「どうされましたか、ソルジャー」
問うて来たハーレイから俯くように視線をそらす。
「なんでも・・・」
ふっと目を細める。
いつもの強い意志のある表情とはまったく違うもの。
何処か切ない。
そんな表情。
「なんでも、ないんだ」
「ソルジャー?」
「ただ、どうして人間とミュウは敵なんだろう、って
今更ちょっと考えてみただけなんだ」
「それは、SD体制が・・・」
ハーレイが当然のことを言葉として綴ろうとする。
それが言い終わる前に、ジョミーはいつもの表情に戻って
明るい声をあげた。
「わかってる。
下らないことを言っ済まなかった」
「下らなくなどは・・・」
「下らないさ。
どうして敵なのか、ではなく
どうしたら敵で無くなるのか、を考えるべきなんだから」
そう。
いまさら、現実は変えられない。
けれど、もしその"当然"が無かったら・・・。
同じ年頃の彼と、一緒に笑っていられたかもしれないのに、と
あの腕の温もりから、逃れるように離れずに済んだかもしれないのに。
(キース・・・)
敵だとは思えなかった。
ミュウだと分った自分を見逃してくれた。
力強い腕だった。
優しい腕だった。
けれど、彼はメンバーズだった。
もしかしたら、戦場で出会ってしまうかもしれない。
その時は、ミュウを守るために自分は
彼を殺さなければならないかもしれない。
「どうしたら・・・敵でなくなる?」
SD体制。
それを支える根幹のところからミュウは排除されている。
人間とミュウを分けるもの。
今迄、極力戦いを避け逃げ続けてきたが・・・。
もしキースのような心を持っている人間がいるなら。
「闘わなければ、ならないかもしれないな・・・」
ミュウという存在を、「人類の敵」ではなく
確かな存在として、生きるものとして認識させるために。
小さかった。
暖かかった。
日だまりの匂いがした。
優しい風を感じた。
春の息吹と、厳しい夏を和らげてくれる緑を思わせる存在。
初めて見たときから、とても惹かれた。
また会いたいと願った。
そしてそれが叶った。
ところがやっと見付けた途端、
それは塀の向こうにある日溜まりだと分り
あっという間に幻のように掻き消えてしまった。
よりにもよって、日溜まりは敵の領地にあった。
「敵?」
違う。
少なくとも、自分にとっては敵ではない。
あんなに暖かく優しい空気を纏うものが敵だとは思えない。
けれど彼はミュウだった。
ミュウは人類の敵なのだ。
人間の心を荒らす敵なのだ。
個人ではない。
種族としての敵・・・。
(ジョミー・・・)
どうしたらいいのか、分らないのは初めてだった。
何時だって最良の選択をしてきた。
ここでメンバーズとして正しいのは私情を捨て、ミュウを討つことだ。
それなのにそれが正しいとは思えないのは
きっと、個人的な感情が芽生えてしまったから。
ステーションにいたころなら、マザーが余計な感情を消した。
けれど、卒業した者に精神介入をすることはあまりない。
自分で、選択しなければならない。
キースはぐっと拳を握った。
「真実がどれかわからないなら、確かめればいい!」
メンバーズとしてミュウを追う。
傷付けることになるかもしれない。
命を奪う可能性だってある。
ジョミーを、殺さなければならない可能性だってある。
しかし、何もしなければ・・・遠ざかってしまえば
ジョミーのことも、ミュウのことも、"真実"も
何も掴めないで終わってしまう。
コメント***
何方も真正面から向きあうことを選択したということで。