託さなければよかった。
僕の想いなど。




視せなければよかった。
僕の記憶など。




押し付けなければよかった。
僕の地球への思慕など。




そうすれば、ミュウ達は迷うことなく
この星を選べたかも知れないのに。



そうすれば、
僕や長老達の想いと若者たちの希望の間で
板挟みにならずに済んだかも知れないのに。




君らしく自由であれたかもしれないのに・・・。










「ソルジャー・・・・」
『やあ、フィシス』
心配そうなフィシスに何とか笑顔をつくる。
だが、とても弱々しいものだった。
「少しお休みになりませんと・・・・」
ブルーはジョミーの寝台の傍らで呼びかけ続けていた。
『わかっている』
今ブルーが起きていられるのはジョミーの生命力が流れ込んでいるから。
だから、ブルーが体調を崩すようなことがあれば
よりジョミーのエネルギーを消費する。
『わかっているんだ、フィシス』
だが、とても寝てなどいられない。
辛うじてジョミーの手を握ったままのこの状態で
仮眠を取ることはしている。
眼が覚めればすぐに気づけるように。


本当は・・・そんなことをしていなくても
目覚めればすぐに分かる。
今ブルーとジョミーは繋がっているのだから・・・。
ただ、離れることが出来ないのは・・・。
それをすることが恐ろしいのは離れているときに、
ジョミーを失ってしまうこと。
今すぐこんな繋がりなど断ち切ってしまいたい。
ジョミーの生命力を与えられ続ける関係など。
だがブルー側からはどうすることも出来ない。
繋がっているのにひどく一方的な関係。
無理をすればあるいは可能かもしれないが
ブルーに流れ込むエネルギーがジョミーへ戻るとも限らない。
下手をすれば行き場をなくした強大なエネルギーが
シャングリラをも破壊してしまうかもしれない。
『ジョミー・・どうしたら君は目覚めてくれるんだ?』
強く手を握り締める。
自らの胸を締め付ける思いそのままに。

突然シグナルが響き渡った。
ブルーはすぐに反応した。
『何があった』
こういうところは流石にソルジャーである。
即座に事態を把握しようとする。
『敵戦闘機を捕捉』
その言葉に即座に補足したレーダーを伝い、
ブルーは敵の姿をと感覚の中に捉えた。
(なんだ、これは)
驚きを隠せない様子でブルーは呟く。
知っているものによく似たエネルギー。
ミュウのものではない。
それは分かる。
だがとても強大なエネルギー・・・。
そう、まるでマザーコンピューターのような・・・。
そして、大切なミュウの女神にも似た・・・。
揺るがない意志の力。
そして地球を抱くもの。
『マザーはとうとう生み出したのか・・・』
地球の指導者に相応しい、
”無垢な者”を。
だとすれば、ただのミュウでは彼に立ち向かうことなど出来ないだろう。
”無垢な者”は強い意志の力を宿している。
(もしかしたら・・僕であっても・・・)
大事な愛し子を勝算もなく送り込むマザーではない。
『ジョミー・・・眼を覚ませ』
E−1077の状況からジョミーの力を知ってなお送り込まれた者なら、
それはどれほどの意志の力を宿した者か。
『僕一人では、おそらくあの人間から皆を守ることが出来ない』
せっかく君が目覚めさせてくれたのに何の役にも立てない。
口惜しいが、事実だろう。
『だが、出来うる限りのことはする』
君が目覚めるまで。
(それにいっそ、ジョミーの供給より速い速度で尽きてしまえば・・・)
本望ではないが、ジョミーの生命力を奪うくらいならその方が割増しだ。
ブルーがそんなことを考えたからなのか、
ミュウの危機を悟ったからなのか、
深い眠りについてから初めて、ジョミーに反応が見られた。



ピクリと指が動き、
隠されていた緑耀の瞳がブルーの視界に映し出された。
閉じられていた唇が微かに動く。
「ブルー・・・?」
それはブルーが求めた声。
「ジョミー」
緊急事態なのに、喜んでいる場合ではないのに。
こんな目覚めしかジョミーが許せなかったような自分を
不甲斐無く思いながら、それでもブルーは笑みを溢してしまった。
「ジョミー・・」
もう一度名を呼び強く抱きしめる。
「ブルー」
ジョミーもブルーの背に腕を回した。
触れ合わぬ場所が無いようにと願うかのように、
強く抱きしめあう。
だが、二人ともすぐに想いを押し込めて離れた。
切なそうに視線を合わせるが、唇は動かさない。
一度目を閉じ、そして開いた。

ソルジャーの顔があった。

ジョミーが先に口を開く。
「僕が行きます」
「その方が良いだろうね」
ブルーも肯く。
ソルジャーである彼らは、ミュウを守るために最良の方法を選択する。
寝台を降りるとマントを翻してジョミーはドアへと向かう。
そして、ドアの前で一度足を止めた。
「戻ってくるまで、起きていてくれますか?」
振り返らないまま、ジョミーの声での問い。
「君が無事に帰ってくるのを待っているから
 ・・・必ず戻って来るんだよ」
その言葉にジョミーは目を見開いて振り返る。
微笑むブルーに、
「はい」
笑顔で返事をした。
「すまない・・・気をつけて」
危ない役割を担わせて。
ブルーが少し辛そうに呟けばジョミーはいっそう明るい笑顔で答える。
「大丈夫ですよ・・行ってきます!」
元気に部屋を出ていくジョミーにもう一度。
「気をつけて・・・」
ブルーは呟いた。
「・・・・すまない」
と。







(すまない)









交戦中にブルーの思念を感じた気がしたジョミーは
シャングリラに戻ると慌ててブルーの元へと駆け出す。
先ほどまでジョミーが寝ていた部屋にはいない。
ならば・・・。
















静まり返った部屋。
水には波紋すら浮ばない。
それほどの静寂。
その中にある寝台に部屋と一体化したように、
静かに眠る人。




「嘘つき・・・待ってるって言ったのに」
ジョミーは漏らすようにつぶやいた。
フィシスがジョミーを気遣うように呟く。
「ジョミー・・ソルジャーは眠っているだけですわ」
「わかってる!」
だがまたいつ目覚めるとも知れない眠りについてしまった。
やっと、逢えたのに。
話が、したかったのに。
俯いてしまったジョミーに声を掛けようとして、
だが、それをせずフィシスは部屋をでた。

ジョミーはシーツを掴むように拳を握った。
涙は零さない。
代わりに、その瞳には強い意志が溢れていた。
「僕はきっと貴方を地球へ連れて行く」
だからそのときこそは、









本当に目覚めてください。














コメント***

終わりました。
ブルーはまた寝たきり老人です。
寝たきりで役に立たなくなった彼の役割はジョミーの迷いを晴らすことのみ(苦笑)
でも彼もソルジャーなのでジョミーを板挟みにしたミュウ達の仲間達は責めません。
その状況を作った根本は自分だと、己は責めますが・・・。

本当はキースも出す予定だったのですが
ブルーのことで頭がいっぱいいっぱいのジョミーを相手にするのは
微妙だなあと思ったので止めました。
必死なのに「早くコイツを片付けてブルーのところに!」
とか考えられたら切ないじゃないですか!(なんの力説でしょう?)

こんな所までお付き合い有り難うございました!(謝謝)