ミュウの女神と緑のマント




ミュウと人間は互いに手を取りあい新しい未来を描き初めた。
シャングリラはまだ諍いを起こすミュウと人間の調定に励んでいた。


とある日、そのシャングリラの主。
ソルジャーであるトォニィはとある場所へと足を運んだ。
かつてソルジャー・ブルーとソルジャー・シンがよく足を運んだ場所。
そこには子供達が編んだと思われる花飾りが有った。
けれどそれは優しく台の上に置かれただけ。
主無いその飾りは、どこか寂しげにも見えた。
トォニィはそれを手に取って、これを送られたであろう人物に声を掛ける。
「で、あんたは何やってるの?」
「トォニィ!」
フィシスは驚きを隠せない。
トォニィの方からこの場を訊ねてくることなど無いと思っていたからだ。
「ソルジャーって呼んでよね。
 あんたに名前で呼ばれたくない」
少し睨むように言うと、フィシスは悲しそうに目を細めた。
「ごめんなさい」
自分は彼から沢山のものを奪ったただのヒト。
恨まれて当然なのだから。
俯いてしまったフィシスに、トォニィは間を置いてから
ぶっきらぼうに話しかける。
「別に、あんたが誰かなんてもうどうでもいいけど」
その声は何処か暖かさを含んでいるように感じてフィシスは顔をあげた。
「トォニィ?」
「もう、人間とかミュウとかそんなの関係なくなったし・・・
 ジョミーはあの男と手を繋いだんだ。
 だからあの男と同じだったからって、もうあんたを恨んだりしないけどさ」
その言葉にフィシスは僅かにだが、ようやく微笑みを見せた。
「トォニィ・・・」
「あ、でもぼくはあんたが嫌いなんだからそれは忘れないでよね。
 あんたはソルジャー・ブルーだけじゃなくて
 ジョミーにも大事にされてたんだ。
 ずるいじゃないか」
拗ねたように言うトォニィにフィシスは思わず顔が緩んでしまう。
「まあ」
そのことにトォニィは更に頬を膨らませた。
「でも。ジョミーから引き継いだこの記憶装置から
 二人の心が流れてくるから・・・」
ただ嫌いなだけで居続けることなどできない。
そして二人の記憶が、フィシスがジョミーとは別の意味で
ミュウと人間にとって理想の存在であることを語りかけてくる。
人間でありながらミュウとなった女神。
どちらでもありどちらでもない。
まさに、これからの未来を明るく照らす女神であることを。
戦士達はこの女神を大事に守り続けてきた。
地球だけではなく未来への指標となる存在を。
「ソルジャー」
フィシスが呼ぶと、トォニィは素直に返事をする。
「なんだよ」
「ジョミーは・・・ソルジャー・シンはこの戦いが終わったら
 人間とミュウが手を取りあうことを知っていたのかもしれません」
言われて、当たり前だとばかりに言葉を返す。
「グラン・パはそれを望んでいたからね」
トォニィの言葉にフィシスは頷く。
彼らは僅かながらも先を見る力を持っていた。
その彼らは見知っていたのかもしれない。
"ヒト"が新しい歴史へと旅立つことを。
「人間とミュウが同じ《ヒト》として新しい時代を築くのを。
 そして、その新しい時代のソルジャーに貴方がなる事を」
「なに、それ」
確かに今自分はソルジャーだ。
けれどフィシスが言わんとしていることは他にある気がしてトォニィは訊ねた。
フィシスは一度顔を下げた後、開かない目でまっすぐにトォニィを見つめた。
そして言葉の先を延べた。
「ソルジャー・シンから預かり物があります」
「預かり物?」
問われて、フィシスは頷いた。
「もしかしたらジョミーは私もこの船に戻ることを知っていたのかもしれないわ。
 そして、貴方が此処に訊ねてくることも」
言うと、アルフレートを呼んだ。
彼はいつだってフィシスに仕えている。
そのアルフレートに何かを持ってくるように指示をする。

彼が去った後、二人の間に会話はなかった。






少しして、アルフレートが2つの箱を持って再び現れた。
フィシスはその箱を受け取り、トォニィの目の前で蓋を開けた。
「これは・・・」
見慣れた様な、でも少し違う、それ。
「貴方のソルジャー服です。
 地球へ降り立つ前に、ソルジャー・シンから預かるよう頼まれました」
箱を渡されて、トォニィは抱きしめるようにそれを受けとる。
そしてフィシスはもう一つの箱を開ける。
その中には。
「緑の・・・マント」
思わずトォニィは呟いた。
「ソルジャーは先代のソルジャーが、見守ってきたものを背負う意味を込めて
 先代の瞳の色をその背に、その肩にマントとして背負います」
言いながら、それも手渡そうとするフィシスにトォニィは首を振った。
「そのマントは、あんたがぼくに掛けてくれ」
そう言ってトォニィは膝を折った。
まるで騎士がする礼のように。
「トォニィ」
「あんたはミュウの女神なんだろ。
 女神なら女神らしく祝福を込めてぼくに未来をたくしてよ」
ジョミーが見守ってきたものを背負い、
その先をその緑に見せるための、
見せられるような未来を築けるための祝福を込めて。
フィシスは微笑むとトォニィの前に立ちその身をマントで包み込んだ。
「人間とミュウ、ヒトのソルジャーである貴方に
 歴代のソルジャーと地球と宇宙と、そして未来への加護がありますように」








コメント***

何となく、この二人は意外と仲良くなれるかもなあと思って書きました。
子供のトォニィにとってはジョミーとブルーを独り占めする嫌なやつだったけれど
ブルーとジョミーの思いを引き継ぎ、且つ人間へ対する悪感情も消えたなら、
フィシスに対する「人間の男と通じた」と言う部分もあまり気になるところではないし
人間とミュウの区切りが無くなった後に、
「本当は人間だった」からどうした、って感じですし
フィシスは母性的だから、幼くして母を亡くしたトォニィにとっては
やはりどこか甘えたい存在になると思うんですよね。
ミュウの女神はソルジャーの支えですから。