僕らの学舎E-1077(3)
コールが、なった。
一瞬身体をビクリと強張らせたシロエだが、すぐに自分ではないと知る。
「ありゃ、コールだ」
目の前の人物が頭を掻きながらぼやいたからだ。
「おまえは、また何かしでかしたのか?」
キースは呆れたように溜め息をつく。
「んー、今回はまだ帰ってからそんなに経ってないから
帰ってきてからの報告義務の放棄と
あと、ちょっと道端で研究員の顔にサッカーボールをぶち込んだくらいだと思うよ」
その言葉に再度キースは溜め息を漏らし、シロエはぎくりとする。
「帰ってきたばかりで既にそれだけコールを受ける原因が出来ているのか」
「それは・・・」
キースとシロエが同時に言葉を発するが、キースの方が声が強く
シロエの声はかき消されてしまった。
シロエは再度言い直そうと口を開く。
「あの、その研究員の・・・」
言いかけたところで、突然キースがシロエを降ろす。
「うっわ・・」
「もう立てるようだな」
それはそうだが、いくら何でもいきなり過ぎだ。
「キース、せめて一言断ってから下ろしなよ」
「立てるようになったのは本人が自覚しているだろう?」
「だからっていつ下ろされるかはっきり分る訳ないだろ!」
「そうか?」
「そうだよ!まったく・・・
お前と関わるとろくなことがない。
大丈夫?」
心配そうに見下ろしてくる瞳を、逆に心配そうに見返す。
「はい。あの・・・さっきのコール・・・」
ああ、と理解したのか、
「大丈夫だよ、ぼく呼び出しの常習犯だから」
笑顔で言いながらシロエの頭を撫でる。
「残念なのはサッカーボールを使ってしまったから
あのコケシモドキに一発くれてやれないことかな」
「コケシモドキ?」
キースが謎に思って問い掛ける。
「ああ、マザーイライザのことだよ。
どうもテラズナンバーのイメージが強すぎて
マムとかの顔で出てきてくれないんだ」
その言葉にキースは不穏な何かを感じた気がした。
「一発とは?」
「形が・・・上手く当てたら転がりそうな感じで・・・」
その言葉にキースは頭を抱える。
「馬鹿かお前は、意識の中の相手にそんなことをしてどうする」
「うん、だからマザーイライザ像に直接・・・」
「お前は・・・行くな・・・マザーへの報告は俺がしておいてやる」
「本当!?わーキース頼りになるなあ!!
きみと友達で良かったよ!」
キースの手を両手で握りしめながら笑顔で友達宣言。
「先程、ろくなことがないと言っていなかったか?」
「気のせいだ」
キースは何度目かの溜め息をついた。
キースがその場を離れる。
シロエは目を白黒させていた。
公共の場で堂々とマザーに一発宣言をする人物など知らない。
はっきり言わせてもらえば
(馬鹿じゃないのか?)
だ。
だが見上げる先の顔も表情も馬鹿とは思えない。
しかも、どうやらマザーの申し子、キース・アニアンとは仲が良いらしい。
この人がどういう人物なのかさっぱり理解できない。
視線に気づいたのか、笑みを浮かべながら見返してきた。
「そう言えば自己紹介していなかったね。
ぼくはジョミー・マーキス・シン。
ジョミーで構わないよ」
言って伸ばされてくる手を握り返しながら、シロエも自己紹介をする。
「セキ・レイ・シロエです。
シロエと呼んで下さい」
ジョミー・マーキス・シン・・・何処かで聞いた名だ。
「そうか、シロエ。
じゃあ一緒にお茶でもしようか」
「は?」
「実は任務から戻ったばっかりでお腹が空いてるんだ。
一人で食べるのもなんだから、付きあってよ?」
「構いませんけど・・・」
漸くシロエは思いだした。
ジョミー・マーキス・シン。
『キース・アニアンのお友達の一人』。
散々マザーにコールを受ける一般人。
そう思っていたから、なかなか繋がらなかったのだ。
この目の前の人物と、ジョミーという人物が。
(少し、興味が涌いたな・・・)
シロエはビスケットを摘みながら少し驚いたような顔で
目の前の人物を見遣る。
「よく、食べますね」
そう。ジョミーはよく食べた。
その身体の何処に入るのかと思うほどに。
普通に大盛りのランチ一食分を食べた後、更にデザートを3人前は食べている。
「うん、動くとお腹が空くから」
糖の摂取は大事なんだと言いながらおいしそうに食べていく。
いや、それにしたって・・・。
「それは?」
ジョミーの横の席には小さめなサラダボールと
先程ジョミーがデザートのお替わりを取りに行くときに一緒に持ってきた
珈琲が置かれている。
「ああ、これは・・・」
言いかけたところで第三者が現れた。
シロエはあからさまに眉を顰める。
当然のようにサラダボールの置かれた席に座り、珈琲を手に取る。
「いつもながら、よく俺の戻る時間がわかったな」
キースは言いながらサラダボールも引き寄せた。
「なんとなく、ね」
言って、ジョミーはデザートの最後のひとくちを口に放り込んだ。
食べ終わって落ち着いたのか、お茶を啜りながらシロエに視線を送る。
「ところでシロエ」
キースを睨んでいたところにいきなりジョミーに真顔で呼びかけられて
ドキッとするが、シロエは何を言われるのか興味があったので
すぐに真顔で向き直った。
「なんですか?」
「あまりマザーに敵対意識を持たないほうが良い」
「なっ!」
だが言われた言葉がとんでもないものだった。
「貴方に言われたくないよ!
貴方だってマザーに敵対意識持ってるんでしょう!?
だからあんなことを・・・」
バンッ、と机をたたく。
中身の入っていないジョミーのティーカップがかちゃりと音を立てた。
ジョミーは僅かに動いたカップを戻しながら、落ち着いた声で続ける。
「ぼくは別にマザーと敵対する気はないよ。
ちょっとした子供の悪戯のようなものだ。
マザーもそれはわかっていると思う」
「!」
シロエはショックを受ける。
ジョミーから、こんな台詞を聞きたくなかった。
「せっかく、飼いならされた羊じゃない人に会えたと思ったのに!!
ぼくは忘れない!!
ぼくの大事な両親の記憶を消そうとするやつへの憎しみを!!」
「両親の記憶・・・」
「そうだ!貴方だってわかるはずだと思ったのに!!」
ようやく見つけたと思ったのに。
だが怒りを露に叫ぶシロエにジョミーは俯いて一言だけ呟いた。
「ごめん・・・ぼくにはその気持ちはわからないんだ・・・」
コメント***
シロエとジョミーが仲よくなっていない・・・です。
シロジョミを期待された方済みません。
キースは完全無視?な感じですが
次の話でちゃんと戻ってきた意味を出します。
サムとスウェナもまたちゃんと出したい・・・。
シロエとジョミーはきっと仲よくなると信じたい・・・です。