一杯のカクテルを












「何を考えていらっしゃるんですか!」


叫び声が聞こえた。
ジョミーはびくりとする。
今、ブルーはジョミーをおいて奥の部屋へ行ってしまった。
その部屋から聞こえた声に、ジョミーは不安を隠せない。
だが、頼る相手もいない。
一人ぽつんと、座り心地のよいソファにジョミーは居心地悪く座っていた。
目の前ではホスト達が準備に追われているので余計に居た堪れない。




ふと、一人のホストが寄ってきた。
先程、エレベーターを降りてすぐに接触した青年だ。
『大丈夫ですか?』
心配そうな声と同時に、目の前にグラスが置かれる。
綺麗な赤と黄色で彩られた飲み物が入っていた。
『お酒じゃないので安心して飲んで大丈夫ですよ』
「ありがとう・・・」
人間、緊張すると喉が渇くものだ。
ジョミーは素直にお礼を言ってグラスに手を伸ばした。
少しだけ口に含んでみると、甘くて美味しい。
素直に思うと、青年がにこりと笑った。
『ありがとうございます』
あれ?とジョミーは思う。
いま、美味しいという言葉は声に乗せていない筈だ。
『すみません、心の声が聞こえてしまったもので・・・』
そう言う青年に、ジョミーは『シャングリラ』が
基本的に"ミュウ"が運営しているものだと思い出した。
人の心を感じる繊細さを持った亜人種。
思念で会話をし、力の強いものになれば人の心を読んだり、
念力を使って色々なことができるという。
『すみません、自分は口が利けないので
 感受する能力が少し強いんです』
そういえば先程から、どこか違う場所から
声が響いてくるような気はしていた。
「声、でないの?」
『はい』
「じゃあ、仕方ないよ。
 それが、貴方にとっては当たり前なんでしょう?」
ジョミーは苦笑していった。
心が読まれても然程不快に思えなかった所為もある。
これは青年の持つ雰囲気のせいだ。
きっと人徳だろう。
『そういえば申し送れました。
 私はリオと申します』
「えっと、ぼくはジョミー」
先程ブルーに紹介されたとはいえ
やはり一度きちんとしておくべきだと
再度、己の口で名乗った。
それにあのジョミーの紹介法にはやや難点がある。
そう考えてしまうと、リオがわずかに噴出した。
『あ、すみません』
「別にいいけど・・・・」
すこしむっとしたが、リオがすぐに謝ったので文句も言えない。
「いきなり"ぼくのジョミー"なんて言いだしても
 全く気にしないんだからホストってすごい・・・」
意趣返しも含めてそう言ったつもりだったのに
リオは当たり前のような顔で答えを返した。
『ああ、いえ。
 それは聞きなれていたので・・・』
「聞き慣れる?」
『はい、
 ジョミーは、『アタラクシア』のジョミーですよね?』
アタラクシアとはジョミーがいたサッカーチームの名前。
素直にジョミーは頷いた。
『貴方のデビュー戦に偶然、同伴で観戦に行って以来
 ソルジャーから貴方のことを沢山聞かされましたから。
 あ、同伴というのは特別料金を払って
 ホストを連れ出すことなのですが・・・』
「沢山・・・って・・・」
『練習試合も含めてチームが試合をするたびに、
 というところでしょうか』
「する度だって?そんなに!?
 だって、練習試合とかいっぱいあるんだよ!?」
ジョミーの驚きに苦笑が零される。
『ソルジャーが貴方に惹かれて以来
 "ジョミー"と、"アタラクシア"、
 "チルドレンのサッカー"について
 それはそれは楽しそうに話すので
 お客様はソルジャーが"アタラクシアのファン"だと認識して
 よく同伴で誘ってくださっていたので
 恐らく1回も見逃してはいない筈ですよ』
本当にどんなに小さな試合だろうと。
ソルジャーに喜んでもらうためなら
どれだけお金をつぎ込んでも構わないという客は多い。
ソルジャーが好きなことを知ったなら
その情報を皆が必死で探しまわる。
他の誰よりも先にと、細かいところまで。
だから、練習試合であろうと
"アタラクシア"の出るもの全てに
恐らくブルーは同伴に誘われたはずだ。
『試合を観にいった日のソルジャーは
 それはそれは楽しそうでしたよ。
 いつも貴方のことを嬉しそうに話してくれました』


『今日、ぼくは太陽を見つけたんだ。
 まだ子供だけど・・・子供なのに・・強くて明るくて
 彼の存在がぼくを照らして止まないんだ』
『今日はジョミーが点を入れたんだ!』
『今日は審判と衝突して退場させられてしまったよ。
 でもあれは審判のジャッジミスだね』
『今日はジョミーが転んでしまったんだ。
 心配だけれど、元気いっぱいだったからきっと大丈夫だね。
 彼はすごく健康的なんだ!』
『今日は決着がつかなかったんだ。
 ジョミーは最後まで諦めなかったよ。
 だからぎりぎりで点を入れて引き分けになったんだ!』
『今日、たまたま近くをすれ違うことが出来て
 「頑張って」って言ったら、
 「うん、がんばるよ。ありがとう!」
 って笑ってくれたんだ!本当に太陽のようなんだよ!!』


その日の様子を思い出してリオは笑みを零してしまう。
が、ジョミーは恥ずかしくて仕方がない。
そんなジョミーに更に追い打ちをかける言葉が
爽やかな笑顔とともに向けられた。
『ジョミーが飲んだノンアルコールのカクテル。
 あれ、『サンシャイン』というのですが
 ソルジャーが初めて貴方を見たときに創ったカクテルなんですよ』
「へっ?」
『黄色のレモンシロップは貴方の髪。
 添えてあったミントは貴方の瞳。
 赤は貴方のイメージだそうです。』
「なっ・・なっ・・」
『他にもありますよ。
 ノンアルコールのカクテル"ぼくの太陽"シリーズ』
ジョミーは眩暈がしそうだった。
話の流れからいって、その"ぼくの太陽"とやらは間違いなく・・・。
『私達の間では"ジョミーシリーズ"と呼ばれているんですけど』
(呼ばなくていい!!)
ジョミーは切実に思った。
『貴方を知って以来、ソルジャーは
 ノンアルコールのカクテルをよく創るようになりまして
 女性のお客様にも好評だったのでそのままメニューとして採用されたんですよ。
 カクテルの中でも大人気で、そろそろ看板メニューに出来そうな程ですよ』
自分の知らないところで、
恐ろしいものが恐ろしい場所の看板を飾ろうとしていた事実に
ジョミーは本当に眩暈を起こした。






コメント***というなの言い訳。

ちょっとやってみたかったサイドストーリーです。
もしくは追加ストーリー。
いかにブルーがジョミーのファンだったかを
ブルー以外から語らせるのと、カクテルを出すのが目的の話でした。

バーでもあるまいに、ホストクラブで
カクテル(しかもノンアルコール)ってのも何ですが
"ぼくの太陽シリーズ"はどうしてもやってみたかったんです。
ノンアルコールなのはジョミーが子供だったのとスポーツ少年だったからです。
そのうち一通り名前も挙げてみたいです。
たぶん、ほぼ甘いカクテルになるかと・・・。