僕らの学舎E-1077(7)
「ええと、キース何か飲む?」
ジョミーが汗を垂らしながら訊ねると、
じろりと言う音が聞こえそうな視線をキースに向けられた。
それはそうだろう。
シロエを呼び止めようと焦ったジョミーは
思わずキースの鳩尾に思いきり膝蹴りを食らわせたのだ。
ちなみに何故あんなことになっていたのかといえば
まだ麻酔の効果が切れていないのにすぐにでも
シロエの元へ行こうとするジョミーを
「取りあえず一度ちゃんと睡眠をとれ。
シロエは俺が連れてきてやるから」
と窘めながらキースが寝かせようとしたのだ。
だが素直に言うことを聞かずに自ら行こうとするジョミーを
無理やり寝かしつけようとしたところへ、シロエが登場。
と言うことである。
そして慌てたジョミーがキースに退いて貰おうと勢いあまった結果の
鳩尾事件だ。
ジョミーはキースの視線から逃れるようにシロエに向き直る。
「し、シロエは何かのむ?」
「飲み物なら先程カフェで頂いたばかりです」
「そ、そうだよねえ・・・」
ジョミーはそれ以上何も言えず、ぽつんとその場に立っていた。
「座れ」
そのジョミーに声を掛けたのはキースだ。
寝かしつけようとしていたジョミーがちょこまかと動き回っていたからだが
ジョミーはキースが怒っていると判断したのか
畏縮しながら、ちょんと隅の方に座る。
配置的にはキースがベッド、シロエが椅子、ジョミーはベッドの端である。
キースは溜め息をついた。
「メインがそんなにはなれていてどうする」
「へ?」
キースの言葉に間抜けな声をあげてしまう。
「シロエはお前の話を聞きに来たのだろう?」
「そうなの?」
シロエに視線を向けると、肩をすくめられた。
「まあ、そうなりますね」
言われてジョミーは笑顔になった。
「よかった、さっきので嫌われたかと思ってたんだ。
いきなり席を立ったりしちゃったし」
「ああ、そうですね先にその事に文句を言っておきますか。
まったく二人揃って後片づけもせずに行ってしまうなんて
酷いじゃないですか。
お陰でぼくは3人分の片付けを為なければならなかったんですから」
「う・・・ごめん」
そう言えばそんなことはすっかり忘れていた。
素直にジョミーは謝る。
「まあ良いですけど」
シロエはあまりに素直に謝られすぎて、溜め息をつくしかなかった。
「それで、シロエの話って何だろう?」
「ええ、貴方にちょっと興味がありまして」
「興味?」
問われて、シロエは躊躇いがちに訊ねる。
「記憶を無くしていないというのは本当ですか?」
「本当だよ」
ジョミーはあっさり頷いた。
そもそも言っていないだけで隠しているわけではないので
少し調べれば解ることだ。
すぐに答えが返ってきて安心したのか、シロエは質問を続ける。
「何故だか解りますか?」
「消されたくないから」
真面目な顔でジョミーは言った。
「なっ!」
シロエは真っ赤になった。
怒りのためだ。
消されたくないから消されないなら自分だって消されていない。
それなのに、そんなことを当たり前のように言われれば当然腹も立つ。
だがシロエが何かを言うよりジョミーが口を開くほうが早かった。
「この続きは・・・あまり誰かには聞かれたくない。
どうしてもと言うなら、ぼくの部屋で続きだ」
その言葉に今まで黙っていたキースが問いを投げる。
「この場合、その「誰か」は俺になるのか」
「うん、友達だから聞かれたくないこともあるんだ」
「そうか」
ジョミーの言葉に頷いて、それ以上は何も言わなかった。
聞かれたくないという言葉はショックだが
"友達だから"聞かれたくないと言われればけしてショックだけではないからだ。
「どうする?」
ジョミーはシロ絵に再度視線を向けて問う。
「勿論付いていきますよ」
シロエは睨みながら言った。
歩きながらジョミーは口を開く。
「先ほども言ったけれど、マザーにはあまり敵対意識を持たないほうがいい」
けれど、先ほどのようにシロエは怒鳴ったりはしない。
敵に感情を露にするなど愚の骨頂だからだ。
「さすが、記憶を無くしていない人は違いますね」
「・・・・」
(またこの顔だ)
シロエは言葉を失ってしまう。
記憶のことに触れるととても痛そうな顔をする。
それは本当に辛そうで、嫌みを言う事にどうしても気が引けてしまう。
無言のまま、二人は歩くことになった。
それ程距離の無い通路が、
・・・・とても長く感じられた。
コメント***
早く仲良くな〜れ。
現在シロエにとってジョミーは敵になってしまっています。
微妙に、ですが・・・。
次で邂逅すると良いです。
キースが・・・あっさり置いていかれた。
ちゃんと後でまた出てきますよ。
とりあえずシロエとジョミーを仲良しさんにさせるという
目的を果たしたいです。
エリートの部屋が入室うんぬんは気にしないで下さい。