怖い。
怖い、と思った。
足が震えてうまく歩くことすらかなわない。
逃げ出したいほど怖いはずなのに、
怖すぎて身体が動いてくれない。
何が、怖いのか。
全く分からない恐怖心。
でも―――――――怖い。
目の前の、人物が。
「どうしたんだい?」
問う声に心臓が跳ね上がった。
唇が震えて、声がうまく出せない。
「ど・・・どうも、しない・・です」
何とか、声を絞り出す。
すると目の前のその人は苦笑した。
「そう?」
「は・・・い」
何とか、頷く。
「でも顔が真っ青だよ。
気分が悪いなら、保健室に・・・」
言いながらこちらに手を伸ばしてくる。
おそらく此方の様態を確かめるためだ。
でも、
いやだ。
いやだ。
いやだ。
怖い!!
「触るな!!」
叫び声と、パンッと何かを叩く音がした。
だが何が起こったのかわからない。
気がつくと、動かなかった筈の足が全力疾走をしていた。
ズルズルと身体が壁を滑るように落ちていく。
全力疾走したため身体が疲れたからだ。
だが、それだけではない。
「うっ・・・・」
涙がぼろぼろと零れ落ちる。
あの人はただ心配してくれただけなのに。
厚意を踏みにじるようなことをしてしまった。
何であんなに怖いのか分からない。
でも、怖かった。
薄い金髪と青い瞳のとても綺麗な人。
色素が薄いのだろう。
光の加減で網膜の色がその瞳の奥に映り
淡い金色の髪が銀色に見えた瞬間、
心臓が壊れるかと思うほどに跳ね上がった。
あの人に近づいてはいけない。
係わってはいけない、と本能が叫んだ気がした。
だから、逃げ出した。
こういったことで、ミュウである自分の感は外れたことはない。
確かに失礼なことはしたけれど、
間違った行動をしたわけではない・・・そう信じたい。
なのに、どうしてこれほど胸を締め付けるのか。
「逃げられてしまった」
酷い扱いを受けたはずなのに、その表情は優しい笑みだった。
叩かれた手を大事そうにもう一方の手で包む。
「またここからスタートか」
いつだって彼には否定されるところから始まる。
何がいけないのだろうと、悩んでしまう。
アプローチの仕方だろうか。
しかし、前回と違って失礼なことをした覚えもないし
此方の思いを押し付けたりもしていないはずだ。
なのに思いきり否定されて逃げられてしまった。
だが。
そんなことは些細なことだ。
何よりも大切なことは果たせたから。
「ようやくきみを見つけたよ、ジョミー」
そう。
彼を・・・やっと見つけた。