)
そう、最初は彼らだって迎えてくれたのだ。
(なのに僕が彼らを化け物と呼び、否定し、逃げ出し・・・・・)
自分で蒔いた種だ。
雑草を知らない花壇にいきなり
繁殖力の強い雑草の種をばらまいたようなもの。
その芽はすぐに出てしまい、刈り取るのは大変だ。
抜いても抜いても、すぐに新しい芽を出してしまう。
かと言って除草剤など捲けない。
花壇の花まで枯らせてしまうから。
だから一つ一つ根気よく抜いていくしかない。
花壇の花はとてもデリケートで、
自らを守るために刺も持っているから少し大変だけど。
花壇の守護者は
『君なら出来る』
そう、励ましてくれるのだから。
花たちにも
そう思い、そう考え続けて来たから今迄それでも前向きにやって来られた。




でも・・・・人間だから、
感情のある生き物だから・・・ときどき
ときどき
本当に一瞬だけ



挫けてしまいそうになることがある。





すぐにその心に気づいて、慌てて立ち直るけど
今回はタイミングが悪かった。




一瞬落ち込んだ瞬間に、受け取ってしまった。
痛いほどの否定の感情。
『なんでアイツが』
(やめろ)
『アイツのせいでソルジャーが』
(やめろ)
『このままミュウのふりして居続けるつもりか?』
(フリじゃない、僕は・・・)
『人間の世界から逃げ出して行くところが無いからいるだけだろ』
(・・・・・・・)
『力が強くたって、人間の意識を持ってるやつなんか』
(やっ・・・・)
『コイツの力はオレ達ミュウだって傷付ける』
(僕はそんなこと・・・)
『早く出ていけばいいのに』
(僕は・・・・)
ジョミーはぐっと気持ちを踏みとどまらせる。
(おちつけ、落ち着くんだ僕
 これは、最初に彼らを否定した僕が悪いんだから・・)
彼らの想いを否定せずに受け入れようとする。
否定したところで何も変わりはしないのだから。
『みろよ、あんなこと考えてるぜ』
(僕はそんなつもりじゃ・・・・)
『今更善人ぶって』
(違う、そなんじゃ・・・・・・)
『偽善者が!どうせ人間が受け入れてくれたらそっちに行くんだろ』
(僕はそんなことはしない!)
『力が強いだけでソルジャーに選ばれたミュウのなりそこないの癖に』
(なり損ないかも知れないけど、僕はミュウだ・・・・ミュウとして生きると・・・・)
『船を一回守ったからって、いい気になるなよ』
(いい気になんかなってない!)
『お前が現れなければ、そもそも船を人間に晒すことも』
(やっ・・・・)
『ソルジャーが傷つくことも・・』
(やめてくれ!!)
感情が、思念波となって放たれる。
(しまっ!)
思念波はミュウの一人を壁まで吹き飛ばす。
ダンッ!
鈍い衝撃音とともに気を失った青年がズルズルと壁伝いに落ち、動かなくなった。
皆に動揺が走る。
そしてそれが収まると、より一層強い敵意がジョミーに向いた。
「僕は・・・僕は・・・・」
ふるふると首を振って後ずさる。
それを更に後ろへ突き飛ばすような痛い思念が一気にジョミーに向かってきた。
『やっぱりアイツは危険だ!』
『あんなやつ早く船から追いだせばいいんだ!』
『出ていけ!』
『さっさと出ていけ!!』
『ここはオレ達”ミュウ”の船だ!!』
『お前の居場所なんかここにはない!!』
(―――――――――――――――)
ジョミーは声にならない叫びを上げるとその場から逃げ出した。
走って走って走って・・・・。
すれ違うミュウたちから向けられる敵意から逃げるように全力で走り続けて。



自分の部屋のベッド身を投げ出した。
(彼らは悪くない)
部屋にいても、思念は伝わってくる。
(僕は、こんな事で泣いてはいけない)
自分が否定して攻撃したのに、批難されたからという理由で
泣くわけにはいかない。
(自分の為に泣くなんて許されない)
最初に傷付けたのは自分なのだからと、必死に意志を保とうとする。
そうでなければ涙があふれてきてしまいそうだった。
(強くならなきゃいけない)
否定しないでくれる人の想いに答えるためにも
否定する人達の思いを変えるためにも。
(彼らに受け入れて貰えないのは自分の所為なんだ)
大事なソルジャー・ブルーを危険な目に合わせて
ソルジャーほど力のコントロールもままならなくて
仲間を吹き飛ばして・・・・・。
(だから、当たり前のことなんだ)
そんな危険な存在を簡単に受け入れるわけが無い。
簡単に受け入れられると思うから
そう甘えようとするから批難が痛いんだ。
(だから、こんなの痛くない!)
難しいと知っていれば、覚悟していれば、
批難だってそれを変えようとする意思の力に変えられる。
(痛くない・・・・)
だが、限界だった。
目の端にじわりと滲んでくる感触がある。
(痛くない痛くない痛くない)
必死に原始的な自己暗示をかけて涙を耐えようとする。
(平気なんだ、平気だから、僕は大丈夫だから!)




音が消えた。




伝わってくる雑踏が嘘のように消えた。