『声に出して言えない言葉』





「やあ」



「ジョミー・マーキス・シン」
キースは少し、どころではなく驚いた。
此処は防衛軍の基地ではない、とはいえ関連施設ではある。
つまり、マザーの管理の行き届く場所。
そこに用意された地球防衛軍長官の部屋。
に、何故かミュウの長がいる。
どう考えても、異様だ。
というか、異常だ。
この行動をした者の思考が。
その考えを読み取ったようにジョミーはひらひらと手を振る。
「大丈夫、思念体だから」
何でもないことのように言うジョミーにキースは苛立ちを覚える。
「大丈夫、じゃない!思念体だろうがなんだろうが
 マザーに見つかれば大変なことになるぞ!」
精紳が傷つけば肉体が傷つかなくても死に至る可能性がある。
だがその言葉にジョミーはくすくすと笑う。
「心配してくれるんだ?」
少しからかい混じりの言葉。
「俺個人としては、な」
だが当たり前とばかりに返されて、ジョミーは面食らってしまう。
そうだった。
キースはそういう性格だった。
自分にとって当然のことは周りが恥ずかしくなる様な事だろうと
はっきりと言ってのける。
ジョミーは真顔になって少し息を吐いた。
彼は心配していると言った。
喜んでもらいたかったが心配を掛けたいわけじゃない。
しかもミュウの長と会うなんて、キースには迷惑なのかも知れない。
「大丈夫、君に迷惑を掛ける前に帰るよ」
「迷惑といった覚えは無い」
落ち込んで見えたジョミーの頭に軽く手を乗せる様に撫でてやる。
「子ども扱い?」
上目遣いで睨まれて、キースは首を傾げる。
そのつもりがないから、何故そう言われたのかが分からないのだ。
「いや?だが落ち着くだろう?」
「まあ・・・ね」
ジョミーは少し気に食わないといった態度だが大人しく撫でられていた。
「それで、結局何をしにきた?」
「恋人に会いに」
「!」
「地球や防衛軍基地にいるときは流石に会えないから」
少し寂しそうな顔は、その外見とは似つかわしくない程大人びたもの。
彼の、本来の年齢を垣間見させるものだ。
だがやはり行動が子供だ。
会いたいから、来た。
それだけ。
それだけの理由で危険を冒してやってきた。
心配になるから自重して欲しい。
だがその単純だけれども真っ直ぐな心は無くさないで欲しいとも思う。
自分が引かれた、誰にも縛られない強い自由な意志を。
ジョミーの頬に手を置き、自分の方を向かせる。
「まったく、あまり危ない真似はしてくれれるな」
キースは呆れたような、だがどこか嬉しそうな顔で溜息をこぼした。
「残念、僕にそういって素直に従ってもらえた相手はいないよ」
そう言うジョミーの顔に己の顔を近づける。
「当のお前が言うな」
触れ合うだけの口付け。
数瞬のとき。
だが何よりも失いたくない。
唇が離れると、その口でキースは思いを伝えた。
「早く地球へ辿り着け」
名残惜しそうに頬を撫でながらの言葉にジョミーは苦笑してしまう。
「地球防衛軍の長官がそんな事言って良いのかい?」
「言っただろう、俺個人としてはミュウも受け入れているし
 何よりもお前を・・・・・・」

その先の言葉は・・・続けられない。

だが。
『ふふ、僕もだよ』
ジョミーは笑顔でそう囁くと姿を消した。




自分の熱しか感じられない部屋でひとり
己の唇に指を添える。
思念体だったが、確かに触れ合ったぬくもり。
それを感じるように。
声にできない言葉を確かめるように。



「人類とミュウが共に暮らせるようになったら・・・」



その時こそ、声に出せなかった言葉を紡ごう。