懐かしい。
いや、初めてか。
初めてだけど、懐かしい。
ジョミーの唇はやわらかくて、やわらかくて、
気持ちよくて、とても・・・甘い。
”ブルー”という存在を認識して欲しくて
”ソルジャー・ブルー”を出して欲しくなくて
言葉に”彼”を乗せて欲しくなくて
ただ唇を塞いだ。
でも、それがあまりにも気持ちよくて離れがたい。
触れるだけのそれを、何度も繰り返す。
ジョミーの緑の瞳がよく見える。
驚きに見開かれているから。
それにも口付けてみたいと視線を外した途端、ドンッと突き飛ばされた。
ジョミーの手を離してしまったが、ちゃんと自分で浮いていた。
ある程度予想していた反応なので、ショックはあるものの冷静に受け止められた。
躊躇うことなくまっすぐにジョミーを見ると
怒りの為なのか、真っ赤になって震えている。
目の端には涙が浮いていた。
思わずその涙に手を伸ばそうとすると、その手が叩き落とされた。
「もう・・・もう、二度とぼくに近づくな!!
ぼくは”ジョミー”じゃない!!」」
その叫びとともにジョミーの姿が掻き消えた。
それを見送った自分はいま、「呆然」という表情をしているだろう。
「ジョミー?」
最後の言葉の意味を計りかねてた。
ジョミーじゃない。
それはどういうことか。
彼は間違いなくジョミーだ。
誰かが変装しているのでもなければ体が乗っ取られたのでもなければ
操られたのでもない。
では彼が指す”ジョミー”とは何のことか。
”誰”のことか。
自分が知る限りでは、ソルジャー・シンであるジョミーしかいない。
「・・・・記憶、が?」
違う。
そんな様子ではなかった。
部分的に心にとどめてはいるが、記憶は戻っていないはずだ。
そんなに簡単に都合の良いことなど起ころうはずが無い。
そもそも記憶を取り戻したなら、もう少し違う反応が見られただろうと思う。
では、何故・・・?
そう思ったところで、ふと思い当たった。
「・・・まさ、か」
それが一番、納得のいく答えだ。
「くっ・・・」
自分の思慮と配慮の無さに苛立ちを覚えた。
「ぼくは・・・なんて愚かな・・・」
爪が食い込むほどこぶしを握り締める。
悔しくて滲んでくる涙を唇をかんで耐える。
涙を流す権利なんて、――――無い。
「過去に捕らわれてきちんと”ジョミー”を見ていなかったのは、
僕のほうじゃないか・・・」
ブルーが気にしていたのは、自分ではなかった。
そう知ったとき、彼を拒絶していたはずなのに、
ジョミーの中には悲しみと怒りが渦巻いた。
ブルーが見ているのは違う”ジョミー”だった。
唇が触れ合った瞬間に、流れ込んできたイメージ。
自分と同じ顔で、夢に出てきたブルーをアルビノにしたような人と
同じような格好をしていた。
とても綺麗で大事に描かれた、記憶。
”その人”は”ジョミー”と呼ばれて幸せそうに微笑んだ。
自分と同じ顔なのに、まったく違って見えた。
それだけ、ブルーの”彼”へのイメージが綺麗だということだ。
「なんだよ、それ・・・」
(だから、ぼくにあんなに構ってきたのか)
どんなに否定しようと拒絶しようと。
だがそれは”ジョミー”を求めてのものだった。
ジョミーは膝に顔を埋めた。
(身代わりなんて、真っ平だ・・・)
コメント***
ブルーに頑張ってもらう話ですので、ブルーがちょっと情けない子ですが
それは気にしないであげて下さい・・・。
ジョミー、なんだか微妙にブルーに惹かれているっぽいですね。