「ジョミー、飯食いに行こうぜ」
昼休み、ブルーが声を書けるより先にジョミーに声を掛けるものがいた。
というか、少し控えめに、しかし確かに
ブルーの周りに集まる女生徒達に阻まれてたった数歩の距離を
近づくことが出来なかったのである。
「ごめんサム、今週はぼく当番だから・・・」
その言葉にサムが思いだしたように相づちを打った。
「ああ、そっか。
 何なら手伝うぞ?」
その申し出にジョミーは笑顔で首を横に振る。
「いいよ、そんなに大変じゃないし、好きでやってるんだから」
「そっか、じゃあ頑張れよ」
本当に楽しそうに言うのでサムも笑顔で了承した。
「うん、ありがとう」
「しかしお前がまさかあの部に入るとは思わなかったよ」
少し意味有り気に笑うと、ジョミーは今度は少し怒ったような顔になる。
「どうせ似合わないよ」
だがそれは仲のいい友人同士の挨拶のようなもので
すぐに笑顔に戻って、ジョミーは昼食の入った鞄を抱えると教室を後にした。
(あの部?)
その姿を見送りながら、ブルーは疑問符を浮かべた。
ジョミーは運動部に入っていると思ったのだが
昼休みに『当番』があるということは違うようだ。
何処に行ったのかも大変気になり、
女生徒に軽く挨拶するように道を切り開きながらサムに近づく。
「あの・・・」
突然声を書けてきたブルーに、嫌な顔一つせず
にっこりと笑顔で訊ね返してきた。
「なんすか?」
クラスメイトとは言えブルーの方が年上なので
サムは一応丁寧語を使っているようだ。
「ジョミーはサッカー部だと思っていたんだが
 違う部活に入っているのだろうか?」
「へえ、ジョミーがサッカー得意なこと知ってるんですか」
「え、あ、まあ一応」
「そういや知り合いなんでしたっけ」
"知り合い"という言葉に先ほどのジョミーの否定を思いだし
ブルーは思わず苦笑してしまう。
「ジョミーが言っていた通りそれ程の関係でもないよ。
 昨日廊下で出会ったクラスメイト、程度さ」
「へえ、じゃあ別のことでジョミーを?」
「そうだね、ぼくはずっとジョミーを探していたから」
何故か今度は懐かしそうに、そう呟くブルーに
サムは流石に疑問を抱いた。
悪い意味ではないけれど、とても気になる。
それ程に深い思いを宿した表情だった。
「探していた?」
素直に訊ねると、しかしブルーは微笑を浮かべるだけ。
「理由は秘密だよ。
 それで、ジョミーは一体何部に入ったんだい?」
「ああ・・・」
こういう相手は、言わないと言ったら言わない。
そう理解してサムはそれ以上訊ねずに、ブルーに答えを与えた。













ジョミーは部の当番を終えてその場で昼食を取っていた。
「驚いたな」
「!っ・・・」
一人しかいないはずのその場に、聞き覚えのある声が入ってきて
ジョミーは驚きのあまり咀嚼していたものを上手く飲み込めず
胸をどんどんと叩いた。
何とか飲み込んで、はあっと息を吐いた後
涙目のまま声の人物を振り返った。
「ブルー・・・」
「驚かせるつもりはなかったんだが、すまない」
言いながら、ブルーはジョミーに歩み寄る。
「来るな!」
「ジョミー・・・」
思わず足を止めるが、それでも近づきたいと
僅かに身体を動かしてしまうブルーに、ジョミーが悲鳴のように訴える。
「来ないで・・・ぼくに関わらないで・・・」
あまりにも『近づくこと』を強く拒絶してくるので
ブルーは流石に胸が痛む。
「ぼくは、きみに何かしてしまっただろうか」
嫌われてはいない。・・・筈だ。
それなのに近づくことを拒絶してくる。
それは、怖れと言ってもいいほどの思いで。
「貴方は悪くない・・・。
 ぼくは・・・ぼくが・・・」
ブルーの言葉にジョミーは必死に首を振る。
「ジョミー・・・」
「ぼくに・・・・」
ブルーはそれ以上近づくのを諦め、その場に腰を下ろした。
「これ位距離があれば大丈夫かな?」
「・・・・・」
僅か数メートル距離。
けれどジョミーはこくりと頷く。
「よかった」
と、ブルーは嬉しそうに笑った。
その笑顔から顔を背けると、ジョミーは訊ねる。
「なんで、此処に?」
「ジョミーがここにいると聞いたから」
「どうしてぼくに?」
驚いて再びブルーに視線を送ってきたジョミーに
ブルーは優しげに微笑む。
「それは、もう少しきみがぼくを受け入れてくれたら
 その時に教えてあげよう」
勝手に訊ねてきて、なのに理由を明かさない。
けれどジョミーは不思議と不快には感じなかった。
ブルーは本当にそれ以上その話題については触れず、
辺りを見回して何処か感心したような声で呟いた。
「しかしきみが園芸部だとは思わなかったなあ」
「どうせ似合わないですよ」
「似合わないとは思わないが
 きみは運動部に入ると思っていたから・・・」
「運動部の手伝いはしますよ。
 でも、ぼくには夢があるから・・・」
「夢?」
「地球を緑でいっぱいにするんです。
 緑がいっぱいになればその浄化作用で海も、陸も綺麗になる。
 そうして綺麗な青い海の青い地球に、いつか・・・」
それ以上言葉が続かない。
否、分らない。
続くべき言葉が。
地球が大好きだ。
だから綺麗であって欲しい。
それは確かだ。
けれどそれだけではない。
"いつか"の為に。
"いつか"が何であるかも分らないけれど、
物心付いたころから、誓いのようにジョミーの中に存在し続けている。
『青い地球を、いつか―――に』
と。









コメント***

ジョミーは園芸部!
これは実は結構前から決めていたことでした。
運動部の助っ人などは行きますが
所属は園芸部。
正確にはきっと園芸同好会程度の人数しかいないと見ました。
人数少ないと色々大変ですが、それでも所属します。
彼は地球の緑を守りたいんです!
・・・キースは・・剣道部かアーチェリーか弓道部ですかね。
本当は園芸同好会に入れたい気もしていますが・・・。
シロエと弓勝負していましたから、弓道部の線が一番強いかも・・・。

ギャグテイストのネタだったはずなのに、書き始めると
何故かシリアス街道に足を踏み入れています・・・。
ほんとうはもっとこう
「気安く近づくなよ、この変質者」
みたいな台詞がでるはずだったんですが・・・何処に行ったんでしょうね。
このジョミーじゃあもう言ってくれない気がするので
此処でネタとして明かしてしまいます。