初恋






初めて、恋をした。




今迄生きるのに必死で
仲間を守ることに必死で
それ以外のことに目を向ける余裕など、無かった。
だが眠れる獅子を呼び起こした事で
心の何処かにゆとりが出来たのかも知れない。

始めて、少しだけ別の事に目を向けた。
獅子と称された、幼子に。
幼く、我がままで、優しく、強い。
その子供に。
獅子は太陽を象徴していたらしい。
それを体現するように、金色に輝く髪。
だが太陽の熱に焼き尽くされる想いを沸かせない
瑞々しく柔らかい草木を想わせる緑の瞳。

強さと、優しさ。
どうしようもなく、焦がれた。
触れたくなった。
抱きしめたくなった。
その存在を己の全てで感じたくなった。
とても愛おしいと思った。
その想いは地球への思慕にも似て。
だがそれよりももっと違った何かで。
その想いが何なのか、
初めて知った。


「ジョミー」
名を呟く。
目を閉じれば浮かんでくる、様々な表情。
心配そうな顔、
落ち込んだ顔、
怒った顔、
困った顔、
拗ねた顔、
楽しそうな顔、
そして本当に嬉しそうな
笑顔。
そのイメージにブルーも笑みを零す。
「だが、心配顔が一番最初に思い浮かぶのは問題かな?」
「何か問題があったんですか!?」
苦笑交じりの呟きに返事が返ってきてブルーは驚いた。
「えっ?」
声の方に顔を向ければ、そこにはまさに思い浮かべていた人物。
入ってきたことに気付かなかったとは不覚だった。
突然の訪問者・・・ジョミーが心配そうにブルーを見つめている。
「・・・・・ふっ」
ブルーはぽかんとした後、くっ、くっ、と肩を震わせた。
「なんで笑うんですか!!」
それが笑いだと気付いたジョミーは声を大きくして文句を言う。
『人が心配しているのに、人の顔見て笑うなんてあんまりだ!!』
此方は心の声。
だがブルーにははっきりと聞こえた。
「いや・・すまない・・・」
「笑いながら謝られても反省しているように見えませんよ!」
(これは怒った顔。
 いや、拗ねた顔か。
 本当に沢山の表情を持っているね、君は)
愛しくて愛しくて、次から次へと笑みが溢れてしまう。
いつまでも笑い止まないブルーをジョミーは睨み付けた。
当然、ジョミーを見ていたブルーと視線が合う。
途端、ブルーは笑うのをやめてしまった。
ついっと思わず視線を逸らしてしまう。
「ソルジャー?」
突然態度を変えたブルーが心配になり、ジョミーはブルーの顔を覗き込む。
「っ!!」
間近で見上げられたブルーは撥ねるようにジョミーから顔を離す。
「あ・・いや・・なんでもない・・・・」
まるで狼狽えているようにブルーは視線を彷徨わせる。
「何でもないって態度じゃないでしょう!?
 一体何があったんですか!」
「本当に何でもないんだ」
「ならさっきからの態度はなんですか!!」
人の顔を見るなり笑いだしたかと思えば
視線が合った途端、気まずそうに逸らす。
ジョミーでなくとも疑問に思うだろう。
「そ、それは・・・・」
少しだけ視線を下げてジョミーを見れば、翠の双眸が真っ直ぐに此方を向いている。
無性に気恥ずかしくなったから・・・とは言い辛い。
「胸が・・・締めつけられた気がして・・」
「胸が悪いんですか!?」
ブルーの言葉にジョミーが慌てる。
(ああ、そうとられたか)
当然といえば当然の反応に、ブルーは苦笑を余儀なくされる。
これでも告白に近かったのだ。
一世一代の。
「いや、そうではなくて・・・・」
「じゃあ何か辛くなるような悩み事が?」
心配そうな表情。
先ほどから心配されてばかりだ。
(ああ、だから一番最初に浮かんでくる表情はこの顔なのか)
ブルーはジョミーの頬に手を伸ばすと
その顔を引き寄せて軽く額に口付ける。
「ブルー?」
「君が手の届くところからいなくなるのが怖くて
 君にもっと触れていたいと思って・・・・」
(君を独占したいと思って、胸が締めつけられる)
手に入らないと言う焦燥と
そんなことを願ってしまう罪悪感から。
「ぼくはもう帰りたいなんて言いませんよ?
 貴方が連れてきてくれたこの船がぼくの居場所だ」
ジョミーは何処までも真っ直ぐだ。
ブルーが『ジョミーがまた帰りたいというのでは』
と心配していると思っている。
「そう」
ブルーは微笑むとジョミーから手を離した。
触れれば触れるほど、より多くを願ってしまうから。
ジョミーの温もりを離れて、自らの元に手が戻るまでが
とても長く感じられた。


手を戻して、いつも通りを装いジョミーに視線を向ける。
「そう言えば、ジョミーは何か用があったんじゃないのかい?」
「あ、その・・・」
今度はジョミーがあたふたとしながら俯いてしまった。
「ジョミー?」
ブルーが名を呼ぶと、覚悟を決めたようにジョミーが顔をあげる。
「初恋が・・・・」
「え?」
どきりともぎくりとも言えない何かがブルーの心臓を締めつけた。
(気付かれてしまったのだろうか?)
だが、その疑問は杞憂だった。
しかし、もっと恐ろしい言葉がジョミーから発せられた。
「実らないって、本当ですか?」
「         」
ブルーの頭が髪以上に真っ白になる。
「さ・・・あ・・・人それぞれ・・・ではないかな?」
呆けたように、そして身の内から搾り出すようにブルーは答えた。
回答にはどうしてもブルーの希望も入ってしまうがそれは仕方がない。
が、ブルーの思考回路はそれどころではない。
それを見ているジョミーにも分りすぎるほどにブルーの様子は変だった。
せっかく貰った回答よりも余程気になってしまう。
「ブルー?本当に大丈夫ですか?」
「あ、ああ」
頷くも、ぎこちない。
「本当に?」
再度ジョミーに詰め寄られて、ブルーは無理かも知れないと自覚した。
「すまない・・・少し寝るよ」
「あ・・はい、・・・・分りました。おやすみなさい」
「おやすみ」
何処か残念そうに呟いてやはり心配そうな表情でブルーを見た後
ジョミーはブルーの寝室を出た。
そんなジョミーへの気遣いもままならないくらい、
ブルーは、地球へのメッセージが拒まれたときと同じ程に
もしくはそれ以上に、打ちひしがれていた。






コメント***
何か微妙な終わり方でスミマセン。
恋なんてよく分らないモノです。
ブルーは更に年嵩がなので勢い任せの行動などができずに
本当にどうしていいのか分っていません。
だから物凄く挙動不審です。
初恋ですから(笑)
実るとイイですね、初恋v