「ブルー、どうしたのですか?」
中庭の芝生に座り込むブルーに気遣わし気な声がかけられた。
「フィシス・・・」
「折角ジョミーに逢えたというのに、貴方の心が沈んでいます」
その言葉に、ブルーは苦々しい表情をした。
「ぼくは・・・いまだにジョミーを縛っているんだ」
ジョミーは『記憶』を持っていない。
けれど、覚えている。
遥かな昔に、『ジョミー』と『ブルー』が交わした約束を。
そしてそれを懸命に守り続けている。
「ジョミーに逢いたくて、
 今度こそ、一緒に・・・同じように、
 穏やかな日々を過ごせたらと願ってきたが・・・」
それすらもただの自分の我が儘だが。
「ぼくは間違えていたのかもしれない。
 いや、ソルジャーブルーが既に間違えていたのかもしれない・・・」
彼の縛りは、其処から始まっているのだから。
生まれ変わった今でも、捕らわれるほどの想い。
「まあ!」
だがフィシスは何処か楽しそうな声をあげた。
「フィシス?」
ブルーの手を取り、微笑む。
「ブルー、貴方が気に病むことはありませんわ」
「だが・・・」
「貴方が、ジョミーにとって『ソルジャー・ブルー』以上に
 なればよいことです」
「ぼく以上?」
フィシスの言わんとしていることがよく分らない。
ソルジャー・ブルーは自分だ。
だがフィシスは首を振る。
「いいえ、『ソルジャー・ブルー』以上です。
 ジョミーの心はブルー、貴方ではなく
 『ソルジャーブルー』を大切にしている」
わかりますか?とフィシスが問う。
「ぼくの記憶に、打ち勝てと?」
「記憶は美しいですから、難しいかもしれませんが
 出来なくてはジョミーはいつまでたっても貴方に心を開いてはくれませんよ」
「そうかもしれないな」
ジョミーが避けているのは、考えるに『ソルジャー・ブルー』の記憶だ。
尊敬と敬愛、そして失うことへの怖れ。
それが何なのか、ジョミーが自覚するか
あるいはブルーが簡単に消えてしまう存在でないことをわかってもらうか。
そのどちらかを伝えられれば・・・。
「ええ、折角同年代になったのですから、
 『ソルジャーと後継者』ではなくお友達にならないと」
「ああ、頑張るよ」
ようやくブルーは笑顔を取り戻した。
「ですがブルー」
「なんだい、フィシス」
「ジョミーを隠していたことは反省して下さいね」
「なんのことかな?」
言いながらブルーは視線を空へと向ける。
「既にミュウとして目覚めているジョミーを
 私たちの誰もが昨日まで感知できませんでしたわ」
まるでブルーと出逢うより前には誰とも出逢えない様にと言うように。
「別に隠したわけじゃないさ。
 彼の目覚めの時、一度だけぼくはジョミーを見つけた。
 だが暴走しそうになるジョミーを守るようにと
 シールドを張った迄は良いが、押し負けて弾かれてしまってね」
目覚めの時は無防備な力の放出ゆえに、
そのエネルギー全てを外または内に溢れさせる。
感情のままのそれに打ち勝つのは容易ではない。
しも相手はジョミーだ。
生まれ変わろうと、その存在の持つ力の大きさは変わらない。
正直、フルパワーのジョミーに正常な状態で打ち勝つなど無理に等しい。
そして、弾き飛ばされてしまった。
「ジョミーはぼくのシールドを取り込んで
 自ら力を収束させたようだけど、
 お陰でぼくにも感知できなくなって・・・」
押さえる力に触れ、力を押さえる術を知ったのだろう。
だがブルーのシールドをそのまま自分のものとしてしまい、
ブルー自身にも判別できなくしてしまったのだ。
結果、意図せずジョミーを隠してしまったことになる。
自分からさえも。
だがそんなことは当のブルーでさえもジョミーに出逢うまでは気付かなかった。
見失ったことに、焦りと恐怖を抱いた。
ジョミーを探すために無茶をして入院する羽目になったことは
『仲間達』皆が知っている。
当然、皆がジョミーを探そうとはした。
けれど、ブルーの力を取り込んだ防御のせいで、
ジョミーの存在が誰にも捉えることが出来なかったのだ。
同じ学校にいるリオやフィシスにさえも。
焦るブルーを何とか病院に押し込めて、探しはしたが
それでも見つけることは出来なかった。
そしてさらに1年経ち、ようやく退院したブルーの目の前に
見失った光りが現れた。
ようやく再び見つけることが出来た。
それが昨日。
既に安定しているジョミーから自分の与えた余剰な力を回収し
ジョミーの力が必要以上に押さえつけられなくなった瞬間に
存在感が一気に増したので、他の仲間達にもジョミーがジョミーであると
認識されるようになったのだろう。
「まあ、でも結果的には良かったと思ってしまうよ」
自分がうっかり入院している間に、他の誰かが『再会』を果たしていたら
それはそれで面白くない。
「まあ・・・」
ブルーの素直な気持ちにフィシスは
何処か暖かい思いを抱いたまま苦笑するしかなかった。


















コメント***

フィシス様は生徒で登場。
リオ・ブルーと同じ歳なので学年はブルーより1つ上。
ソルジャー相談役はフィシス様です。
前の話のジョミーの話を聞いて多分落ち込んでたんだと思います。

ブルーはジョミー覚醒時に接触。
「待つんだジョミー!このままでは・・・」とか言ったんでしょうか(笑)
でもジョミーは多分暴走していたので覚えていません。
ブルー様入院の理由は・・・焦りすぎて高所から落ちたとかだったら
笑えないけど笑えます。