補佐官て大変。









「彼がうわさの太陽ですか」
カーテンを僅かにめくりながら、
まだ開店していない店(しかも超高級店)につれてこられて
居心地悪そうにしている少年を見た。
「ああ、とても綺麗な子だろう」
極上の笑顔でブルーが述べる。
「容姿が悪くないことは認めますよ」
ブルーが"綺麗"と言う言葉を言ったところで
この人物より綺麗な男などそうそう存在しない。
正直、嫌味にしかならない気がする。
とは言わないでおく。
目の前の男がどれだけ「ジョミー・マーキス・シン」に
思いいれているか知っているからだ。
下手なことを言おうものなら、彼のジョミー像を
延々と語って聞かされるのがオチだ。
「貴方が彼のファンだとは知っていましたが
 まだこの店に来るには早い年頃ではないですか?」
そう言いながらブルーの傍にハーレイは歩み寄る。
「彼は客じゃない」
ハーレイの言葉にブルーは少し楽しそうに笑いを洩らした。
「客ではない?」
「ああ」
頷くブルーに、ハーレイはなんとなく嫌なものを感じた。
汗が僅かに滲んでくる。
「では・・・なんだというのです?」
そんなハーレイの心境を知ってか知らずか、
ブルーはあっさりと言っのけた。
「客じゃなくて従業員として勧誘してきた」
「・・・・・なんですと!?」
何となくそんな気はしたものの、信じがたくて
ハーレイは思わず問い返した。
「だから、従業員として連れてきたんだ。
 他の者と同じく最初は見習いからで構わない」
構わない、じゃない!
ハーレイは叫びそうになるのを何とか堪えて
ブルーに意見を述べる。
「貴方は
 『彼はきっと大人になっても
  自分の力で有名なサッカー選手になるからになるから
  ぼくは彼に一切関与しない』
 と仰っていたのではなかったのですか?」
ブルーが押せば何処の球団だとて挙ってジョミーを迎えに行くだろう。
だがそれをせずともジョミーの実力は自他共に認めるほどであり
下手な関与はジョミーに失礼だとして
決してブルーはジョミーの進路については手出し口出ししなかった。
そのブルーが、ジョミーを自分の店で働かせるなど。
ハーレイにはその豹変がわからない。
「事情が変わった」
「貴方が考えを変えるほどの事情とやらを是非お伺いしたい!」
そう、ブルーは一度決めたことはそう簡単には覆さない。
大切なものなら尚更だ。
なのに、あっさりと意見を覆し、
ジョミーを自分の手もとに引き寄せた。 
「マザーが手を出してきた」
「なっ・・・」
「マザーが手を回して、ジョミーの行き場を全て奪った」
そう述べるブルーの表情は怒りを宿していた。
「マザーがジョミーを自分の店に引き込むために
 何処もジョミーに手を出せないように根回しをしたんだ」
その声も、苛立ちを隠そうとはしない。
ブルーはなおも続ける。
「それだけでは飽き足らず、ジョミーの精神にまで干渉しようとした。
 彼の輝きはその心が見せるものだというのに、それを理解せず
 彼の名前だけで手に入れようなど、おこがましいにも程がある」
美しい顔が見せる鋭利な表情は研ぎ澄まされたナイフのように
触れるものを恐れさせる。
だがハーレイは怯まなかった。
今度こそ、押さえもなく叫びをあげる。
「何を考えていらっしゃるんですか!」
ブルーはあっさり迎え入れると言ったが、大変なことだ。
マザーがそこまで根回しをした子供を
横からふって沸いて掻っ攫ってきた。
それはマザーを敵に回すと言っても過言ではない。
「何を考えてらっしゃるんですか、
 そのようなこと、私は断固として反対致しますよ」
ハーレイがきっぱり言い切ると、ブルーの表情に影がさした。
「ぼくは彼を迎え入れると約束をした」
先程までの甘い微笑みを見せていた人物とも、
怒りを露にしたものとも違う、
"ソルジャー"という名の通りの毅然とした表情で述べる。
「"ソルジャー"に約束を破らせるのかい?」
だがハーレイも譲らない。
「破らせます。今回は事が事だ。
 少年一人との約束よりもっと重たいものがありますから」
だがブルーも全く譲る気配はない。
「ぼくにとって、ジョミーとの約束より重たいものがあると?」
「貴方にとって、ではありません。
 シャングリラにとって、です」
勢力を2分するマザーと本気で敵対すれば大変なことになる。
下手をすればそれはシャングリラとパルテノンだけではなく
政財界も巻き込みかねないほどの大事なのだ。
ジョミーには申し訳ないが、一人の少年のために
国中を巻き込みかねない危険なことは了承できない。
「そうか、きみは反対するのか」
「致します」
「では仕方ない」
「おわかりいただけましたか」
溜め息交じりのブルーの言葉に、
ハーレイは「納得してくれたか」と
淡い期待を寄せたが、即座に裏切られた。
「命令だ」
「なっ・・・」
命令。
それはあまりブルーが使うことが無いもの。
しかし彼が最高経営責任者であるがゆえに
そして殆ど使われることが無い故に
それを使用した際には他の者に否定を許さない
絶対的な束縛を誇る。
「ぼくは彼を迎え入れる」
「そんな命令には従えません」
だがハーレイだとて長年彼を補佐してきたわけではない。
命令に対して意見を述べることは許されている。
「だがもう決めたことだ」
しかしそれは意見でしかない。
ブルーが覆さないかぎり、命令はシャングリラ全てにおいて
他の何者にも覆すことは出来ない。
「ですが!!」
「もう決めたと言っただろう」
それだけ言うとブルーは部屋を出ていこうとする。
「お待ち下さいソルジャー!」
ハーレイは慌てて後を追った。







コメント***
ジョミーとリオが話している後ろで行われていた
ハーレイとブルーの会話になります。
経営者がこれだけ我が儘を言ってくれると
店長兼補佐の彼はとても大変そうです。
頑張れ、ハーレイ!!