「ジョミー」
「さようなら!」
翌日からの方針も決まり、部活が終わったところで
ブルーはジョミーに声を掛けたが、
挨拶の言葉と同時に、その姿は扉の向こうへ消えていった。
ジョミーと出逢ってから、何度この『ぽつん』という擬音語を
心で聞いたことだろう。
(少し、受け入れてくれたと思ったのに・・・)
寂しく思いながらも、ブルーは自分の鞄を抱えた。
(『折角生まれてきたのに』、か・・・)
一人、道を歩きながらブルーは先ほどのジョミーの言葉を思い返す。
言葉の端々に、"ソルジャー・シン"が見え隠れする。
(あれは、ナスカの頃だっただろうか)
ナスカで暮らしても構わない。
ミュウの生存を認めてくれるなら、ナスカから出なくてもいい。
そう訴えていた頃の。
花壇用の花として生み出された花は、人間。
雑草はミュウ。
花として生まれた以上、雑草であろうと咲かせたいというのは
人として生まれた以上、ミュウであろうと生きても良いはずだと。
おそらく彼の思いは、其処にあるのだろう。
「覚えていないのに、どうしてきみはまだ守ろうとする?
どうして再びミュウとして生まれてきたんだい?
何故、そんなにも"過去"に縛られているんだ?」
ブルーは足を止めた。
ジョミーは、初めてブルーにも笑顔を見せてくれた。
(今日の意見は、ソルジャー・ブルーのものだった・・・)
助言する立場は、楽だ。
だがそれでは対等になれない。
役に立ちたい。
認めて欲しい。
だが"ソルジャー・ブルー"の役割を担ってしまえば
それはジョミーがブルーから離れることになる。
「下手に記憶があるというのは難しいな・・・」
「どうしてあの人はぼくに構うんだろう」
ジョミーは思わず声に出して呟いた。
ブルーが意図的に構ってきているのは明白なのだ。
だが理由がわからない。
昨日、一度すれ違っただけなのにブルーはまるで
ジョミーを知っていたかのような態度で関わってくる。
どうしてあんな態度なのかもさっぱり分らない。
そして自分はどうしてあんなにも苦手なんだろう。
やはり分らないけれど、関わってはいけないのだ。
けっして嫌いではない。
綺麗だと思うし、一つ年上の所為か妙に頼りがいがある。
彼の言葉が行き詰まったとき、自分を救ってくれる気がする。
導いてくれる気がする。
でも。
(ぼくに関わったら、あの人が傷つく・・・。
甘えては、いけないんだ。
あの人は・・・)
そこで思考が止まる。
(あの人は・・・、何だろう?
ぼくは、その先に続く言葉をどう考えた?)
分らない。
いつもの、地球に対する思いと同じようにどうしても先が見えない。
「こういうときは、どうしたら良いんですか?」
答える声もない空へと、疑問を投げた。
「お悩みなのですか?」
「!」
思いも寄らず、問いが返ってきてジョミーは驚く。
ちなみにジョミーがいたのは公園だ。
人がいてもおかしくはないのだが・・・。
相手を見て、思わずジョミーは立ち上がってしまった。
「フィシス、さん?」
問いを返してきた人物が、驚きを増長させた。
「まあ、私を知っていらっしゃるの?」
嬉しそうに笑顔を見せるフィシス。
その笑顔はまさに花が綻ぶような、綺麗で可愛らしいもの。
「そりゃ、同じ学校ですから・・・。
うちの学校でフィシスさんを知らない人何ていませんよ」
美人が、そんな笑顔を見せれば異性でなくとも照れてしまう。
ジョミーは僅かに目を逸らしながら言った。
「ふふ、そう言っていただけると嬉しいわ。
お隣宜しいかしら?」
「え?ええ!!?」
フィシスと同じベンチに座るという事実に、ジョミーは声をあげてしまう。
それほど、フィシスという存在は学園の中でも希有な存在だ。
彼女に憧れる生徒は男女問わず多数。
マドンナ、というか女神のような存在だ。
それが同じベンチなど・・・。
と、思考を回転させている間にフィシスはゆっくりと腰を下ろす。
「お悩みなのでしょう?
私、少々占いが出来ますのよ。
宜しければ占わせて下さいな」
「占い?」
「ええ」
頷いて、フィシスは鞄の中からカードを取りだす。
「でも・・・」
「駄目かしら?」
「駄目、というわけじゃないんですが・・・」
ジョミーは言葉を濁す。
だが真っ直ぐに顔を向けてくるフィシスに対し、
失礼だと思い、木賃と理由を述べた。
「運命は、いつでも目の前にあると思うんです。
選び取るのはぼく自身でなければならないと・・・」
するとフィシスは驚いたことにとても嬉しそうな笑みを浮かべた。
「まあ、ジョミー。
それが分っていらっしゃるなら、やはり占わせて下さいな。
占いは所詮道を示すもの。地図のようなもの。
それを選ぶのはご自身だと知っているなら、
貴方はきっと正しい道を選択して前へ進める」
其処まで言われて、断る理由はない。
「なら、是非お願いします」
ジョミーは素直に占ってもらうことにした。
「ええ」
フィシスがカードを繰り初めたのを見ている間、ジョミーにはすることが無い。
フィシスに占ってもらったなど、どう友人に伝えようと考えていると
ふと有ることに気付いた。
「あれ・・・」
「どうなさいました?」
「ぼくの、名前・・・」
ジョミーの呟きに、くすりと笑いを零しフィシスは手を止めた。
カードは狭いベンチに綺麗に並んでいた。
その一枚を返しながら、形良い唇を動かす。
「ブルーと、同じ理由ですわ」
「!」
ブルーとフィシスは歳は同じだ。
復学生のブルーなら、一時期は一緒に過ごしていてもおかしくはない。
だが、ジョミーをそんな理由で知っているとは思えない。
「あなたも、ミュウなんですか?」
「ええ」
ジョミーの問いに、フィシスは静かに頷いた。
コメント***
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