僕らの学舎E-1077(1)
「サム!」
キースとサムがスウェナ達を救出して、
キースとサムが互の友情を確かめあっていたところに、
サムを呼ぶ声が響いた。
キースを褒める声はあちこちで聞こえても
サムを呼ぶ声は余り聞かれないので、皆がそちらに目を向ける。
そこには明るい日の光を一杯に受けたような金髪と
瑞々しい爽やかな草原を思わせる瞳を持った人物が一人。
勢いよく人集りに向かって翔てくる。
キースは目を瞠った。
このステーションで、これほど意思を宿した者を見たことが無かったからだ。
「ジョミー!」
その姿を認めたサムもそちらに向かって走り出す。
まるで子供のように二人は飛びつき、抱きあった。
「久しぶり、サム!!」
「ああ!本当に!!」
「凄い頑張ったんだってね!!
サムって名前聞いてもしかしてと思って飛んできたんだ!!」
「そりゃもう頑張ったぜ!お陰でお前と再会できたんだから
頑張った甲斐があったってもんだ」
「もう、二人とも私は無視?」
そこにスウェナが少し剥れたように歩み寄った。
その姿を認めてジョミーがサムから少し離れて目を見開く。
「スウェナ!君もこのステーションに!?」
「ついさっきね。サムとキースに助けられたの」
「そうか!よかった!!」
「きゃっ」
言いながらジョミーは今度はスウェナに抱きついた。
「相変わらずね、ジョミー」
勢いよく抱きつかれて驚きはしたが、そんなジョミーの反応が嬉しくて
スウェナもジョミーを抱きしめる。
「サム」
「ああ、キース」
新たな人物の登場に、ジョミーはスウェナから離れてそちらに目を向ける。
「紹介するよ、ジョミー。
コイツはキースってんだ。
俺と一緒にステーション入りしたやつなんだ。
でもってコイツがアタラクシアで一緒だったジョミー。
幼なじみってのは前に話したよな?」
「ああ」
サムの言葉にキースは頷く。
「キース・アニアンだ」
言いながら差し伸べられる手をジョミーは握り返す。
「ジョミー・マーキス・シン。
キース・アニアンって名前はよく聞いているよ」
笑顔で輪を作る4人に、遠くから微かな囁きが聞こえた。
(問題児のジョミー・マーキス・シンと親しくなるとは
キース・アニアンの先も見えたな)
ビクリとしてジョミーは慌ててキースから手を離そうとする。
だが、その手が離れることはなかった。
キースがしっかりと握ってきたからだ。
「下らない中傷など気にするな」
キースの言葉に、サムが更に続ける。
「そうそう、お前らしくないぜジョミー。
いつだって先生に呼び出されて怒られてたくせに」
「ジョミーったら、まだ問題児なの?仕方ないわね」
スウェナもくすくすと笑いながら続ける。
「な。何だよそれ!ぼくがいつでも問題児みたいじゃないか!!」
「違わないだろ〜?」
サムも笑っている。
「もう!」
だがジョミーはキースの言葉とそんな二人の反応が嬉しかった。
だから一緒になって微笑んでしまう。
「みんなが来てくれて、よかった」
「なんだよそれ〜、それじゃおれ達の立場はどうなるんだよ」
そこに更に別のメンバーが集まってきた。
「そうそう、オレ達はいつでもお前と友達のつもりなのに」
「全くだ」
言いながらジョミーの頭を軽く小突く。
「ご、ごめん」
小突かれた頭を軽く擦りながらジョミーは謝った。
ジョミーは一部の者には不評のようだが
そうでない沢山の人々に好かれていた。
「あいかわらず、お前の回りに人は堪えないな」
サムは安心してまた笑った。
「うん、みんな良いやつばっかりなんだよ!」
人を集めているのはジョミーなのだが、
ジョミーは周りがいい人ばかりだから
問題児でも仲良くしてくれていると思っているらしい。
「お前はそんなに問題行動を起こしているのか?」
ジョミーの態度が気になり、キースは訊ねた。
「ジョミーは別に何も悪いことはしてねーよ!」
キースの質問にムカツきを覚えた一人が食ってかかる。
「そうだ、お前みたいな機械人間とは違うんだからな!」
「ちょっ!その言い方は・・・」
慌ててジョミーが止めに入る。
「あ・・・・」
止められて、落ち着きを取り戻した一人が気まずそうに声を漏らす。
別にキースを批判したかったわけではないのだから。
その様子を見てジョミーは大丈夫だと思い、キースに向き直る。
「ごめん、言い方は悪かったけど
コイツもきみを責めたかったわけじゃないと思うんだ」
その言葉にキースは軽く首を振った。
「気にしていない。
それより此方の質問には答えて貰えるのだろうか?」
ジョミーはその言葉に逡巡し、意を決したようにキースを見上げた。
そして手を使ってキースに耳を寄せるように促す。
促されるままにキースはジョミーに顔を寄せた。
「これは、一部の人しか知らないんだけど・・・
ぼくは成人検査前の記憶を一切無くしていないんだ」
「!馬鹿な!!」
撥ねるように顔をあげながらキースは叫んだ。
驚かずにはいられない。
300年間、全く記憶を欠如しなかった例など一度もない。
「本当さ。
だからステーションでの教育がおぼつかないのか
しょっちゅうマザーにコールを受けたり・・・・・」
そこでジョミーは言葉を濁す。
「受けたり、なんだ?」
「いや」
何でもないというように軽く首を振って、
「しょっちゅうマザーにコールを受けたり教授に怒られたりするんだ」
やれやれと溜め息をつきながら、ジョミーは言葉を続けた。
「まあ実際実技だけだもんなジョミーは」
「何だよそれ!実技は良いって事だろ!!」
「ものは言い様ってね」
「まったく!それに成績だって悪いわけじゃないぞ!!」
「歴史はかなり悪いけどな!」
「うるさ〜い!!」
ジョミーは逃げ回る生徒達を追いかけて走り出してしまった。
「お、おいジョミー」
「あ、サム!また後でね!!」
慌てて声を掛けるサムに叫びながら、ジョミーは足を止める事無く言ってしまった。
「ったく、仕様が無いやつだよ本当に」
「でも変わってなくて・・・何だか安心したわ」
「確かに」
ジョミーは本当にアタラクシアにいたときのままだった。
笑顔の二人の横で、キースだけが固めた表情を崩せずにいた。
記憶を、一切無くしていない・・・だと?