「すまない、遅くなった!」
言葉とともにジョミーはブリッジに出現した。
「ソルジャー・シン!
今迄何方に!」
ハーレイの言葉をジョミーは手を振って止める。
「話は後だ。
この惑星にミュウの存在は見つけられなかった。
どうやら完全に人間だけの惑星のようだ」
小さな惑星だ。
マザーが選りすぐりの人間を置いたのかもしれない。
「はい、他に調査に当たったものからも同様の意見が出ております」
ハーレイの言葉に、ジョミーは頷く。
「ならば用はない。
この惑星からすぐに離れよう。
人類統合軍に見つかったとはいえ、
まだ彼方の攻撃態勢は整っていないはずだ」
「了解しました」
その言葉とともにシャングリラが発進する。
星の海に溶け込むようにその姿を消しながら。
(もう一度くらい、会いたかったな・・・)
月見草の花畑の中で出会った人と。
怪しいはずの自分に対して、変な顔をせずに普通に接してくれた彼と。
だが、彼の住む惑星の傍で戦闘などしたくはなかった。
だから・・・。
(また、会えたら・・・か。
でも、きっともう会うことは無いだろうな)
一刻も早く、離れなければならなかった。
(さようなら・・・)
シャングリラと同じように、心に思い浮かべたその言葉も
宙に溶けて消えた。
「キース・アイアン、只今着任いたしました」
軍服に着替えたキースが、上官に敬礼する。
「随分時間がかかったな」
「は、申し訳ありません。
任務時間外でしたので周辺の散策をしておりました」
「周辺の散策?
怪しい者は見かけなかっただろうな」
「・・・怪しい、とはどのようなでしょうか」
一瞬、ジョミーが頭をよぎった。
彼は怪しいといえば怪しい。
どう見ても一般市民とは思えなかった。
「怪しいといえば怪しいだ」
「そのような者は見かけておりません」
だが決して問題の有る人物には見えなかった。
キースは違うと判断し、そう答えた。
「そうか」
上官はそう頷くと次の言葉を続ける。
「態々、時間外に呼び出して悪いが出動の必要がなくなった。
お前はマザーに呼ばれているので、
そのままマザーの元へ行くように」
「はっ」
『よく来ました、キース・アニアン』
その声と同時に出現したのは、イライザとよく似た女性像。
この姿はイメージだが、彼女が作られたのが
イライザと同時期ということも関係しているのかもしれない。
珍しく教育ステーション外に設置されたマザーシステム。
「マザー・ガラティア。
このような時間に呼び出す火急のご用件とは何でしょうか」
『先ほどかかった緊急招集のことについて、
貴方にはお話ししておかなければならないことが有ります』
「私に?」
『はい、グランド・マザーよりの指示で』
その言葉にキースは驚く。
エリートとしてステーションを出たとはいえ
まだ駆け出し軍人に、グランド・マザーが直接
何かを指示するなどこれまで前例がない。
「どのような、ご用件でしょうか」
キースは息をのみ、マザーの回答を待った。
『先ほどの緊急招集。
あれはミュウを発見したからに他なりません』
「ミュウ?」
『ミュウは人類の敵。
彼らは人間と同じ外観で、何食わぬ顔で人間の中に入り込む。
SD体制を批判し、システムを拒否し
恐るべきサイオン能力で戦闘機を必要とせず
宙を飛び、破壊を繰り返す。
人の心を読み、人心を惑わせるもの』
「人の心を読む!?」
そんなことが可能なのはマザーシステムだけだと思っていたが
もしそれを出来るモノが有るとしたら確かに恐ろしい。
『そうです。
そして彼らは人間とは異なる時を生きるもの。
成長という進化を否定し、忌むべき力で成長を止める。
人間とは決して相いれぬ存在。
排除しなければならない、敵なのです』
「成長を、止める・・・?」
その言葉に、思い浮かんでしまったのはジョミーだ。
かれは、どう見ても成人検査を受ける14歳程度の外見。
だが、20歳だと言っていた。
『どうしました、キース・アニアン?
心が、乱れていますよ』
ガラティアはどうやらキースの心は読んでいなかったようだ。
マザーシステム特有の脳波感知システムで、
キースの乱れを感じ取った。
「いえ、そんなことが出来るものなのかと驚いてしまって・・・」
『そうですか。
ですが、キース・アニアン。
貴方は今後彼らと対峙していくことになるでしょう。
その時は、心乱すことが無いように』
「はい、マザー・ガラティア。
承知しております。
鍛練を怠るような真似は致しません」
その言葉にマザーは微笑みを浮かべる。
『そうですか。
そうですね、貴方なら大丈夫でしょう。
それではお行きなさい、キース・アニアン』
「はい」
頷いて、キースは部屋を出た。
己の手を見る。
ジョミーと、握手した手だ。
(人類の、敵?)
あの、暖かい手が?
(人の心を読み、惑わす化け物?)
あの、意思の有る瞳が?
(ジョミー、おまえは・・・)
化け物だとは思いたくない。
だが、数メートル上から降りてきた彼はまさに飛んでいるようだった。
そして、どう見ても子供にしか見えない外見で同じ歳だと言ってきた。
(いったい、何物なんだ・・・)
その疑問に答えてくれるものは居るはずもなく、
疑問は声にならず胸の内に消えていった。
コメント***
ロミジュリといえば薔薇なのですが、
アニメのロミジュリはアイリスなのですが
ここは待宵草で。
月がないのに月見草ってのもあれですが
まあ、其処は気にしないで下さい。