雇用・2
「あの、ブルー・・・それは?」
マザーの元へ向かう車の中で、ジョミーはブルーの抱えた
花束を差して問うた。
「ああ、ジョミー。
二人きりの時はブルーと呼んでくれるととても心が踊るが
そうでないときは出来ればソルジャーと呼んでくれないだろうか。
ブルーは本名なのでね、プライベートで呼んで欲しいんだよ」
言いながらジョミーの手をとり、その甲に口付ける。
どうしてこう、この人は一々大げさなのかと思ってしまう。
「はあ、あの・・・分りました・・・・」
ジョミーは少しずつ、この”ソルジャー”(=ブルー)が
実はちょっと変わった人ではないかと認識し始めた。
口説き文句が出るのはホストだから仕方がないとしても
男に対してまでこうとは、博愛を通り越して
ただの変な人にしか見えない。
どうしてもそう思いきれないのはおそらくその容姿のせいだ。
「ホストが気障でも許されるのは、美形だからなんですね」
「それは褒めてくれているのかな?」
「・・・まあ、一応」
(追加、ポジティブ精神も必要みたいだ)
其処まで考えたところで、話を元に戻す。
「それでソルジャー、その花束は?」
「これから女性のところを訊ねるのに、手ぶらでは失礼だろう?
しかもきみをもらいに行くんだから、
木賃とご挨拶をしないとね」
何処の『彼女の両親にご挨拶に行く人』ですか!
思わず叫びそうになって、やはり諦める。
この人はこういう人だと思うほうが早いし、
色々無駄に考えなくて済む。
ジョミーは大人しく話を続けることにした。
「でもあのマザーが花くらいで・・・・」
引き下がるとは思えない。
ソルジャーより有利になるネタなら尚更だ。
歓楽街を2分しているのはマザーとソルジャーなのだから。
「勿論、この花はただの手土産だよ」
心配そうなジョミーの頭を優しく撫でる。
「交渉のカードはちゃんと何枚か用意しているから
安心してぼくに任せてくれたまえ。
この歓楽街のルールについては
ぼくほど詳しいものはなかなかいないよ?」
「そう、ですね」
ジョミーは素直に頷いた。
全てを任せきりにする、
というのもジョミーにとっては気鬱の種なのだが、
こればかりは自分の力ではどうにもならないと自覚しているので、
無駄な意地を張って余計な迷惑を掛ける気も起きない。
俯いてしまったジョミーの頭を撫でていた手をそのまま滑らせ
頬に手を当て、ブルーは己の方を向かせる。
「前をむくんだジョミー。
使えるものを使うのは決して悪いことじゃない。
利用すると考えるのが嫌ならば
自分には手を差し伸べる存在がいると思えばいい。
そして、きみ自身も手を差し伸べる存在になればいい」
一方通行の行為に、ジョミーは居た堪れない思いを抱いたのだろう。
ブルーは一方通行などと思ってはいないが、それは常に内面的なもので
表に出ている部分でジョミーは確かに何もしていないとしか
いえない状況なのだから、落ち込むのも無理はない。
だが、『頼られて嬉しい』『助けになれて幸せだ』という思いは
確かに存在するもので。
助けた相手に感謝されたり喜ばれたりするのは嬉しいが、
申し訳なく思われるのは、少し寂しいものなのだ。
それはおそらく、その立場になって初めて理解できるもの。
今のジョミーではおそらく難しいだろうと、
ブルーは『気にする必要はない』とは言わなかった。
「世の中にはね、『情けは人のためならず』という言葉がある。
近年、『情けは人のためにならない』という意味だと
勘違いされることが多いがそれは、情けを受けたものが
それに甘えてしまって嬉しかった思いと感謝を
誰かに伝えようとしなくなってしまったからなんだ。
本当は、巡り巡ってまた自分のところに還ってくるという
よい言葉なんだけどね。
ジョミーが今日、ぼくの行動で助かったと思ってくれたなら
それを誰かに伝えてあげると良い。
そしたらきっと、ぼくのところに還ってくるから」
気が済むとは考えてはいないが、少しでも思いの枷が弛めばと
ブルーは笑顔で言葉を綴る。
ジョミーは眉を少し寄せる。
「そんな、ものですか?」
「そんなものだよ」
ブルーはにっこりと笑顔で答えた。
「ああ、でもぼくにきみの最高の笑顔という直接的なお返しでも
ぼくは構わないよ。
ぼくはきみの笑顔が見られるなら何だってするから」
「なんで笑顔・・・」
何処か呆れたように呟くジョミーは、先程より気負いが減ったように見える。
僅かにでも安心を見せたジョミーにブルーはそれだけで嬉しくなる。
「好きな人の笑顔は何物にも変えがたいんだよ、ジョミー」
「好きな・・・って!!」
この上無いほどの喜びをたたえた顔で言われてジョミーは
悲鳴なのではないかという声で叫んでいた。
だがブルーはその程度のことまったく気にしない。
「それは勿論・・・・」
言いかけたところで、車が止まった。
「おや、決戦開場に着いたようだね」
ブルーはそう呟くと、ソルジャーの顔になった。
コメント***というなの言い訳。
マザーが登場しなかった・・・。
次回は間違いなく登場・・・します!
多分きっと!!