「やあ、おはよう」
爽やかに挨拶された。
「ひっ」
が、ジョミーは青ざめた。
挨拶してきたのは忘れもしない昨日廊下で出くわした人物だ。
同じ学校だと言うことは昨日理解していた。
下手をすればあうであろう事も。
が。
何が悲しゅうて、朝から一番会いたくないと願っていた人物に
会わねばならないのか。
この状況を打開したい。
そのためにすべきことは・・・。
「気分はよくなっ・・・・」
そこで声が止まった。
ジョミーが目の前から姿を消してしまったからだ。
見れば走り去るジョミーの後姿が離れた場所に。
ぽつん、という効果音が聞こえてくるようだった。
だがこの程度でめげはしない。
(これは・・・鬼ごっこかな?)
成程、そう考えると楽しいかもしれない。
今度見つけたら逃げられないように捕まえなければ。
「ぼくは昔より体力があるんだよ」
そう呟いて走り出した。







(やはりジョミーと体力で競おうとすること事態が無謀だったか)
ものすごい息苦しさと疲労に襲われながら、必死に走っていた。
いまさらながら、もっと考えて行動するべきだったと反省する。
目の前にジョミーがいた為、冷静な判断がつかなかったなど言い訳でしかない。
しかしこの体力差は・・・"以前"のように歳とか、そういう問題ではない。
ジョミーはもともと体力があるのだ。
恐らく、今生でも。
だからと言って、目の前にいるのに諦められるはずがない。
「何故、逃げ、るんだい」
苦し紛れに声をかけると、ジョミーは振り返ってくれた。
が、青ざめた。
「ひっ!何であんたが付いて来るんだ!」
(付いて来ていると思ってなかったのに走り続けてたのか?)
等と考えてしまうが、それよりも今はコミュニケーションが大事だ。
思わず叫んだジョミーに、息切れを起こしながら答える。
「君が、逃げる、から、理由が、あるのかと、思って」
「逃げてない逃げてない、理由も無いからついてくんな!」
「そう、いいながら、現に、今、逃げて、いるじゃ、ないか」
逃げてないなら止まってくれと本気で思う。
「これはただ全力疾走しているだけだ!」
「なんで・・・そんな、っ!」
がくりと膝が折れた。
その場に座り込んでしまう。
突然足音と声が消えたのが気になったのか、ジョミーが振り返ると
そこには手を着いて座り込む姿があった。
辛そうに肩で息をしている。
「大丈夫ですか!!?」
逃げていたのも忘れてジョミーは慌てて駆け寄る。
肩に手を置くとその手が軽く握られた。
「やっと・・・捕まえた」
そう言いながらあげられた顔は
疲労の見える顔色で、それでも嬉しそうに微笑んでいた。
「っ!」
その笑顔に、ジョミーは弾かれたようになる。
けれど、昨日のように逃げ出すことはしない。
「訳の分からないこと言ってないで、保健室行きましょう」
「はは、昨日とは、逆、だね。
 でも、大丈夫。
 走りすぎて、疲れた、だけ、だから」
荒く肩で息をしながら、そう答える。
だがその姿は傍から見ていて、とてもそうは見えない。
「ぜんぜん大丈夫そうに見えませんけど」
そういうと肩を貸して立ち上がらせる。
「本当に、大丈夫だよ、ジョミー程では、ない、けど
 ぼくだって、ミュウでは、あるが、それなりに、体力がある」
その言葉にジョミーは驚いた。
「貴方もミュウなんですか?」
基本的にミュウと呼ばれるのは覚醒したものだけだ。
ミュウの存在ははるか昔に確認され、容認されたが
その因子を持っていても、目覚める者の数はそれほど多くは無い。
昔は成人検査というものでミュウかそうでないかを確認して
目覚めさせていたと言うが・・・。
ふとジョミーはとあることに気づいた。
「ぼくの名前!」
名乗っていないはずなのに、彼はジョミーの名を呼んだ。
「あ、貴方もミュウならもしかしてそれで?」
ミュウは心の声を聞くことが出来るから。
名を思い浮かべれば、相手に伝わってしまう事だってある。
たずねると、少し楽しそうな笑顔になった。
「そうであって、そうでない、かな」
「はあ?」
どっちだ、とジョミーは思った。
その心が伝わったのか、また笑われる。
ジョミーはむっとしたが≪嬉しくて仕方が無い≫
と言う思いが伝わってきて文句を言うのは止めた。
「ぼくはブルーだよ」
「え?」
唐突に囁かれて、ジョミーは疑問符を浮かべる。
「名前」
「あ・・・」
理解することは出来たが、ジョミーはそれ以上何も言えなかった。
その名を口に乗せるのが何故かとても怖かった。
それきり会話が途切れる。
人気の無い特別教室棟から保健室に向かう間
二人は終始無言だった。









