「もう決めたと言っただろう」
「お待ち下さいソルジャー!」
奥の部屋へと続くカーテンを開けて不機嫌そうな顔でブルーが出てきた。
更にその後ろからもう一人。
ブルーはジョミーを見留めるなり笑顔に戻って近づく。
そして横に座り、もう一人を優雅な手つきで示した。
「ああ、ジョミー。
紹介しておこう、彼が店長のハーレイだ」
「ソルジャー!」
だがジョミーが何かを言うよりハーレイの叫び声が上がるほうが先だった。
「なんだい?」
顔は笑っていたが目が笑っていない。
すっと細めてハーレイを見る。
「確かに彼の境遇は理解いたします」
「なら良いだろう?」
「ですが、それはマザーを敵に回すと言うことですよ!?」
「なぜ?」
「それを問いますか?」
ジョミーの境遇をハーレイに説明したブルーが。
「どうせマザーはジョミーを手放す」
「どうして言い切れます?」
「ぼくのお手付きだから」
一度でもブルーのものになったものを、
欲しがるとは思えないということだろう。
だがハーレイは溜め息を吐く。
「ならば尚更、貴方への当てつけで大事にするかもしれませんね。
彼女はミュウが嫌いですから・・・」
ブルーへの嫌がらせとして
それはそれは大事にしてくれるかもしれない。
そこに、今まで黙って事の成り行きを見守っていたリオが割って入る。
『ですがジョミーもミュウですよね』
「そうだよ」
ブルーは頷く。
「へ?」
その言葉に一番驚いたのはジョミー自身だった。
「ぼくが・・・・ミュウ?」
『はい、ソルジャーがお帰りになったとき
私は人間に聞き取れる気遣いをせずに呼びかけてしまいましたから』
通常、テレパシー会話はミュウ同士のもの。
人間に伝えるためには『聞かせよう』という思いが必要なのだ。
だがジョミーはブルーへの呼びかけを正確に聞き取っていた。
「ああ、やはり気付いていなかったんだね」
そっとジョミーの頬を撫でるように手を添える。
驚いて顔をあげると、ブルーが微笑みを浮かべていた。
「今日きみを助けに行けたのは
きみ自身が呼んでくれたからなんだ」
「え?」
ジョミーにはそんな覚えはない。
そもそもいっぱいいっぱいの時にどうして知らないブルーを呼べるのか。
「きみの思念が聞こえた。
きみのいた場所から、今日きみを連れて行った場所までだよ?
あれほど強い思念を持っているのはミュウくらいだ」
逃げたいと。
助けてくれと。
自分を失いたくない、と。
そんな強い意思をブルーは感じ取った。
そして見つけて気付いた。
尋常じゃない明るさを持つ彼の意思に。
知っている光。
初めて見たときから惹かれた存在だと。
だから邪魔をするだけではなく、
邪魔をしたのが自分だと誘拐者にばれる危険を冒してでも接触した。
そして、接触は間違いではなかったと、今は思える。
「きみがミュウでよかった」
ジョミーを助けることが出来たのだから。
こんな巡り合いが出来たのだから。
「まだきみは目覚めていない。
それなのにあれほど強い思念を飛ばした。
リオの"声"を聞き取った。
きみの力はぼくよりも強いくらいだ」
そのうち、力の使い方を教えてあげよう。
と、頬に添えていた手で頭を撫でた。
「焦って一度に飲み込もうとしなくていいから」
「・・・・はい」
その優しい手に色々なことが一度に来すぎて
対応がわからず不安気だったジョミーの表情が少しだけ弛む。
何とも微笑ましい光景だった。
「間違いなく、ミュウなのですか?」
「そうだ
だからマザーはジョミーを手放す。」
どんなに気に入っていようと、ミュウである時点で大嫌いなものになる。
此処でジョミーを見放せば確かにジョミーの人生は終わりかもしれない。
同情で経営はしていけないが、そんなことになった場合の
ブルーの行動を考えにいれると、見捨てた代償の方が
まず間違いなく大きくつく。
ジョミー自身は確かに容姿的にも問題はない。
性格も、ブルーが溺愛するほどなのだから問題無いだろう。
ハーレイは少し悩んで、息を吐いた。
「良いでしょう。
経営者は貴方だ。
どの道、決定権は貴方にある」
「理解してくれてありがとう」
ようやく、ブルーは本当に笑顔を見せた。
「では、ジョミー・マーキス・シン」
「うあ!は、はい!!」
「契約内容に目を通してから、此方にサインを。
既にソルジャーのサインは入っております。
私も今、サインを致しましょう」
「あの・・・・」
少し心配そうにジョミーが声をあげる。
『大丈夫ですよ。
ちゃんと考えたうえでの店長の判断です。
ソルジャーの無理強いも入っているのは確かですが
貴方を雇ってもそはないと判断したということですよ』
それにはリオが微笑みかけた。
ジョミーを溺愛しているブルーが言っも説得力がないと判断したからだ。
「そう、なんですか?」
「そう言うことだ」
問いに、ハーレイも頷く。
やっと、ジョミーは不安を解いた。
契約が、成立した。
コメント***というなの言い訳。
ハーレイは根はいい人ですが、経営者なので利益も考えなければなりません。
性格的に向いているのか向いていないのか。
まあ、基本的にシャングリラは黒字経営なので
あまり困ることはありません。
次はマザーと対峙いたします。
その前か後かにブルーとジョミーに二人きりでお話させたい・・・。