夜も11時を回り、店も客に酔いが回り始めたころ。
キースはその姿を見つけて驚いた。
いや、今日は特別な日だ。
その姿を見つけたっておかしくはない。
おかしくはないが、彼だって同じく今は仕事の時間帯だ。
「ジョミー?」
思わず呼びかけると、予想通りその人物は店の方へと歩んできた。
「キース!久しぶり!
研修期間以来だね」
にこにこと笑顔でキースに駆け寄るジョミー。
「お前はシャングリラに移ったと聞いたが何故ここにいる?」
ライバル店に移ったホストが今更何の用だと言う視線を向けながら
キースが問う。
それにジョミーは持っていた花束を見せた。
「決まってるじゃないか。
サムのホストデビューのお祝いだよ」
満面の笑顔で答えるジョミー。
「サムは忙しいぞ?」
「そんなの分かってるって。
デビューの日に暇だったら困るじゃないか。
それにサムはすごく良いやつだから人気があるだろ?」
「ああ、見習いの頃からな」
「だよね」
そういうと、キースは顔を崩して笑みを浮かべる。
「お前も、研修受けていたころと全く変わってないな」
「え〜、酷いなあ。
これでもちゃんと勉強してるのに〜」
態とらしく拗ねたようにジョミーは口を尖らせる。
「いや、そういう意味じゃない」
「冗談だってば!
もう、変に真面目なんだからキースは」
まじめに否定するキースにジョミーは笑ってしまう。
これでもホストとしてはクールキャラとして大人気なのだから余計だ。
親しい友人からみれば不器用で天然。
クールに見えるのは単に感情表現が下手なだけ。
「で、店の方はどう?」
「ソルジャーからの華のおかげで初日から上客に恵まれて
好調ではあるな。
店長としてはおまえを3人手放しても惜しくないくらいありがたい」
「酷っ!!」
「俺としてはお前と働きたかったがな」
キースの言葉にジョミーは苦笑する。
「・・・ぼくも、君たちとは別れたくなかったよ」
その頭をキースは軽くたたく。
「まあ、お前が気にしないならいつでも遊びに来ればいい。
金を落としていってくれるなら大歓迎だぞ」
「残念。
安く済ませるコツくらい知っているさ」
「だろうな」
キースは肩をすくめて手を放した。
そして元の話題に戻す。
「いつでもと言ったばかりですまないが
サムのおかげで今日は相手できるものがいないぞ?」
「大盛況って事だね。
座るところがあれば、それでいいんだけど。
飲み物代だけで済むしね」
さすがに祝いに来て、そのまま帰るのは少し切ない。
かといって、ホストクラブに男一人できて
酒も飲まずにホストを呼ぶのも申し訳ない。
シャングリラは男性も来ることがあるが、
基本的にはホストクラブは女性の憩いの場だ。
自分も他店の者であるとは言えホストである以上
それを奪うことをジョミーは申し訳ないと思ってしまう。
「座るところくらい確保するさ」
「じゃあ座り心地の良いところでよろしく」
にやりと笑ってそう言うと、店内へと歩を進めた。
「いらっしゃいませ」
店に入ると柔らかな印象の青年が出迎えた。
「あれ、新しい人?」
ジョミーは見慣れない顔にキースを仰ぎ見る。
「ああ、ここの副責任者のマツカだ。
ホストとしてはあまり役に立たんが
会計管理やカクテル作りなどはなかなか重宝している」
キースの言葉にマツカは苦笑するしかない。
「へえ、ホストの癖にずけずけと言われる余計な言葉は放っておくとして
昔この店で研修を受けたジョミーって言うんだ。
よろしく、マツカ」
「はい、存じています。
キースやサムさん筆頭に貴方のことはよく聞いてますから」
差し出された手を握り返しながら微笑むマツカ。
だがジョミーはマツカに笑顔を返した後キースを睨んだ。
「よく聞いてるって、変な噂してるんじゃないだろうな?」
「変な噂をされる覚えがある行動をしてきたならそうなんじゃないか?
俺達はありのまましか言っていない」
「なっ!」
「大丈夫ですよ。
皆、貴方がいたら楽しかっただろうと言うお話ばかりです」
「マツカ!」
照れたのか、慌ててキースがマツカを止める。
だがジョミーも笑ってはいなかった。
キースを睨んだままだ。
「マツカ。ばかりって事はそれ以外にもあるんだろう?」
「まあ・・・その備品の損壊率がどうとか・・・」
「キ〜ス〜」
「本当のことだろうが!」
「うるさい!
今日はこの店で出てきたコップ全部壊してやる!!」
「ならお前へのドリンクは全て紙コップで提供してやる!」
一触即発の雰囲気を醸しながら睨みあう二人。
慌ててマツカが止めに入る。
「キース、紙コップは買ってこないとありません!!」
「「・・・・・・」」
その言葉にさすがに二人は睨み合いをやめて目を点にした。
「マツカ・・・・」
「あはははははははは!!!マツカ、きみ良いね!!
すごい素敵な人だ!
キースなんかよりよっぽど良い!!」
ジョミーは大笑いし、キースは頭を抱えて呟いた。
「えっと・・・あの?」
「いやいやいや、大丈夫。
ぼくだって本当に店の備品を壊したりしないから。
キースもちゃんと分かってるって」
くっくっくと笑いながらマツカの肩をたたくジョミー。
どんな客であろうと本気で紙コップなど使うはずが無いだろうと
呆れ混じりの溜め息をつくキース。
「ところで溜め息をついているキース君」
「なんだ、ばか笑い」
「きみ。暇なの?」
「そんなはずが・・・」
言いかけて時計に目を向ける。
そしてやや慌てる。
「マツカ、俺はそろそろ次の予約客が来る!
その何時までも笑い続ける阿呆は店の隅にでも座らせておけ」
「分かりました」
「頑張れよ〜」
二人の見送りには目も向けず、キースは慌てて走っていった。
コメント***
キスジョミ要素が出てきますがこの話は基本的にブルジョミです。