僕らの学舎E-1077(6)
「一切記憶を失っていない・・・?」
キースに言われた台詞が口から零れた。
そんな馬鹿な!と思う。
成人検査で子供たちをマザーに靡かせるためには
どうしたって寂しさを与える必要がある。
それなのに、まったく記憶に触れないなんて有り得るはずが無い。
「キース・アニアンのお友達?」
マザーがその為に記憶を奪わなかった?
キースと対照的なものの実験?
そうだ!
そうに違いない!!
マザーシステムに抵抗できる人間などいよう筈もない以上
それ以外考えられない。
そう考えると怒りが沸々と込み上げた。
それと同時に哀れみも感じる。
所詮、彼もマザーの道具に過ぎない。
自分だけが特別に記憶を無くさなかったと思っているだろう。
だからあんなことが言えるんだ
『あまりマザーに敵対意識を持たないほうが良い』
だなんて。
「記憶を無くす辛さをしらないから」
でも、去り際の一言がどうしても気になる。
とても大切なことのような気がする。
『ごめん・・・ぼくにはその気持ちはわからないんだ・・・』
と言う台詞。
それは本当に知らないものの声だったか?
怒りにのまれて見落としていないか?
感情任せの行動はマザーに足下をすくわれる要因になる。
ちゃんと考えろ。
俯いて見えなかった表情。
言葉と同時に逃げ出すように走り出した彼。
そこまで真っ直ぐ顔をあげていた彼が何故俯いた?
何故逃げるように走り出す必要があった?
(わからない・・・彼は何者だ?)
「よし!」
気合いを入れ直すと、シロエは机に残った食器を片付け初めた。
全員分。
勿論意味がある。
片付けをしなかったことに対する抗議を理由に《話しをする》為だ。
そして片付け終わるとその足でキースの部屋絵と向かった。
何故キースの部屋なのかは簡単だ。
つい先ほどまでまったく興味が無いどころか
存在さえ認識していなかったジョミーの部屋など
知っているはずもないからだ。
キースの部屋の前に行くと、在室中の表示が出ていた。
「先輩、失礼していいですか?
後輩として言っておきたいことが・・・・」
だが、呼びかけにキースの返事はない。
「先輩?いらっしゃらないんですか?」
居るはずだとわかっているのに、念の為にもう一度呼びかける。
やはり返事はない。
「入りますよ?」
(鍵がかかっていなければ、ですけど)
思いながら扉に手をかけると、予想に反して簡単に開いた。
(不用心だな・・・。
まあ、このステーションで用心することなんてあまり無いですけどね。
とくにこの部屋は。)
そんなことを考えながら入るとすぐに部屋の主の背が見えた。
こんなに近くにいるのに、呼びかけに返事も返さないとは失礼な。
少し腹が立ちながら口を開く。
「キースせん・・・」
呼びかけようとして・・・しかしシロエは固まってしまった。
キースが、ジョミーを自分のベッドに押さえつけて
更にその上に伸し掛かっていたからだ。
ジョミーはキースの腕から抜け出そうとしているのか
必死に身をよじっている。
「何やって・・・・?」
「シロエ!!?」
シロエの驚き交じりの呟きに反応したのはジョミーだった。
ぽかんとしているシロエを見て慌ててジョミーはキースを叩く。
「キース、シロエだ!
客人だぞ!!とにかく放せ!!」
その言葉に、しかしキースは腕を放さず、顔の動きでシロエを見止める。
「シロエ?どうかしたのか?」
普通に返してくるキース。
この状況ではある意味異常だ。
「どうかって・・・お二人には何を?・・・」
「大したことじゃない」
キースの呟きにジョミーが叫びをあげる。
「キース!寝台の上で接客なんて失礼だろ!!」
「だが放せばお前は逃げるだろうが」
「逃げるわけじゃない!!」
言い合いながらベッドの上でもみ合う二人。
キースは正直シロエの相手をまともにしていない。
だが今のシロエはその事に怒りを感じたりはしなかった。
・・・そんなこと気にならなかった。
「あの、お二人の趣味にケチを付ける気はありませんので・・
また後で来ますから、その時はちゃんと聞いて下さいね」
シロエは言葉が見つからなくなったのか
それだけ言い残すとくるりと背を向けた。
「シロエ!待ってくれ!!」
ジョミーの叫びと、人の肉体が打撃を受けたような音が伝わった。
コメント***
自分で使ったものは自分で片付けましょう。
置いていかれたシロエはちゃんと考えた後行動開始。
彼は思考波に見えますがかなり行動派だと思います。
シロエは未だジョミーを掴みかねています。
キースはジョミーが大事なんですよ。