再び出逢えるならあの青き星で










「フィシス!フィシス!!」
叫びながら金髪の少年が飛び込んできた。
元気なその姿を微笑ましく思いながら、
フィシスと呼ばれた少女は笑顔で注意する。
「ブルー、私はミーシャよ」
「ああ、そうだった。ごめんよ」
「いいのよ。
 それで、どうしたの?」
「地球だ!地球が見えた!!」
ブルーの言葉にミーシャは驚きを露にする。
まだ太陽系に到着してすらいないのだ、この船は。
「え・・・でもまだ・・・」
しかしブルーは自信有り気にきっぱりと言った。
「間違いない、あれは地球だ!!」
ブルーの姿は、『ジョミー』に良く似ていた。
性格も、まだ子供のせいかやや落ち着きが無いため
何処かジョミーを思い返させるものだった。
ブルーに連れられてミーシャは観測室へ行くと望遠鏡を覗き込んだ。
そこに星星の間を僅かに縫うようにして見える、青。
「あ・・・」
「間違いないだろう?あれは地球だ!」
言いながらブルーも覗き込む。
「もう、滅びたと思っていたのに・・・」
呟く唇を持った顔についた瞳が映すのは、青く美しい惑星。






その3日後、彼らは地球へ下り立った。





楽園。
その言葉が似合いそうなほど、美しい場所。
水が有り、空気が有り
「風も有る・・・」
人が、呼吸するに十分なだけの空気。
かつてこの星で生命を支えていた環境が目の前に拡がっていた。
「永かった・・・」
「ブルー・・・」
「ぼくは・・・」
それ以上何も言えずブルーは涙を流した。
ミーシャも黙ってブルーを抱きしめた。

