ブルーはこくりと頷いた。
「ぼくはソルジャー・ブルーの記憶を持っている」
そう述べると、ジョミーはまた嬉しそうに笑った。
「きみは、笑ってばかりだ」
『だって、嬉しいからね』
ブルーのその言葉すら、笑みを引き起こしてしまう。
『凄いやブルー!
人が再び住めるようになった地球に最初に戻ってきたのが
きみだなんて・・・』
あれほど地球に焦がれて、辿り着くことが許されなかった人が
生まれ変わって、再び地球を目指し
そして最初に辿り着いた。
そんな巡り合わせが、奇跡のように起こった。
それがジョミーには嬉しい。
ふと、ブルーが呟いた。
「ミーシャもだ」
『ミーシャ?』
聞きなれない名にジョミーは疑問符を浮かべる。
するとミーシャが声を掛けた。
「私のことよ、ジョミー。
私の今の名前はミーシャ」
『ああ、成程!
じゃあ、きみのことはミーシャって呼ばないとね』
そしてブルーに顔を向ける。
「ぼくは・・・ブルーだ」
同じ名前に生まれついたことに、微妙そうな顔でブルーが漏らす。
「ブルーは、地球に憧れた彼の両親が
青き星を思って付けた名前なんですって」
『そうか、うんわかった。
ブルーの名前は地球の名前なんだね。
機械に統制された地球ではなく、
あるがままの地球に還ってきた
ソルジャーではない、ただのブルー』
そこまで言うと、二人に優しい笑顔で言った。
『おかえりなさい、ふたりとも』
やっと、還れたんだね。
ソルジャー・ブルー・・・。
今のブルーはソルジャーではない故に、心の中でそう付け加えた。
その思念も、風に溶け込んだ。
ふと、空が紅に染まり初めた。
ブルーとミーシャにとっては、地球で初めて見る、夕焼け。
美しき空のグラデーション。
だが、二人にはそれよりも心を占めるものが今はあった。
『今日はもう日が暮れるから、帰ったほうがいい。
きみ達は今、家族と居るんだろう?』
どう動いていいのか判らない二人にジョミーは声を掛ける。
「まってくれ、きみの・・・」
ブルーが言いかけたところで、二人の乗ってきた連絡艇に通信が入った。
「パパやママが心配しているわ」
ミーシャが呟くと、ブルーは微妙そうな顔をして
もう一度ジョミーを仰ぐ。
やはり優しい笑顔のまま。
「明日、来たらきみはいるか?」
『ぼくはいつでも、地球の何処にでもいるよ』
ブルーの問いにジョミーは答える。
「また、会える?」
『うん』
ふぃシスの問いにジョミーは頷いた。
「本当だな?」
だがブルーは少し疑うような視線で再度問う。
『ソルジャーは嘘をつくと信頼を無くしてしまうんだ』
そう、ジョミーに言われてしまい、
ブルーは信じる以外の道を無くした。
「また、明日くるから・・・」
『待ってるよ』
「また、明日ね。ジョミー」
『また、明日』
ブルーとミーシャは手を振るジョミーを見ながら船を飛ばせた。
ジョミーは、二人の目に見えなくなる迄ずっと手を振ってくれていた。
「ブルー」
「なんだい、ミーシャ?」
疑問符を浮かべるブルーの頬には、涙が伝い続けていた。
本人が気づいているのかわからない程自然に、ひたすらに溢れ続ける。
それは喜びの涙なのか、悲しみの涙なのか。
ミーシャにはそれが計りかねた。
いや、おそらく両方なのだろう。
人の心は同時にいくつもの感情を持てるのだから。
ミーシャは首を振って続けようとした言葉を飲み込んだ。
「今日は、沢山のことがあったわね」
「うん・・・」
地球に辿り着いたのも、花畑を見たのも
・・・ジョミーに、再開したのも。
全てが今日一日の出来事。
地球を抱いていたフィシスの記憶を持つミーシャにとっては
まだ頭の中で整理できる範囲なのだが
地球に焦がれた、そしてジョミーを大切にしていた
ソルジャー・ブルーの記憶をもつブルーには
本当に一度に色々ありすぎて、頭の中で整理が追いつかないだろう。
だから、時間など関係ないであろうジョミーが
何故一緒に来てくれなかったのか、それを告げる言葉を飲み込んだ。
(ジョミーは、ブルーの申し出を聞き入れたくなかったのね)
「同じ星空なのに、宇宙船から見るのと地球から見るのでは
こんなにも違うんだね」
ブルーは横になりながら天を仰いでいた。
満天の星空。
宇宙空間から見るほどはっきりしていないが、
逆にそれが、星星を美しいと感じさせた。
「そうね」
ミーシャも同じように空を見上げながら呟いた。
「ジョミーも、何処かで見ているだろうか」
「見ていると思うわ。
ああ、でももしかしたらジョミーは
今、昼に居るかもしれないわね」
くすくすと笑いながらミーシャが言った。
「地球の反対側にジョミーか・・・」
「遠い?」
「いや」
ブルーは首を振る。
この星そのものが、ジョミーの優しい想いで満ちているから。
「明日は・・・」
呟きかけて、ブルーは声を失った。
「ブルー?」
ミーシャがブルーに視線を向けると、規則正しく胸を上下させていた。
「色々なことがあったものね」
記憶を持っているとはいえ、所詮二人とも子供。
肉体的にも精神的にも疲れ切っていておかしくはない。
「わたしも、寝るわ。
おやすみなさい、ブルー」
(おやすみなさい、ジョミー)
ミーシャも風や草の匂いに包まれながら、瞼を下ろした。
『おやすみ、二人とも』
その囁きと、風邪を引かないようにと暖かな何かが二人を包んだ。
『良い夢を』
|