覚悟



「ジョミー、遊んでよ」
ナスカの子供たちが突然ジョミーの前に現れた。
だがジョミーは驚かない。
「悪いが今は・・・」
「遊んでくれないなら、僕たち戦いには行かないよ?」
その言葉にジョミーは足を止めて振り返る。
「僕たちの力がないと困るんでしょう?
 優しくか弱いミュウ達は戦えないからね」
「でも僕たちも子供だから、遊びたい盛りなんだよ」
「本気でさ。
 折角持ってるサイオン能力をフルに使って!」
「そうそう」
「折角だからもっと面白いことしたいな」
「たとえば何か賭けるとか」
くすくすと笑いながらの言葉。
「私はトォニィにソルジャーを譲るっていうのがいいと思うな〜」
そこまで言われてジョミーは子供たちが何を言わんとしているのかを理解する。
「成程、つまり君達は現状に不満があるから
 トォニィをソルジャーにして自分達の好きなようにしたい、と。
 そういうことだね?」
「そうよ」
アルテラが頷く。
ジョミーはトォニィに視線を向ける。
「トォニィ、君もかい?」
「ぼくはやらない、
 どんな理由があってもジョミーに攻撃できるわけがないし
 ぼくはジョミーに従う者だから」
つんと顔を背けたままトォニィは言った。
「そうか」
特に表情を変えるでもなくジョミーは頷いた。
「で、どうするの?
 トォニィが抜けたとは言え、6対1だけど?」
ジョミーが悩むだろうと思っていた子供たちだが
意外にもその問いに対する答えは即座に出された。
「いいよ、受けよう。
 ぼくが負けたら・・・
 どうせ僕は生きてはいないだろうから君達の好きにするといい」
「グラン・パ!」
トォニィが何てことを言うのかと叫ぶ。
「そうだろう?
 ミュウたちに苛立ちを覚えているなら、
 ソルジャーであり、力のあるぼくが邪魔だ」
逆に言えば『ソルジャー』が居る限り、
ミュウ達から彼らへの態度は変わらない可能性が高い。
ならば、真っ先に殺すべき対象は自分だと、
ジョミーは理解し、故の発言だ。
そして自分がいなければ、ミュウは彼らに従う以外の道はない。
どの道、彼らの天下になるだろう。
「そこまで分かっちゃうんだ」
「でもやるの?」
「君達がそう望んでいるのだろう?
 だからその条件を飲んだ上で、応じようと言っているんだ」
ただし、とジョミーは続ける。
「代わりにぼくが勝ったら、君達はその一生を
 全てのミュウの未来のために捧げてもらおう」
その言葉に、子供達が一瞬息を飲む。
ミュウなんかのために戦うのが嫌だから持ちかけた賭けだ。
「どうした?負けても何の痛手も無いと思っていたのか?」
言われてぐっと睨みつけるが、ジョミーは静かに答えを待つだけ。
子供達はすぐに笑みを浮かべなおした。
「へえ、勝てるつもりなんだ」
「さあね」
「まあ、構わないよ。
 どうせ勝つのはこっちだから」
「では場所を変えよう。
 ハーレイに言ってくるから少し待っていてくれ」
そう言い残してジョミーはその場を離れた。




「ね、トォニィ、本当にやらないの?」
「勝てばジョミーだって貴方に縋り付かくしかなくなるのよ?」
「そうそう、別にトォニィがジョミーを殺したくないって言うなら
 生かしておいてあげてもいいんだし」
「っ・・うるさい!」
ジョミーが頼ってくる、その言葉に一瞬動きそうになった心を
叱咤する様にトォニィは叫ぶ。
「ぼくはやらないって、何度言わせれば気が済むんだ」
(ジョミーに、勝てるわけないのに)
だから闘わない。
だが、多勢に無勢だ。
もしジョミーが危険にさらされるようなことがあれば・・・。
外から見ていて、すぐに割って入るつもりだ。





「ハーレイ、近くの・・・無人の星に寄せてくれ」
「ソルジャー、こんな時に何を?」
「少し、訓練だ」
「訓練?」
「ああ、ナスカの子供たちとね。
 彼らの力は強大だ。だが昔のぼくのように
 その力を押さえる術を木賃と学ばせなければならない。
 その為には力の限界も知る必要が有る。
 かと言って彼らとぼくが最大の力を使って船内で訓練したら
 船が壊れてしまうかもしれないから・・・」
「・・・わかりました」
ジョミーの言葉に頷いてシャングリラは無人の惑星に進路をとった。