彼はようやく地球に帰れたのだ。





あまり遠くへ行ってはいけないと言われた二人は
小さな連絡艇で飛んでみた。
ブルー達が降り立ったのは色とりどりの花畑。
その中に地球の色をした美しい花が揺れていた。
「綺麗だ・・・」
「本当に」
ミーシャは膝を曲げて花に近づいた。
「地球には、青い花は無かったと聞いたけれど・・・」
「じゃあ、新しく生まれたのかな・・・」
言いながらブルーが青い花に手を伸ばす。
「っ!」
一輪だけ、と指を折った途端ブルーが痛みに顔をしかめた。
「ブルー!」
『だめだよ、ソルジャーは見た目の割りに茎が強いから』
「誰だ!?」
自分たちのほかには誰もいないと思っていたのに
突然声がしてブルーはミーシャを背後に庇うように立った。
『君達は・・・人の、子供たち・・・か?』
"声"も、驚いたように問い掛けてくる。
「そうだ!お前は何処にいる!?」
前世の記憶を持つブルーとミーシャにとって
姿が見えない声に、怯えを持つことはない。
『人が・・・この地球に還ってくるなんて300年ぶりだ・・・』
「姿をみせろ」
叫びながらブルーは何処か心の中で響く音を聞いた。
逢わなくてはならない。
『もうすぐ燃え尽きるぼくの願いを聞き届けてくれたのかな・・・』
「出てきてくれ」
徐々にブルーの声が悲鳴のようになる。
ミーシャに至っては声もあげられなかった。
だって、これは・・・。
「いま、すぐに!!」
ブルーの呼びかけに、"声"の主が姿を現した。
青い花畑に鮮やかに翻る緋色のマント。
ブルーと同じ、黄金に輝く髪。
少年と青年の間に位置する顔立ち。
その顔は泣きそうなほど嬉しそうに歪んでいた。
『人が、この地球に還ってきてくれるなんて思っていなかったよ』
「ジョ・・・ミ・・・」
『!』
ブルーが呟くと、ジョミーは驚いた顔になる。
『ぼくを、知っているの?』
だがブルーは目を見開いたまま何も言えずに立ち尽くす。
そんなブルーの様子に、ミーシャが一歩前に出てジョミーに声を掛ける。
「ジョミー、わかるかしら。
 私はフィシスよ」
『え!?』
ジョミーは驚いてミーシャをしっかりと見る。
確かに、似ている。
顔立ちよりも、感じ取れる優しい思念が。
「貴方が、まだ・・・生きていただなんて・・・
 ひとりで、この星に置き去りにして・・・」
そこまで言ってミーシャも泣き崩れてしまった。
『うん』
ジョミーは肯定ではなく、幼子にする相槌のように頷く。
「あの時・・・私たちは・・・人間とミュウは・・
 地球の大爆発から逃れるために全て逃げ出した・・・」
ミーシャは悲しげな顔をあげた。
その目に溜まる涙は未だ溢れ続ける。
「貴方を置いて・・・」
『フィシス、フィシス、泣かないで
 それで良かった。
 あの災害は人には耐えられないから』
慌ててジョミーは手を伸ばすが、ミーシャには触れない。
いや、触れられないのだ。
『きみの考えは間違えていない。
 ぼくは確かにあの時死んだ』
その言葉にブルーの肩がビクリと動く。
『今残っているのは思念だけなんだ』
それにね、とジョミーは付け加える。
『ぼくは皆をちゃんと見送ったよ』
笑顔で、ミーシャにそう告げた。
そしてそれからのことを話初めた。
『噴火や災害は起こったけれど、地球そのものは壊れなかった。
 ぼくは、思念のまま彷徨い続けて全てを見届けた。
 そして、ふと気付いたんだ。
 新しい芽が既に芽吹き初めていたことに
 地球はまだ死んでなどいないって』
(命は生きるものだ)
そう、いつしか言われた言葉が頭をよぎった。
『それからぼくは必死に地球の環境を戻すことを考えて過ごしてきた』
地球を求める心はきっとまだ存在する。
壊れたと思っても、求めるものが居るかもしれない。
そう考えて、ひたすら時を重ねてきた。
思念波で干渉できるものに干渉し、
時には自然の流れるままに任せ
300年間、地球を守ってきた。
『もう、地球がまだあると誰も考えないかもしれない。
 誰も、戻れるとは思っていないかもしれない』
それでも、とジョミーは続ける。
『地球に帰りたいと望むもの達が、還る場所を得られるように』
そして君達が、還ってきてくれた。
その言葉にミーシャが訊ねる。
「さみしくは、なかった?」
『必死だったからね。
 そんなこと思う余裕もなかったかもしれない。
 何処かで新しい命が生まれるのが
 こうして花が咲いてくれるのが嬉しかったし』
思いだせるのは楽しいことや嬉しいことばかりだ。
述べるジョミーは本当に嬉しそうに、そして優しく微笑む。
『まあ、たまにちょっと悪戯で花に名前を付けてみたりしたけど』
その言葉を聞いたブルーがようやく口を開いた。
「あの・・・花・・・」
『うん』
「ソルジャーって、言った?」
『そうだよ、"ソルジャー・ブルー"だ。
 儚げに見えてじつは芯が強い花なんだ』
慈しむように、そっと花を撫で上げてジョミーは一輪手折る。
花は、ジョミーに干渉できるものの一つ。
『はい、欲しかったのでしょう?』
ブルーにその一輪を渡した。
驚きながらも受けとるブルーにミーシャはくすりと笑いを零す。
そんなミーシャにジョミーは向き直る。
『それからこれがフィシス』
淡いピンク色の花を一輪、ミーシャに渡した。
『嬉しいな、今このときにフィシスに会えるなんて』
幸せそうに笑うジョミーに、しかしミーシャは
言い知れぬ予感が胸を責め立てる感覚に襲われた。
「ジョミー?」
『あれから、300年の月日が流れた』
300年。
その言葉がミーシャと、そしてブルーに重く伸し掛かる。
ジョミーの言わんとしていることが、わかってしまう。
『ぼくは、もうすぐ燃え尽きる』
ブルーは溢れそうになる涙を必死で堪えた。
これほど、この言葉が重いものだなんて
この言葉が痛いものだなんて、
”ソルジャー・ブルー”は"知っていた"のに
"わかっていなかった"と、初めて気付かされた。
ジョミーは尚も続ける。
『もともと既に肉体は死んでいるのに
 此処まで生き続けてこられただけでも奇跡だ』
その言葉にジョミーはやはり笑顔を崩さない。
300年の月日を掛けて人間が地球へ戻ってきた喜びと
懐かしい仲間に会えたことが幸せだと歌うように。
その笑顔は昔と変わらない、光り輝くようなものだった。
ブルーは震える声を何とか搾り出し、問う。
「本当に、きみの体は死んでいるのか?」
『?・・そうだよ』
頭に一発。
身体に3発。
銃弾を受けたのだから。
「身体がないのに、300年もその姿を忘れずにいられたのか?」
『身体は有るよ。氷室に閉じこめてある』
閉じ込めたというか、勝手に凍りついてしまったのだが。
お陰で未だに腐ることもなく存在している。
「その身体が、みたい」
『何を・・・』
なぜ少年がそんなことを望むのかわからない。
「見せてくれジョミー。
 きみに、生身のきみに会いたい」
『あまり子供に見せるようなものじゃないよ』
所詮は死体。
だがなおも縋り付かく。
「ぼくは前世の記憶を持っている。
 確かになりは子供だが、死を受け止めるくらいの心は有るつもりだ。
 ぼくだって、だてに300年間ソルジャーを務めたわけじゃない」
その言葉に、ジョミーは驚きに目を見開く。
少年は、金髪で青い瞳。
顔立ちは何処か幼いころの自分を思いださせるようなもの。
だが、あの言葉は・・・
『もしかして、きみは・・・・ブルー?」











コメント***

少年=ブルー
ミーシャ=フィシス
ジョミー=思念だけの地球の守護者

でお送りしております。
ジョミーに早く逢わせたかったので
最初の方はとても急展開です。
ジョミーはひたすら300年間
地球を青く染め上げるために必死でした。
でもイメージは如雨露をもって
微笑みながら花畑に水をやるような姿でお願いします。
もうちょっと続いてみます。