「ジョ・・・」
呼びかけようとした矢先に、逃げ出された。
ぽつん。
後何度この効果音を聴けば済むのだろうか。
「・・・・・フィシスの嘘つき・・・」
昨日、彼女から連絡が来た。
ジョミーが歩み寄ってくれるかもしれない、と。
『あくまで”かもしれない”ですが』
と付け加えられたことなどは覚えていない。
期待が大きかったのかもしれない。
その期待の分だけ、ブルーの上には重たい不可視の岩が落ちてきた。








園芸部の花壇。
その前に座り込み、
「だ・・・駄目だああ!!!」
ジョミーは頭を抱えて叫んだ。
同じ園芸部の部員だし、昨日フィシスに言われたこともあり
歩み寄ってみようかなと少し考えた。
理由もなく避けるのも申し訳ないし。
などと・・・・ブルーのことを寝る直前まで考えていたのが
・・・いけなかったのかも知れない。
割り切って寝たはずなのに、ブルーが――――
夢に、出てきた。
いや、正確にはブルーではない。
初めて出会ったときに見てしまった、光の影響を受けた別の色彩。
それを纏った彼が夢に出てきたのだ。
「苦しい・・・」
それが、その彼を見たときの想い。
怖いほどに心臓が叩かれた。
嫌いなのではない。
もっと、何か違った想い。
座り込むジョミーの傍で、花壇の花が風に靡く。
思い返される、昨晩の・・・夢。


『地球といえば海―――水を想像しがちだが
 それだけでは駄目なのだよ。
 太陽と風と水。
 これが地球で命を育てるんだ』

微笑んだ赤い瞳。

『風が種と雲を運び、水が潤す。
 太陽が暖かさと生きる力をくれる』

応える声があった。

『レインが、貴方は風のようだと言っていました。
 貴方はミュウにとって一番大事な、存在の運び手ですね』

それは自分の声だろうか。
それに対する"彼"はやはり微笑んでいた。

『一番大事なのは、太陽だよ。
 太陽の暖かさが無ければ水は水でいられない。
 雲も生まれない。
 風は産まれない。
 太陽が無ければ全ての循環が止まってしまう』

"彼"が近づいてきた。

『ぼくが風なら、きみがいなければ存在できない』

頬に、触れられて上を向かされた。
視界いっぱいに拡がる、白銀と深紅。

『ぼくは太陽なんかじゃないですよ?』

問い返しているのはやはり自分だ。

『太陽だよ。
 ミュウの・・・ヒトの未来を照らしてくれる。
 ぼくの、大事な。
 ぼくという風はきみがいることで吹いていられるんだ』

そして・・・。




「うわああ!!」
ジョミーはそこで思考をストップさせた。
その後、展開は思いだしてはいけない。
いや、暗転していたから思いだせるわけではないのだが
何となく、流れ的に想像してしまったというか・・・。
別に酷い目にあったわけじゃない・・・じゃないはずだ。
目が覚めたときの自分がそれを教えていたから。

夢・・・だった。
いやにリアルに感じられたが、夢であった。
「だって、まるでミュウが受け入れられてないみたいだった」
ミュウは確かに少ないが、皆と普通に暮らしている。
それに出てきた名前が、自宅で飼っているハムスターの名前と言うのが
何とも現実的だ。
だが不思議と、"嘘だ"とは思わなかった。
ミュウの存在。
ミュウの未来。
まるで、それを支えようとしているような二人の会話。
切ない、夢。

「あれ・・・」
掌を見て、驚く。
朝と同じように、濡れていた。
夢を思い返しただけ。
要因など何もない。
それなのに、涙が溢れる。
「なんで・・・」
涙が、流れるのか。
何もないが、あるとしたら心のとても深いところ。
まるで氷河が溶け出すように、其処にある何かが少しだけ
溶け出して、流れたように・・・。





「ジョミー?」
呼ばれて振り返れば、色彩の違う同じ人。
その人が、驚いたような顔で立っていた。














コメント***

歩み寄れなかった・・・。
女神の導きがあろうとも、やはりブルーが
「いま、ぼくが行く」と
自分で連れてこないといけないようです(笑)

ジョミーはペットにレインを飼っています。
鳴きネズミは希少動物なので
ネズミ=はむすたーで!