ジョミーが意識を失った。




地球への思慕と人間への憎しみを忘れられない長老達と
平和に甘んじてこれから生まれるかも知れないミュウを
思考から排除してしまった若者の板挟みにあい
その思念を一手に引き受けて。


皆が困惑する中、静かに一つの思念が響き渡った。
『落ち着け』
と。
『焦ったところでジョミーが目覚めるわけではない』
その思念が誰のものか。
ナスカで生まれた子供達以外のすべてのミュウが一瞬で理解した。


「ソルジャー・ブルー」


誰かの口から声が溢れた。




呟きに答えたようにふわりと藤色のマントが翻り
青い光を纏ったような人物が姿を現した。
「おお!ソルジャー・・・!!!」
姿を現したブルーに皆が感嘆の想いを露にする。
長いこと眠り続けていた初代の長。
現在の長を欠いた状況で唯一皆の不安を拭ってくれる存在。
だが、ブルーの表情がそれを裏切った。
『久しく皆の前に姿を現すことが叶わなかったのに、済まない。
 せっかく喜んでくれているのに申し訳ないが
 僕はまだ目覚めるときではない』
更に言葉で、期待には応えられないと直接述べる。
「ソルジャー、それは・・・・」
『ジョミーは、何処だ?』
意味を問う言葉を遮るようにブルーは訊ねた。
『ソルジャー・シンは・・・・』
皆の視線が一つの扉へ集中する。
『そうか』
ブルーはそう呟くとその扉へと足を向けた。
誰も止めることが出来ない。
近寄ることも。
ブルーの想いが強すぎて。
悲しみ、怒り、そして憎しみのような何か。
思い描いていたソルジャーとは大分違うそれに
其処に居た者は戸惑いを隠せない。
皆が一歩ずつ後退し、ジョミーの眠る部屋への道となる。
「お待ち下さい」
しかし一人、その進路を立ち阻むものがいた。
「ハーレイ!」
「キャプテン!」
何故、ソルジャーの邪魔をするのか。
皆が批難の籠もった声で、思念で名を呼ぶ。
退くようにと促す。
だがハーレイは退かない。
『どいてくれ、ハーレイ』
「お待ち下さい。
 ソルジャー・シンを・・・ジョミーを如何するおつもりですか?」
『勿論、目覚めてもらう』
当然と言うように溜め息交じりに呟くが、
その瞳は何があろうとも起こすことを誓ったように強いものだ。
「貴方が」
ハーレイは苦しげに言葉を続けた。
「貴方が目覚めたなら、無理に起こす必要はないのでは?」
『そうはいかないのだよ、ハーレイ』
だがハーレイの提案は即座に却下されてしまう。
それでもハーレイはなおも食らいつく。
「少しです、ほんの僅かな時間・・・彼が自ら目覚めるまでの時間くらい・・・」
彼をソルジャーという重圧から解放してあげても・・・・。
ハーレイの想いにブルーは笑みを浮かべる。
『ハーレイ、君は本当にジョミーを大切に思ってくれるのだね』
「貴方だって彼が大事な筈だ!
 いや、他の誰よりも彼のことを想っているのは貴方な筈!!」
その言葉にブルーははっきりと頷いた。
『そう、僕はジョミーを大事に想っている』
「ならせめて僅かな時間くらい・・・」
何故自ら覚醒するまでの時間すらも与えられないのか。
ずっと、というわけではないのに・・・・・。
ハーレイの疑問に答えるようにブルーは言った。
『僕が目覚めているかぎりジョミーは、目覚めない』
と。
それには皆、驚きを隠せない。
困惑する思念が立ち込める。
ハーレイだとて例外ではない。
「なっ・・どういうことですか!?」
『彼は僕の意思を知るために僕を目覚めさせた』
「ジョミーが貴方を・・・?」
その意味を考えるより先にぶつかってきたブルーの思念。
『そうだ!・・・・自分さえも殺して!!僕を呼び覚ましたんだ!!』
ブルーの痛いほどの悲しみの叫びが響き渡った。
『自分とは別の存在を生かし続けるには、
 自らが生き続けるより多くのエネルギーを消費する・・
 それこそ持てる全てのエネルギーを注ぎ込まなければならない程の・・
 あるいはそれでも足りないかも知れない程の・・・』
だから、ブルーが目覚めている以上ジョミーが目覚めることはない。
それどころか・・・・
『このままこの状態が続けばどうなるか、分るだろう?』
ブルーの言葉にハーレイは、道を開けた。
今迄のブルーならこんなに思念を荒げるなど考えられないことだ。
だがそれが何よりも事態の深刻さを物語っていた。
だれも、何も言えなかった。
一瞬拡がった喜びはあっという間に消え去ってしまった。
不安と、
苦しみと、
悲しみ、
そして・・・


・・・祈りだけがその場に残った。











コメント***

ハーレイもジョミーが大事!
最初この役をリオかハーレイで悩んだんですが
ブルーに向かって物申せるのはハーレイのような気がしたのでハーレイです。
ちょっと短いですが都合で区切ります。多分3部構成になります。
漫画では気を失ったジョミーが己の内に生かし続けるブルーを求める(間違えていないよね?)
んですが、アニメはブルーがまだご存命なので、いっそ起きてしまえ!と思いました。
フィシス様の役目を奪っちゃってみたりします。
今度のアニメ放送前には終わらせたい・・・。
因に、暗いというか痛いというか、切ない系の話になると思います。