カリナが死んだ。
「ジョミーはお日様みたい」
そういってくれた彼女が、自分にとっては太陽だった
。
暖かい春の日差しのような笑顔。
自然出産をしようといった自分の言葉に
その身をもって肯いてくれたのも彼女が初めてだった。
どれほど彼女に助けられてきたことだろう。
どれほど彼女の笑顔に救われてきたことだろう。
それなのに、自分は彼女の笑顔を守ってあげることができなかった。
落ち込んでいる暇はない。
メンバーズの男が逃げた以上、ナスカはもう安全ではない。
でも少しだけ。
少しだけ、彼女に出会った14歳のときに戻って泣くことを許して欲しい。
もう、涙を止めてくれる彼女の笑顔はないから・・・。
一人隠れて泣く、あまりにも悲しい姿。
「ジョミー・・・」
そっとジョミーの肩に手を乗せる。
振り向いた彼は慌てて涙を拭おうとした。
その手を掴んで引き寄せるように抱きこんだ。
「ソルジャー・ブルー・・・?」
腕の中から躊躇いがちな声が聞こえて、離れようとする体をさらに強く抱きしめる。
「そうだよ。ぼくはソルジャーだ。
ソルジャー・ブルーだよ、ジョミー」
もうソルジャーは君だけれど。
きみが14歳に戻るというのなら、ぼくは今、この時だけソルジャーに戻ろう。
きっとジョミーが泣けるのはこれが最後だから。
そしておそらく・・・
ぼくがきみを抱きしめられるのもこれが最後だから。
「人類に我々の居場所を明確に知られてしまった。
これからの戦いはきっと厳しくなるだろう。
もう泣く暇もなくなるほどに。
だから、今のうちに思い切り泣いてしまうといい」
「でも・・・」
「大丈夫。ぼくはソルジャーだから気にしなくていい。
きみの悲しみはぼくの腕の中で全部遮蔽してあげよう。
他のミュウたちにその悲しみが伝染することもない。
だから、今だけ。
今この腕の中にいるときだけは声も感情も抑えることなく泣いてしまうといい。
それこそ涙が涸れるまで」
ジョミーは縋るように抱きついてきて、泣いた。
この涙は、失った者のためだけではない。
これから失うかもしれないことに対する涙も宿している。
そして、自分の心の涙も。
おそらくジョミーも気づいているのだ。
もう、泣くことができなくなると。
なんということだろう。
彼に背負わせた運命がこれほどまでに過酷になろうとは。
ジョミーは守りに徹するしかできなかった自分とは違いぼくとの約束を果たすため、
ミュウが生きる場所を得るため
戦いに向かっていくことになる。
それはミュウに甘えを許さない道。
心優しく繊細で、甘いミュウたちを戦場に引き連れていくのは
どれほどに厳しく、辛く、悲しいことだろう。
人間の優しい記憶も持っているジョミーは人類との戦いにどれほどに傷つくことだろう。
それでもぼくは君ならできると信じている。
信じているから、すべてを託すことができたのだから。
己の果たせなかった願いを押し付けてすまないと思う。
けれど誇らしいとも思う。
これほどに指導者に相応しい者を見つけたのだから。
指導者は、……皆の指導者は一人でいい。
だから、ぼくは君がソルジャーに戻ったとき、きみのために戦う駒になる。
それはきみを再び泣かせてしまうことになるかもしれないけれど。
きみに悲しみ以外のものをできるだけたくさん残せるように
どうか最後にはきみが笑顔になれるように。
次に流す涙が、悲しみではないように。
***
よくわからない終わり方をしてしまったような気がします・・・。