雇用・1
「おはよう、ジョミー」
目の前で、綺麗な顔が心地よい声でそんなことを言った。
「・・・・・・・・・」
確かに起きた。
朝だ。
おはようというのは間違っていない。
間違っていないのだから、何をそんなに悩む必要があるのか。
それは寝ぼけていて状況を理解できていないからだ。
と、おもう。
けして誰かと同じベッドで寝ているからではない・・・はず。
なので現状の理解に努めようと試みる。
目の前には人がいる。
それは判る。
次。
この人物は何者か。
見たことはある。
うん。知り合いなはずだ。
次。
どんな人物か。
確か昨日出会った人だ。
自分を助けてくれた人だったと思う。
次。
誰か。
確か・・・。
「ブルー」
「起きた?」
呼んだ名に、笑顔が返される。
間違えてはいない。
次。
何故目の前にいるのか。
(・・・・・・・・・・)
ジョミーはがばっと起き上がった。
「おはよう、ぼくの太陽」
妙な呼び名で呼ばれ、くすくすと笑われる。
だがそんなことは今はどうでも良い。
「なんで・・・・」
いや、その質問は可笑しい。
彼はそこにいて然るべきなのだ。
何故なら此処は彼の部屋であり、
このベッドは彼のベッドなのだから。
「帰ってきてきみの寝顔を覗き込んだら
きみが"マム"って呼びながら抱きついてきてね。
どうにも無理やり離すのも気が引けたから、
そのままご一緒させてもらったよ」
そのせりふにジョミーはかあっと真っ赤になる。
「の、覗き込むって!!」
(いえ、わかっています。
自分的に問題なのは本当は其処じゃないんです)
だが、どうしても言うのが憚られて、質問はそんな内容になってしまう。
ブルーもわかってはいるのだろう。
苦笑して、ジョミーの質問に答えてくれた。
「昨晩、泣いただろう?
ちゃんと眠れているか心配でね」
「うっ・・・」
どの道恥ずかしかったか、と
ジョミーは赤面しながらも何処か諦めを感じてしまった。
もう、これ以上聞かなくてもいい。
聞きたくない。
他の話に切り替えたい。
「あ、あなたこそちゃんと眠れたんですか!?」
自分がベッドを占領した挙句、抱きついたのだということは
相当寝づらいことになっていたはずだ。
「うん、久しぶりに人肌のぬくもりが心地よくて
いつもより深く眠れたくらいだよ。
ジョミーの傍はとても暖かくて穏やかな気持ちになれるよ」
(あああああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!)
ジョミーは思いきり叫びたかった。
どうしてこう、こう、こうも!!
「ジョミー?」
枕に隠れるように頭を抱えて突っ伏してしまったジョミーに
ブルーが心配そうに声を掛ける。
それを涙目で見上げ・・・・。
もう一度顔を枕の下に戻す。
「・・・おはようございます」
くぐもった声で、まだ一度も言っていなかった朝の挨拶を口にした。
ブルーの顔は見えないけれど、どんな表情をしているのか
ジョミーにははっきり分る気がした。
「今日は昨日も言ったが、マザーのところへ
きみの正確な解雇手続きを行うために行くことになる」
ブルーはカップを口元に運びながら言った。
「はい」
ジョミーもフォークを口から離して頷いた。
ウィンナーが刺さったままのそれは、皿の上にかちゃりと置かれる。
何かを考えるように動きを止めてしまったジョミーに
ブルーは優しい笑顔を向ける。
「大丈夫だよ、ジョミー。
昨夜も言っただろう?
必ずきみをぼくのものにしてみせるって」
だがジョミーはそれに応えず俯いたままだ。
確かに自分のことは心配なのだ。
けれど。
「本当に良いんでしょうか」
「ジョミー?」
「確かに、ソルジャーでなければマザーに対抗などできないと思います。
でも、ぼくはあなたにそんなに甘えてもいいんでしょうか。
自惚れのつもりはありませんが、その所為でマザーとソルジャーが
本当に対立することになったら・・・」
自分のせいで、下手をすれば歓楽街、どころか政治まで巻き込んだ
抗争が始まってしまったら、と思うと今更だがやはり
色々と諦めたほうがいい気がしてしまう。
けれどブルーは真面目な顔で首を振った。
「言っただろう、きみをぼくのものにすると。
それはきみを失いたくないという”ブルー個人の我が儘”なんだ」
その台詞にジョミーは驚いて、目を見開く。
「ブルーの我が儘?」
とは、どういうことだろう。
訊ねるジョミーにブルーは頷いた。
「きみの居場所が無くなるのを良いことに
ぼくがきみの居場所になってしまおうという、
・・・・独善的で我が儘な理由なのだよ」
「ぼくの居場所?」
「そうだよ」
やはり確りと頷かれて、ジョミーは嬉しい思いが込み上げてくるのを
自覚した。
不安だったのだ。
雇って貰えても、マザーに駄目だし為れたような自分では
何処にいようと居場所など無いのではないかと。
ソルジャーが雇ってくれると言っても
それは一時的なものかもしれないし、
そうでなくてもちゃんとやっていけるのか不安だった。
自分に本当の居場所など無いのではないか、と。
けれどブルーは言った。
居場所になってくれると。
「ぼくは、ブルーのためなら頑張れる」
ジョミーは思わず呟いた。
自分に居場所がある。
必要としてくれる居場所が出来た。
居場所を守るためなら、いくらでも頑張れる。
どんな事だってやって見せる。
不安もあるけれど、それ以上に大切なものがあるから。
ブルーを見上げるととても驚いた顔をしたあと、
嬉しそうに笑ってくれた。
コメント***というなの言い訳。
ジョミーの不安またひとつ解消。
あんまり不安ばかりだと、なんですから。
「貴方のためならぼくは頑張れる」とさらりと言えてしまうところを見ると
ジョミーはジョミーで実は真性のたらしかもしれない。
次はマザーが登場。・・・の筈です。
ブルー頑張ってジョミーを自分のものにして見せてくれ!
正直早く開店準備編を終わらせたくて仕方ありません。
開店すればシャングリラの様子とかステーションとかも書けるので・・・。
実はキースとジョミーを会わせるのがこの話の最初の目的でした(でも元からブルジョミ)。
なので、其処まではきっちり突っ走りたい勢いです。