『やだ!来るな!!』




唐突に響き渡った強いテレパシーにブルーは目を覚ました。

辺りを見渡してもあるのは穏やかな公園の風景。
先ほどの叫びは間近で起こったことではないようだ。
ならば己と関わりの深い場所であろう。
無意識に非常事態を感じ取る癖がついているのだから。
「やれやれ、夜の街で昼間から何が起こっているのか」
ブルーは溜め息をつくと立ち上がった。







「来るな、僕は行かない!嫌だ!!」
ジョミーは必死で走った。
その後ろを黒服の男達が追いかけてくる。
「待て!」
「待てるか!!」
そう叫びながらもひたすら走り続ける。
だがジョミーの息は上がっていた。
サッカーで鍛えた足で一生懸命に逃げ続けてはいるが
如何せん、大人と子供。
体力に差がありすぎる。
一人の男の手がジョミーの肩を掴んだ。
「放せ!」
必死に振りほどこうとジョミーは暴れるが、
もう一人の男が来てその腕を押さえつける。
「大人しくしろ!」
「出来る訳ないだろ!放せよ!!」
なおも藻掻くジョミーを二人がかりで押さえつけながら
別の男が運んで来た車に押し込めようとする。
「お前はマザーの元に来ると決めたんだろうが!」
「頭の中を弄られる契約なんて為てない!!」
「今のままのお前の性格じゃ駄目だと判断されたんだよ」
「だからって・・「だからと言って脳を操作するのはいただけないな」
ジョミーの声に上乗せするように第三者の声が割って入った。
だが、誰の姿も見えない。
ジョミーを掴んでいた男は驚いて一瞬力を弱める。
『今だ、走れジョミー』
その時、ジョミーにだけもう一度声が聞こえた。
脳内に直接響いた声に驚きはしたが、本能でその声を安全だと感じ取り
素直に従ってジョミーは一気に地を蹴った。
男達も慌てて追おうとするが、何かに足を搦め捕られたように順に転んでいく。
ジョミーは振り返らずに必死に走った。






「はあ・・・はあ・・はあ・・・」
壁に手を突いて呼吸を調えるが、全力疾走を限界まで続けたのだ。
そう簡単に戻りはしない。
(膝が笑ってる・・・も、走れない・・・)
(気持ち悪い)
(身体・・・重い・・)
身体の欲求のままに倒れようとした身体を誰かが受け止めた。
「大丈夫かい?」
その声に沈みかけた意識が覚醒する。
『敵』かも知れない相手から即座にはなれる。
だが、其処にいたのは黒服の男達ではなく、
見たこともない、絹糸の様な白い髪と赤い目をした綺麗な人だった。
線が細く優しげで穏やか。
それでいて貫録のある物腰。
この人はマザーに使われるような存在ではない。
「ジョミー?」
そして、聞いたことのある声。
「さっき、の・・・?」
からからの咽喉で絞るように訊ねると、相手は頷いた。
今度こそ、ジョミーの膝から力が抜けた。
「ジョミー!!」
慌ててその身体を再び受け止められた。
確証はないけど、『わかる』。
彼は敵ではない。
「平気、です。
 ちょっと走りすぎて・・疲れただけ・・・」
そう告げると、相手は少し落ち着いたような顔になった。
本当に心配してくれているのだとわかる。
そこで、ふと気付いた。
「あれ・・・ぼくの名前・・・」
「チルドレンの頃、ジュニアサッカーチームにいた
 ジョミー・マーキス・シンだろう?」
汗で張り付いたジョミーの前髪を掻き分けながらそう述べた。
ジョミーは頷く。
「ぼくはブルー。君の出ていた試合はよく見にいっていたよ」
優しく、そして何処か嬉しそうな笑顔にジョミーはどきりとする。
「あり・・がとう・・・」
照れながらジョミーは何とか礼だけ声に乗せることが出来た。
その頭を軽く撫でるようにぽんぽんと叩かれる。
「あまり無理に喋らなくてもいいよ。声を出しづらいのだろう?
 水でも持っていればよかったのだが、すまない。
 ここから少し離れたところに公園があるから其処まで我慢できるかい?」
ジョミーの片言の礼を、声が出しづらいためだと受け取ったようだ。
少し違うのだが、それも間違いではない。
「平気」
「そうか、じゃあいこう」
「え?ええ!!?」
ブルーはジョミーを抱えて、飛んだ。









コメント***というなの言い訳。

此方のブルーは虚弱ではないです。
なのでジョミーを抱えて飛ぶくらいできます。
この世界ではミュウは普通に認知されていますが少数派なので珍しい存在です。
空を飛べるなんていうのは更に少数。
普段は滅多にやりません。
ブルーは取り敢えず早くジョミーに水を飲ませてやりたかったんです。