彼らが船を降りるのに、連絡艇を使う必要はない。
非常用ハッチから子供たちが次々と降りていく。
最後に降りようとしたトォニィの肩をジョミーが掴む。
「なに?グラン・パ」
「トォニィ、君はここに残ってくれ」
「なっ・・・・」
ジョミーに言われた言葉にトォニィは驚きの声を上げる。
「『訓練』に参加しないなら、ぼくが留守にする船を守っていて欲しい」
「でも・・・」
「頼む」
ジョミーが居ない船を守る気なんて全く起きない。
だが、ジョミーに『頼む』といわれたら断れない。
船にいたって様子を視ることはできる。
ジョミーが負けるはずが無いし、
もしものときは跳んで行けばいい。
「・・・わかった」
トォニィは憮然と頷いた。




「身体を動かすのは、ナスカ以来だな」
呟くジョミーに、思念波が飛んできた。
ジョミーは身を動かすまでもなくそれを弾く。
「その間、僕たちにずっと戦わせてきたもんね」
「そうそう、わたしたちの方がずっと実践を積んでいるのよ」
脅しのつもりであろうその言葉に、
しかしジョミーは薄く笑みを浮かべた。
「そうか、ではぼくも少し張り切らないといけないな」



同時に襲ってきた6つの攻撃をシールドで回転させるようにしながら
そのまま放ってきた方向へと送り返す。
その位は読んでいたとばかりに今度は頭上から光が降ってくるが
ジョミーは軽く後ろに下がることでそれをかわす。
そこを狙ったかのように横2方向からエネルギーが飛んできた。
それを跳躍してよけると、
今度は背後から直接たたき込もうとペスタチオが出現する。
しかし身体を捻ってジョミーはその背後に回り込むと
力を使わず素手で彼をたたき落とす。
ただ押されただけのようなものなのですぐに体勢を整え直すと
ペスタチオは上に向かって力を放つ。
そしてさらに上にツェーレンが現れたがジョミーは避け、
結果、二者のエネルギーが弾け、二人に襲いかかる。
それを見ていたジョミーの目の前にタキオンが現れる。
掴み掛かろうとする彼の腕を逆に掴み、捻り上げる。
そこにアルテラの力が嵐のように襲ってくる。
ジョミーはタキオンを蹴り落とすとシールドでそれを飛散させる。
未だ傷一つどころか、攻撃の一つも当たっていない事実に
流石にナスカの子供たちに焦りが浮かび初めてきた。
それぞれが頷きあって場所を移動させる
ジョミーを取り囲むように四方と上下から同時に攻撃が向けられる。
それをシールドで防ぐと、タキオンが声を荒げる。
「さっきから防いでばっかりで、戦う気が無いのか?」
その言葉にジョミーはやれやれとばかりに溜め息を零すと
シールドを一瞬弱める。
それを”押した”と思った子供たちだったが
すぐに違うと気付く。
ジョミーが、直後に一気にエネルギーを放出させたのだ。
爆発するようなそれにおし負けて、子供たちは次々に吹き飛ばされてしまった。




「なんで・・・」
最後まで残っていたアルテラが手を地に着いた。
ジョミーは傷を負うことなく、服すらも殆ど汚すことなく
その場に降り立った。
そして睨んでくる子供たちに、告げた。
「君達はなりは大きいが所詮は子供。
 しかもミュウだ。
 人間のであり、ミュウでもあるぼくと違って
 君達はその能力以外、他のミュウと何も変わりはしない」
「あいつらと変わらないだと!?」
「そうだ。
 ミュウは精紳に細やかさを持つが故に肉体的には虚弱。
 それは能力が強かろうと変わりはしない。
 体力がすぐに尽きてしまうから、長期戦は出来ない」
「でも!もし、そうだとしても能力で闘ったのに・・・」
「それは君達に覚悟と信念がないからだ」
ミュウの力は意志の力。
それを支える根底のものを、彼らは持っていない。
だがジョミーは持っている。
たったそれだけの違いが、大きな差を生む。
「ナスカでは・・・」
ジョミーと同等だったはずだ。
今より更に幼く、力の使い方もわかっていなかった自分達が。
「ナスカであれほどの力が出せたのは・・・
 あの時、君達には『守りたい』という思いがあった。
 ミュウの力は相乗する。
 あれは、・・・ブルーも含めたあそこにいた者、全ての力だ」
ジョミーは少し切なげに眉を寄せた。
だがすぐに元の表情に戻す。
「君達がもし、『トォニィをソルジャーにしたい』という
 たった一つの思いで闘ったならぼくは負けたかもしれない。
 だが君達は、子供の八つ当たりで向かってきた」
「八つ当たりですって!?」
「そうだ。
 まだ幼い君達に理解しろというのは難しいだろう。
 しかし、力を持つということはそれと同等の責任を負うということだ。
 何故自分達がその姿まで一気に成長したのか
 ・・・しようとしたのか、考えるといい」
だが、と続ける。
「約束は約束だ。
 きみたちは今後ミュウのために戦い続けてもらう」
それだけ言い残すと、ジョミーはその場を後にした。





