その笑顔がみたいから(前)










ふと気づいた。




そういえば、ソルジャーブルーの笑顔をあまり見ていない気がする。
彼はまるで人形のように寝ているか
起きていれば何時でも笑顔を湛えているイメージがあった。
あったのに、よくよく思い返せば、あまり笑っていない。






『どうしたのですか?』
リオに問われて、振り返る。
「どうした、って?」
何故そんなことを問われたのかが分からず、ジョミーは首を傾げる。
『いえ、今日一日ずっとそうしてそこで考え事をしているので』
「今日・・・・・一日?」
『はい、昼から』
「昼からって・・・」
言われて周りに気を向けると、どう考えても昼ではない。
「え!?僕どれくらいここにいた!!?」
その質問にリオは苦笑して答える。
『かれこれ5、6時間でしょうか』
記憶にあるのは昼食を済ませて、少しトレーニングをして・・・・。
して・・・・?
「お茶の時間は?」
『お茶と言いますか、もう夕食ですよ?』
「通りでお腹が空くわけだ・・・・ってそうじゃない!」
ジョミーは慌てた。
「お茶の後の訓練、サボった!!」
怒られるのは仕方がない。
(嫌だけど)
態々、皆が自分の為に時間を割いてくれているのだ。
たとえ、ソルジャーブルーの命令あろうとその事実は動かないし
それは自分への期待の現れだとも思う。
それに・・・訓練は嫌いだけど、
1日も早く力のコントロールを身に付けたい。
なのにサボってしまった。
もし、もしも訓練が辛くて逃げだしたと思われたら・・・・。
(皆を失望させちゃったりしたら・・・・)
ソルジャーブルーを・・・・。
『ああ、それなら大丈夫ですよ』
リオは少し可笑しそうな微笑みを浮かべた。
どうやら聴こえてしまったようだ。
「大丈夫って何が!?」
『今日のジョミーの訓練は、遮蔽の練習だそうです』
それの何が大丈夫なのかわからない。
遮蔽なんてまったく考えていなかった。
「そんなのしてないよ!!」
『出来ていましたよ』
「え?」
『私は貴方がここにいることを知っていましたが
 長老達には見つからなかったでしょう?』
見つかってしまうようなら捕まってお説教。
でも見つからなかった。
だからまだジョミーはここにいる。
ジョミーの場合、実は遮蔽ではなく
その心が深すぎて、強すぎて読めなくなるだけなのだが
相手に心を読ませないという意味では充分だろう。
「訓練になったらなら良いけど・・・・」
ジョミーは何処か納得が行かない、という顔で、だが了承した。
『それで、ジョミーは一体何を考えていたのですか?』
「ん・・・ソルジャーが・・・・」
『ソルジャーがどうかされましたか?』
「笑わない、なって思って」
『笑わない、ですか』
「うん」
『あの方はいつでも微笑んでいらっしゃるような印象がありますが』
「そうなんだ。
 そうなんだけど、笑ってないんだ・・・」
笑っている顔を思いだそうとしても、殆ど出てこない。
何かそれがとても寂しく感じられた。
「どうしたらあの人を笑顔に出来るのかな・・・」
『それを、ずっと悩んでいたのですか?』
「うん」
素直に頷くジョミーをリオは微笑ましく思う。
『なら直接お会いになっては如何ですか?』
「毎日あってるよ」
『そうではなくて、会いに行くことを目的で行くんですよ』
「会いに行くことを目的?」
『ええ。報告とか挨拶とかそんな理由付けをせずに
 「会いたかったから会いに来た」と訊ねるんですよ』
「どういう、こと?」
『理由があるより、ただ自分に会いに来てくれる相手がいるほうが
 嬉しいでしょう?』
「ソルジャーに会いに来てくれる人ならいっぱいいるよ」
『そうでしょうか?』
リオが、少しだけ寂しげに表情を変えた。
「どういうこと?」
『ソルジャーの部屋に来るミュウは限られています』
「え?」
『長老とドクターとフィシスと、貴方ですよ』
「・・・・・」
成程、確かにそれだと楽しい話題は少なそうだ。
フィシスなら楽しませてくれるかも知れないが
それ以外は笑うは笑うでも苦笑してそうな気がする・・・・。
「って!」
『はい?』
「一部の人間にしか面会が許されないほど酷いの?」
『さあ』
リオは笑顔でそう言って、答えはくれなかった。
「さあ、ってそんな言い方!」
『ですからジョミーが確かめに行けばいいんですよ』
「うっ・・・・」
リオの言葉にジョミーは詰まってしまう。
確かに気になる。
「でも・・・・」
『どうしてそんなに嫌なのですか?』
「まだ僕はソルジャーの期待に応えられてないから・・・・」
『そんなことありませんよ』
「あるよ。そんな状態の僕が会いに行ったら
 ソルジャーブルーは気にしてしまうかもしれない」
俯いてしまったジョミーの肩を、リオが優しく叩く。
つられて見上げると、そこにはいつも通りの
人を安心させる微笑があった。
『では、まずそれを確認してはいかがですか?』
「え?」
『必ずしも、誰かの考えは自分の思っているものと同じではありません』
むしろずれている可能性のほうが高い。
『やってみなければわからない、
 と誰かに言われたのではなかったのですか?』
ジョミーはどきりとする。
それは・・・その言葉をくれたのは・・・。