「貴方初日からなに・・やっているんです・・・か」
保健室で出迎えてくれたのは、保健委員長の青年。
ブルーを見た途端、でた言葉がコレ。
声が途中とぎれとぎれになったのは、ジョミーを認識してからだ。
驚いた顔でジョミーを見る。
「なにか?」
「あ、いえ。済みません。不躾に・・・」
ジョミーが問うと、申し訳無さそうに謝ってきた。
「私はリオと申します。
 保健委員長を務めております」
「はい、知っています」
この学校の生徒はそれぞれの委員会の委員長は大体覚えている。
頷いた後、ブルーに視線を送る。
「それで、彼なんですが・・・・」
「ああ、また無駄に体力を消耗したんでしょう」
「無駄と言わないでくれ」
ブルーが不貞腐れたように言う。
リオの出迎えの台詞からも何となく思っていたが、
どうやら二人は顔見知りのようだ。
此方に。とリオに促され、ジョミーはブルーをベッドに連れていった。
大人しくベッドに沈んだブルーを見て、リオに問い掛ける。
「からだ、弱いんですか?」
「どうしてぼくではなくリオに聞くのかな?」
ブルーが面白くなさそうに言うが、まったく無視。
「弱いとは言いませんが、ミュウなので他の人よりは
 すこし体力的に劣りますね。
 長期入院していて体力が落ちているのも事実です」
リオも同じく無視して答えを返す。
「入院?」
「はい。昨日から・・・まあ正確には本日から1年生として復学することに
 なっていたのに・・・・初日から保健室とは・・・」
嘆かわしい。
と、リオは呆れたように額を押さえた。
ブルーは何となくリオを睨んでいるようだ。
取りあえず、リオに任せておけば問題ないとジョミーは判断した。
「じゃあ僕は行くので、この人宜しくお願いします」
そう言うと立ち上がってさっさと鞄に手を掛ける。
「え、ジョミー!!?」
ブルーが驚いたようにジョミーを呼ぶと、
ジョミーはブルーを振り返り、笑顔で一気に捲し立てた。
「ぼく授業あるし失礼しますね!
 それから、そんなに体力無いならぼくには構わないほうがいいですよ。
 それじゃ」
「ジョミー!待っ・・・」
その声は届かず、ドアが良い音を立てて閉まった。
また、ぽつんという効果音が聞こえてきそうな気がした。
呼び止めることのかなわなかった手が、虚しく宙に留まっている。
その様子にくすくすと忍び笑いが聞こえた。
「笑わないでくれ」
ブルーは肩を落としながら呟いた。






コメント***
と言うことで名前を出していなかった"彼"はブルーでした。
・・・バレバレでしたね。はい。
保健室で待ちかまえていたのは誰か。で凄く悩んでリオに。
イメージ的に《ソルジャーの傍にリオあり》なので。
ちなみにハーレイは補佐官イメージ。
ブラウ航海長辺りが保健の先生でも楽しかったんですが
フィシスもありだと悩んだりして、結局保健委員長リオです。
ちなみにジョミーはまだブルーを避けています。
倒れた人を見過ごせないので、保健室までお伴しただけです。
・・・・ブルー、若いんだから頑張れ〜。