ふわりとやわらかいベッドにジョミーをおろすと
そのすぐ横に腰を下ろして髪を撫でる。
ジョミーはいまだに目を覚ましていない。
安心したように寝息を立てている様子にブルーは苦笑する。
「まったく、困った子だ。
そんなんで・・・もし彼女や、別の誰かに連れて行かれたら
どうするつもりだい?」
当然、返るのは小さな寝息。
それでもブルーはかまわなかった。
現実に彼は今時分の傍にいるのだから。
「きみがぼくのベッドで眠るのはどれくらいぶりだろうね」
くすり、とブルーは笑みを溢した。
不安で押しつぶされそうだったあの時。
今より幾分幼かった。
当然だ。
ジョミーを受け入れてからもう数ヶ月がたつ。
最初の3ヶ月は、まだ接客を学びきれていないと理由をつけて
店には出さないようにしていた。
それ以上はその言い訳も利かなくなっていき、
どうすればいいのか悩んでいたときに、
キムが自分で作ったカクテルの味見をジョミーにさせて
ステーションの状況よりさらに大変な事態を引き起こした。
つまり、簡単に肌を晒し・・・・
さらに其れより酔いが回ったジョミーはキス魔に成り果てた。
幸い彼の中でのキスは頬にするものと言う常識だったらしく
唇を重ねたものは誰もいなかったが・・・。
それでも・・・・
「あのときのぼくの気持ちをきみは理解できないだろう・・・」
誰彼かまわず抱きつき、無邪気にキスを送る光景を見てしまったときの
苛立ちと、焦燥を。
おかげでいまだに裏方に従事させられているのだから
怪我の功名というやつかもしれないが。
ジョミーはどこまでも不満がっているけれど。
それでも彼は素直に従ってくれている。
その理由を今日はっきりと教えてもらえた。
「ブルーが居場所になってくれるから、いかない・・・か」
その言葉を聴かされたときどれ程嬉しかっただろう。
ジョミーは自分を居場所としてくれている。
だが。
「きみはどんどん綺麗になる」
その魅力に惹きこまれる者もたくさんいるだろう。
「きみの居場所になりたがる者も沢山現れるだろう。
ぼくよりきみを自由にしてくれる人が現れるかも知れない。
そのとき、同じ台詞をきみは口にしてくれるだろうか」
そっと唇を指でなぞる。
やわらかく暖かい唇の感触。
ここに自分のそれで触れたのは一度きり。
ジョミーを落ち着かせる手段だと自分に言い聞かせたときのみ。
それ以来触れられていない。
太陽を手に入れたい思いと
太陽を沈めたくない思い。
その二つの思いに駆られながらも常に手の届くところに
いてくれるという思いがあるから汚さずにいられる。
けれどいつも近くで暖かさをくれるから
・・・その暖かさがあまりにも心地よいから
時折その暖かさを独り占めしてしまいたくなる。
その思いが時折行動に出てしまい、ジョミーを不満がらせている。
サッカーボールを追い掛け回していた少年の、
ただのファンだったときとはもう違ってしまっている。
「ねえジョミー。
きみをぼくのものにすると言ったことがあるのを覚えているかい?」
ジョミーは居場所になるという意味だけだと思っているようだけれど。
当然眠ってしまっているジョミーからの返答はない。
静かに寝息を立てるその頬をそっと撫でながら
ブルーは独白を続ける。
「ぼくはきみの居場所だけれど、
きみは、ぼくのものになってくれるだろうか?」
もしそうなってくれなかったとき、自分はどうなるのだろう。
告げた言葉のとおり自分のものにするために、
この光を夜の闇へ沈めてしまうのだろうか。
そんなことはしたくない。
彼は自由だからこそ彼でいられるのだから。
だが・・・
もし誰かに奪われるくらいなら、
自らが今この場で奪ってしまいたくすらなる。
そんなことをすれば、今辛うじて手にしている光を
永遠に失ってしまうことになる。
この手で殺すことになる。
だから、できはしないけれど。
本当に欲しいのは彼自身なのだから。
「情けないね。
お客様を喜ばせる言葉は幾らでも出てくるのに
きみに喜んでもらい、きみを繋ぎ止める言葉が分からない」
それでも・・・。
「きみが、欲しいよ。
ぼくの・・・ジョミー」
そっと。
その唇に。
触れるだけ。
その口づけを幾度も落とした。
コメント***
何でしょう。いたずらしようと思っていたのにどシリアス展開です(汗)
とりあえずジョミーはまだ15歳なので手出ししませんブルー。
「ぼくの・・・ジョミー」のところは「光」と書いてジョミーと読んでいただけると
ありがたいです。
酒については気にしないでください。
文化の違いです。
この国はきっと14歳を過ぎたら酒を飲んでもいいんです。
ジョミーはブルーに止められていたから駄目だっただけです。
参政権はたぶん20歳か18歳かその位だとは思いますが・・。
14から18か20頃まで大人の社会を学ぶんです。
14歳で独立して親元から離れますが、
キースやお嬢さんが親の後押しを受けていたように
完全に親子の縁が切れたりももちろんしません。