「くそっ!」
叫んで、バンッと地を叩きつける。
皆うな垂れていた。
同じだと思っていた、・・・所詮『あのミュウ達』の長だと侮ってすらいた。
それなのに、6人掛かりで挑んで惨敗したのだ。
しかもジョミーは一度として空間を転移していない。
それをせずに此方の攻撃を全てかわして、あるいは防いで見せたのだ。

ジョミーと入れ替わるようにトォニィが降りてきた。
「だからいっただろう。
 ジョミーに敵うわけないって。
 あの人の目にはいつだって強い意志が宿ってるんだ」
「トォニィ!お前が加われば勝てたかもしれないのに!」
「かも、とか言っている時点で負け確実だよ。
 ジョミーは負けない、負けるわけにはいかないという
 強い意志で戦っているんだから」
それは彼にとって大事な約束を果たすため。
存在そのものを掛けたような意思の力。
それに対抗するためには此方だって
存在そのものを掛けるだけの覚悟で望まなければならない。
「ぼくたちは覚悟が足りないんだ」





「覚悟・・・か」
青の間でジョミーは苦笑を零す。
本当はまだ幼い子供たちに、
そんなものを求めることが間違いなのかもしれない。
(ナスカの時のように、皆で笑っていられたら良かったな)
あの頃は、ナスカの子供たちはミュウの希望だった。
未来への。
いまでも希望であることに変わりはない。
だがそれは穏やかで優しいものではなく
先の見えない未来に対する不安をも背負った希望。
(あの子達はぼくがブルーに心を置いてきたように
 あの子達のパパとママに心を置いてきてしまったのかもしれない)
あのとき「皆を守る」と言った子供たちが
真に守りたかったもの達の元へ・・・。
もう、この船にその存在はない。
(ぼくはブルーからソルジャーを引き継いだから、
 守るべきものが、ある)
それが覚悟を生み出す。
彼らにはもう守るべきものも、優しく抱きしめてくれる手も、
労ってくれるものもいない。
心の支えが無いのだ。
誹謗中傷がどれだけ重く伸し掛かるのかジョミーは理解している。
そしてそれがどれほどに心を追い詰めるのかも。
けれど、戦いに赴くものを甘やかすわけにはいかないが故に
ジョミー自信にも彼らを甘やかしてやることが出来ない。
「それでも・・・ミュウにはきみたちが必要なんだ・・・」
だから
(君達の気が済むなら、ぼくはいくらでも相手になろう)
それが命を懸けたものであろうとも。
彼らも、存在の居場所を求めているのだから。
甘やかすことも優しい言葉を上げることも出来ないけれど
君達の思いも受け止めよう。

もし、地球との交渉がうまくいったら・・・
もし、ぼくがその時まだ・・・
ジョミーは何かを振り払うように首を振る。
全てをやり遂げる覚悟が無くてはならない。
その先を今は考えてはならない。



だが・・・
平和な世に君達の居場所が無いのなら
その時はぼくの存在そのものを彼らに・・・。
だから、いまは・・・。





コメント***
思いつきだけで書いた訳のわからない話に
此処までお付き合い下さってありがとうございます!
ナスカっ子はまだ子供です。
誹謗中傷には自尊心でガードして耐えるしかないのかもしれません。
が、アニメのあの「ジョミーも別にどうでもいい」は頂けない。
漫画では「ジョミーに協力する」には皆同じ気持ちだったのに・・・。
ナスカにいたころのあの懐きっぷりと
アルテラの「ジョミーが望んだ」と言う言葉は一体何処に消えたのでしょう?
と思いながら書き始めたらいつの間にかジョミーVSナスカっ子になってしまいました。
(・・・ちょっと楽しかった)
本当は最初もうちょっとジョミーがやられてた感じだったんですが
アニメでトォニィが皆を相手に無傷っぽかったので
ジョミーも全くの無傷で。
ちなみにトォニィはジョミーに決して攻撃は向けません・・・。
あの子はそう言う子だと信じております。