それ、はサムを祝うシャンパンコールの時に起きた。
グラスでタワーを造り、それにシャンパンを注ぐものだが
その際にはホスト一同とその場にいる客がみんなで
コールと拍手をし祝うのが習わしだ。
だが、時にはホストクラブにあるその常識を知らない客もいる。
しかも、それが漸くお気に入りのホストを指名できたのなら
契約時間内に、自分以外に意識が持っていかれては面白くもないだろう。



「どうして私の相手をしないのよ!
 いくらお祝いだからって、私の側を離れてまで
 シャンパンを注ぎに行く事ないでしょう!!」
ヒステリー気味に叫ぶ女性。
まだ、女の子と行ってもいいくらい若い。
おそらく大人の社会に来て、さほど立っていないのだろうと
誰もが想像できる。
だから、彼女の指名ホストであるキースも溜め息を一つ零して
それでもホストクラブの常識を説明した。
「だが、これはそう言うものだ。
 祝いのシャンパンコールと、ドンペリコールは皆で行う。
 それはホストクラブにおいて常識だ。
 特にシャンパンコールは客も一緒になって祝うもので・・・」
「そんなの関係ない!」
キースの言葉を遮って女性は叫ぶ。
「私は客よ?お金を払ってきているのよ?
 その分は私のものになるべきでしょう!?」
「それはその通りだ。
 だがホストクラブにもルールというものがある。
 大人の社会に出てきたならルールは守るべきだ」
「なっ!
 良いわよ!ならこんな店潰してやるわ!!
 パパはマザーへの援助だってたくさんしているんだから!
 このクラブがあるせいであなたが私の相手を出来ないというなら
 こんなクラブ無くなっちゃえばいいのよ!!
 いくらマザーの経営するホストクラブだからって
 潰されないと思ったら大間違いなんだからね!!」


叫ぶ声にいつしか皆が黙り込んでいた。
客も、ホストも。


静寂の訪れた空間に、ぱんぱんと手をたたく音が響いた。
「凄いお嬢さんだ」
当然静寂を打ち破ったその音の元へ皆が視線を送る。
皆の視線を一身に集め、ジョミーはゆっくりと立ち上がると
女性の元まで歩み寄った。
間近まで来るとキースの方を軽く押し、女性の前の位置を奪う。
「な、なによ」
行きなり出てきた、この店のホストでもない男の登場に
流石に彼女も戸惑う。
だがジョミーはそんな彼女ににこりと人好きのする笑みを浮かべた。
「凄いですね。
 この店を潰すだなんてそんな発想なかなか出来ませんよ」
「だ、だから!
 だから何よ!!」
彼女は明らかに虚勢だと分かる態度でジョミーを睨み付けながら叫ぶ。
「いえ。
 実はですね、ぼくこの店をクビになったホスト見習いだったんですよ。
 あなたの意見はマザーに仕返しするのに持って来いだったので
 思わず拍手してしまったんです」
だが睨まれていることを気にせず、ジョミーが笑顔のまま続けると
女性が僅かに躊躇いを見せた。
「そ、そう」
「おい、ジョミ・・・」
呼びかけようとしたキースは、女性に気付かれないように
僅かにジョミーが動かした手でを見て言葉を止める。
「ただ、そんなぼくが今日ここに来たのは
 先ほど祝われていた友人を同じく祝うためだったんです。
 彼の祝いのせいで店がつぶれたのでは、
 流石にぼくとしても大手を振って喜ぶことは出来ない」
「なに、結局反対だって事?」
呆れたように言われた言葉に、今度は肩をすくめる。
「折角の機会なのに残念です。
 ですが、お嬢さんもここで潰してしまっては楽しみが減ってしまいますよ?」
「たのしみ?」
そんなものがあるのか、と言う視線にジョミーはもちろんと頷く。
「キースはもともと無愛想なやつですし、
 お嬢さまがこれからゆっくりとこの男を
 ちゃんと客対応の出来る男に育て上げるというのはいかがですか?
 キースはまだまだ伸びしろがある男ですから
 彼を育て上げたころにはきっとお嬢さまに育てて欲しいと
 ホストの方から寄ってくるようになりますよ」
「そんなことがあるかしら」
興味もなさそうな表情とは裏腹に、声はどこか弾み気味だ。
「もちろんです」
「そう、いいわ。
 今回は許してあげる。
 私が知らなかったというのも問題の一部ではあるわけだしね」
その言葉に、ステーションのメンバーがほっと息を吐く。
「お嬢様がお優しいかたでよかった」
ジョミーはそう言って。席へ戻ろうとした。
が、
「そのかわりに、あなた私につきあいなさいな」
「えっと、それは・・・」
困ったように口ごもってしまったジョミーに、
流石に今度はキースが割ってはいった。
「先ほど彼が行った通り、彼はうちのホストではない。
 いくら何でもホストをさせることは出来ない」
「客なら、同じテーブルで飲んでも可笑しくは無いでしょう?
 なにも接客をしろと言っているわけじゃないのよ。
 かまわないでしょう」
「しかし・・・」
確かに、数名の客が同じテーブルに着くのは可笑しくない。
二人のやり取りに、ジョミーは軽く溜め息をつくと再び笑顔をつくった。
「分かりました。お嬢さま。
 お付き合いいたしましょう」
「ジョミー」
呼んだのは、元の原因になったことを感じているサムだ。
そのサムに笑顔で手を振る。
「大丈夫だよ。ただの相席だしね」
「早くお座りなさいな」
「では失礼いたします。
 あ、悪いけどぼくのテーブルから飲みかけのオレンジスカッシュ持ってきて」
「いらないわ。
 彼に私と同じカクテルを」
その言葉に、ジョミーが困った顔を見せる。
「それは・・・ちょっと困るんですが・・・」
「あら。私のおごりよ」
「いえ、そうではなくてぼくは家主に飲酒を禁止されていまして・・・」
「私と同じものが飲みたくない、と?」
「だからそうではなくて・・・」
どうしてそういう方向にとるんだろうと思いながらも
ジョミーは何とか上手く断ろうと思考を巡らせるが、
理の通じなくなった相手を上手く断るのは難しい。
「あなたのお友達のために私はあなたの意見を聞き入れた。
 今度はあなたが私につきあうべきじゃなくて?」
「分かりました。
 一杯だけでよければお付き合いいたしましょう」
「ジョミー・・・」
「一杯くらいなら・・・ばれないと思うから・・・」
心配そうなキースに、冗談混じりに「内緒にしてね」とウィンクで合図を送った。


だが、アルコールを完全に断っていたジョミーには
たった一杯でも十分に酒としての効果を齎してしまった。















コメント***
ニューハーフバーとかなら行ったことありますが
ホストクラブって実際どんなんでしょう。
ホストクラブの常識なんて私だって知らない!!(あれ?)
・・・一度行ってみたいような、
男だらけの中にあえて突っ込みたくないような。
・・・下手に妄想したらどうしようとか思います(笑)

このホスト話はもともと次の話が書きたくて書き始めたものです。
多分次の話で出てくるであろうせりふのために!
この女性ももともとの出演所定者でした(笑)
そしてこの話は、ブルジョミです!